2026.06.08
社員インタビューAIで33名の選手名鑑を量産!オイシックス新潟アルビレックスBCが実践する「推しの選手をつくる」仕組みとは

プロ野球のチームが、選手全員の「選手名鑑」をデジタルでつくる——。
そんな取り組みを実践しているのが、NPBファーム・リーグに参加しているプロ野球チーム「オイシックス新潟アルビレックスBC」(以下、オイシックス)です。チームのマーケティング担当である池野成さんを中心に、「タレントブック・ストーリー」の社員インタビューAIを活用した選手コンテンツの制作・発信を今シーズン本格的にスタートさせています
普段、練習や試合で忙しい選手のストーリーをどのような仕組みで量産し、また公開したストーリーをサポーターとのコミュニケーションにどう活かしているのでしょうか。池野さんへのインタビュー内容を元にまとめました。
なぜプロ野球チームが「選手のストーリー」制作に取り組むのか
オイシックスは2024年にNPBのファーム・リーグに参加。
読売ジャイアンツや東京ヤクルトスワローズなど、NPBの有名チームの二軍相手に戦う特殊なプロ野球チームです。
チームは、プロ野球の「ドラフト会議」で指名漏れしてしまった選手や、プロでの輝かしい実績がありながらも戦力外通告を食らった選手が集まっています。
再起をかけ、もう一度NPBの世界を目指すつもりでグラウンドに立つ。そんな選手たちのドラマがあります。
発信することの意義について、マーケティング担当の池野さんはこう語っています。
「オイシックスの選手はNPB(日本野球機構)のドラフトにかからなかった選手、戦力外になって入ってきた選手など。エースも含めてみんなどこかで挫折をして打ちにきている選手ばかりなんです。ジャイアントキリングをテーマに、各選手もチームとしても、下剋上の気持ちを持ってプレーしてくれているので、選手のストーリーをしっかり伝えていきたいと思っています(池野さん)」
目的は大きく2つ。ひとつは、まだチームを知らない人・試合に足を運んだ新しいサポーターに選手のことを知ってもらい、「応援したい」という気持ちを醸成すること。もうひとつは、メインスポンサーであるオイシックス・ラ・大地(以下、Oisix)の社員に対して球団活動を伝える社内広報としての機能です。
物理的に離れた東京の社員たちにチームの空気を届けるために、社内から5〜6名の「応援メンバー」も取材に加わるという、チームを巻き込んだ体制で運用されています。
全47選手をコンテンツ化する体制と制作フロー

▲各選手の背番号と共に選手名鑑のように並ぶストーリーページ
https://www.talent-book.jp/albirex-bc
タレントブック・ストーリーを活用し、今シーズン開幕前の時点で、在籍する47名の選手のうち35名以上のストーリー記事が完成しています。いわば、チーム全体のデジタル選手名鑑がタレントブック・ストーリー上に構築されつつあります。
では、どのように制作しているのでしょうか。
取材はオンラインが基本です。春季キャンプ中にチームが同じホテルに滞在するタイミングを活かし、選手1人ひとりとオンラインでつないでヒアリングを行いました。ヒアリングを担当するのは池野さんだけでなく、前述のOisix社内の応援メンバーも含む計6〜7名のチーム。
タレントブック・ストーリーの「社員インタビューAI」を活用し、オンラインのインタビュー音声をダッシュボードに入力して記事を制作しています。ダッシュボードでAIにより生成された記事を元に、最終的な校正と品質チェックを池野さんが担う、というフローが確立されています。
早いケースでは取材から3日後には公開できることもあるといいますが、品質管理において池野さんが特に気を遣っているのは、固有名詞の正確性です。
自主トレで教えを受けた他球団の選手名、対戦試合のスコア、高校野球の試合結果——スポーツ選手のストーリーには、固有名詞や数字が多く登場します。これらはAIの生成結果をそのまま使わず、公式情報を調べて正確に記載します。選手本人に確認しながら直すこともあります。「事実に基づいて書く」という徹底が、選手からの信頼と記事のクオリティを担保しています。
「ルーキー」と「2年目以上」で質問設計を変える工夫
取材のクオリティをさらに高めているのが、選手の属性ごとに質問構成をカスタマイズするという工夫です。「社員インタビューAI」では属性や目的にあわせた質問フォーマットも複数用意していますが、必要に応じてカスタマイズした質問項目を設定することが可能となっています。
池野さんは、質問テンプレートを大きく「ルーキー向け」と「2年目以上の選手向け」の2パターンで設計しています。
ルーキーはまだ球団での経験が少ないため、学生時代のエピソードを中心に深掘りする構成を取ります。一方、2年目・3年目の選手には、入団してからの経験や昨シーズンを振り返る質問を加えます。さらに、今いる選手のことを把握しているからこそ、「◯月◯日に初勝利を挙げた試合は今振り返るとどうでしたか」といった具体的な固有名詞を含んだ質問を事前に準備しています。

章立ては「タレントブック・ストーリー」の基本フォーマットに沿って4章構成。現在の状況・強みを伝える「現在軸」からはじまり、野球を始めた幼少期から学生時代・入団までを語る「過去軸」、そして今シーズンの目標やサポーターへのメッセージで締めます。取材は一度フォーマットを作れば運用できるため、多くの選手をスピーディに記事化できているといいます。
「推しの選手を作る」ことが、リピーターを生む
池野さんがこの取り組みで目指しているのは、単なる情報発信ではありません。選手のことを「知る」から「応援したい」につなげる体験設計です。
その発想のベースになっているのが、Bリーグ・川崎ブレイブサンダースの成功事例です。ブレイブサンダースの来場者調査によれば、リピート率に最も相関する要素は「詳しい人と試合を見に行く体験」と「推しの選手ができること」の2つだといいます。
池野さんはこのデータを参考に、選手を深く知ってもらうコンテンツを球団主導で整備することに価値を見出しました。
「これまでは本人の活躍度とファンサービスによって、時間をかけて人気が上がっていくという流れだったんですが、それをもう少し球団主導で加速させる仕組みが作れないか、と考えていました。そこにタレントブック・ストーリーがうまく活用できるのではないかと思ったのです(池野さん)」
NPBの第一線として活躍してきた有名選手と、NPBを経験していない大卒・高卒ルーキーとでは知名度の差は大きいです。しかし選手の人となりや姿勢、プレーに共感・感動し、NPB経験者に負けず劣らずのファンがつくケースも出てきているといいます。これは選手にとっても励みになる成果です。
届け方の工夫──試合の前後でタッチポイントを複数設置

せっかく記事を作っても、届かなければ意味がありません。池野さんが構築しているのは、オンラインとオフラインを組み合わせた導線設計です。
記事公開のたびにXとInstagramのストーリーズで発信し、リンクへ誘導。公式サイトのトップバナーにもタレントブック・ストーリーへの導線を設置しています。
そして今シーズンから新たに始めたのが、選手カード配布です。入場口で、talentbookのストーリーに遷移するQRコードつきの選手カードを手渡ししています。試合中、打席に立っている選手を見ながら「この選手、どんな人なんだろう」と思ったとき、すぐに記事を読んでもらえる導線を作ります。
「試合中に気になった選手を調べるために、このQRコードを読んでもらえると、『この選手はこんな思いで打席に立ってるんだな』と知ってもらえる。応援したいと思ってもらうきっかけになればいいですね(池野さん)」
さらに球場内の壁面には、タレントブック・ストーリーに飛ぶためのポップが多数掲示されています。試合観戦という体験の中に、選手を深く知るタッチポイントをいくつも仕込んでいく——そのアプローチは、エンタメ・コンテンツ業界のタレントマネジメントと発想がよく似ています。
他のスポーツ球団が参考にすべき「3つの設計」
オイシックス新潟アルビレックスBCの事例から、スポーツチームがタレントブック・ストーリーを活用する上で参考になるポイントを整理します。
① 「だれに届けるか」を複数設定する
選手のストーリーは「サポーター向け」だけでなく、スポンサー企業への社内広報や、新規来場者への訴求など、受け取り手を複数想定することで活用の幅が広がります。社内の応援メンバーを取材に巻き込むという発想も、コンテンツを「自分ごと」にさせる仕組みとして参考になります。
② 選手の属性で質問設計を変える
「ルーキー」「2年目以上」という実態に合った分け方で質問テンプレートを設計しましょう。社員インタビューAIへのインプットの質が上がることで、生成されるストーリーの精度が高まり、修正工数も減ります。
③ コンテンツとリアル体験を接続する
SNSやウェブサイトへの露出だけでなく、試合会場というリアルの場でQRコードを活用し、「選手を見る体験」と「選手のことを知る体験」をつなぎましょう。動画や写真とは異なる文章コンテンツだからこそ、「試合の合間にじっくり読む」という読み方ができます。
取り組みはこれからが本番
記事制作はほぼ完了し、チームはこれから本格的な「活用フェーズ」へと移行しつつあります。選手カード配布やポップ掲示、SNS発信を組み合わせながら、コンテンツがどう新規ファン獲得につながるかを検証していく段階です。
「選手のストーリーを深く知ってもらうことが、応援したいという気持ちをつくる」——その仮説を証明するためのフィールドが、今シーズンの新潟に広がっています。
▼「オイシックス新潟アルビレックスBC」のストーリーを読む
https://www.talent-book.jp/albirex-bc
本記事は、オイシックス新潟アルビレックスBC・池野成さんへのインタビューをもとに構成しました。


