株式会社コンカー代表取締役社長 三村真宗氏と一般社団法人at Will Work 代表理事 藤本あゆみ氏をお招きし開催したイベント「re:Culture #4」のレポートの前編です。企業・個人・社員の働き方の醸成や働き方の選択、企業と従業員のコミュニケーションの在り方など、企業カルチャーにまつわるテーマを中心にお話しいただきました。
INDEX
◆登壇者 -スピーカー
株式会社コンカー代表取締役社長
三村 真宗氏
1969年、東京都出身。 SAPジャパンに13年間勤め、ビジネス・インテリジェンス事業本部長、社長室長、戦略製品事業バイスプレジデントなどの要職を歴任。マッキンゼー・アンド・カンパニー、米ベンチャー支援企業を経て2011年10月より現職。コンカーの日本法人立ち上げ後、社員の「働きがい」を支えるための施策を自ら先頭に立って数多く実施。 2018~2020年には日本における「働きがいのある会社ランキング(中規模部門)」で3年連続の1位を獲得。 売上においては、2017年に欧州の主要国を抜き、日本を米国に次ぐ世界第二位の規模となる市場とするなど、グループ内での日本支社の存在感の構築にも貢献。
一般社団法人at Will Work 代表理事
藤本 あゆみ氏
大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職、マネージャー職を経て2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPR マネージャーとしての仕事を経て、2018年3月よりPlug and Play株式会社でのキャリアをスタート。現在は執行役員CMO としてマーケティングとPRを統括。
-モデレーター
株式会社PR Table 取締役
大堀 航
大手総合PR会社の(株)オズマピーアールを経て、国内最大のオンライン英会話サービスを運営する(株)レアジョブに入社。PRチームを立ち上げ、2014年6月に東証マザーズ上場に貢献。2014年12月、(株)PR Tableを創業。
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大堀航(以下、大堀):本日は4回目のre:Cultureです。社会環境や経営環境の変化、そして個人のライフスタイルの変化が大きく変化している中で、企業・個人・社員の働き方の醸成や働き方の選択、企業と従業員のコミュニケーションの在り方など、企業カルチャーにまつわるテーマを中心に、皆さまの業務や考え方への示唆を、ぜひご参考に頂ければなと思っております。
さっそく、キーノートセッションを進めさせていただきます。まず、登壇者のご紹介です。
三村真宗氏(以下、三村):皆さん、こんにちは。コンカー代表の三村と申します。
私は、10年前からコンカーという会社の社長を務めておりますが、働きがいを経営戦略の軸に据え、社員を大切にする経営を続けています。結果として、働きがいのある企業ランキングで過去3年連続、中規模部門で1位を頂戴しております。
また、女性部門でも昨年1位、そして新設された若手部門でも1位ということで、3部門で1位。当社での働きがいの取り組みが、外部機関からも評価されているということで、今回、大堀さんにお声掛けいただきまして、登壇させていただく機会を頂戴しました。本日はよろしくお願いいたします。
藤本あゆみ氏(以下、藤本):皆さん、こんにちは。藤本と申します。今日は、主にat Will Workの代表として、こちらでお話をさせていただければと思っております。5年間限定の社団法人として、2017年から実施しておりまして、実は今年2021年が最後の1年になります。設立は平成26年なので、今年が最後です。
5年間でどれだけ働き方の選択肢が変わるか、広がるかというところにチャレンジする社団法人として立ち上げました。私たち自身が何かをするというよりは、いろいろな方々の情報を、それを必要としている人たちにお伝えしていくということをやっており、年1回の大きなカンファレンスとアワードをやっています。
実は、PR Tableさんにはアワードの仕組みを監修いただいていて、大堀さんとは初回のセッションで「なぜこれをやるのか」ということをお話させていただきましたし、三村さんにもご登壇をいただいていています。
もう一つメインでやっているのが、Plug and Play Japanというシリコンバレーのベンチャーキャピタルとアクセラレータの会社で、執行役員として仕事をしています。やはり経営陣としても、この状況下で「どうやって働き方を良くするのか」「働きがいを醸成していくのか」というところは、実践し、学びながらやっているところです。今日はいろんな観点でお話ができればと思っています。どうぞよろしくお願いします。
大堀:ありがとうございます。僕も、事前に三村さんと藤本さんとミーティングをさせていただきました。コンカーさんのきめ細かいアクション、それをしっかりとPDCAを回していくところは、非常に勉強になりました。今日は、そういった観点からぜひお話を頂ければと思っております。よろしくお願いいたします。
大堀:では、さっそくセッションに入ります。本日は『個との関係性の変化から紐解く、企業カルチャーの「これまで」と「これから」』という大きいテーマになります。
キーワードとしては「生産性」「コミュニケーション」「採用/育成」「働き方の選択」「働きがい」「多様性」という六つに集約されているかなと思います。こうしたキーワードを頭に入れていただきながら、ぜひ進めていければと思います。
具体的には、次の三つのテーマで進めていきます。「①働き方の選択は企業/個人の生産性を高めるのか?」「②テレワーク下での採用/育成方法をどう考えるべきか?」「③多様性と働きがいを両立する企業カルチャーの醸成とは?」という観点で、三村さま、藤本さまとお話をしていければなと思っております。
働き方の選択は企業/個人の生産性を高めるのか?
大堀:トピック①「働き方の選択は企業/個人の生産性を高めるのか?」というテーマです。本当に多くの大企業さまを含め、当社においても、働き方というのはかなり強く意識しているポイントかなと思っております。
まさに、コンカーさんは、この働き方というところに、長年取り組まれているところです。まず、この企業・個人の生産性という観点で、これまでどのようなアクションをやられていて、どのような課題観、社員の方々の反応があったのかをぜひお聞かせいただければと思っております。
三村:実は私は、働き方の選択に関して、以前は割と保守的な考えを持っていました。
基本的には、9時-18時で会社に来て、皆、同じ職場で働く。そのことによって、同じ空気を吸い、コミュニケーションを活性化し、働きがいを高める。こういう方針でした。それが、今回のコロナによって在宅勤務を余儀なくされました。、実際に始めてみると、コミュニケーションのレベルもそれほど落ちず、人によっては子どもの送り迎えをやってから働いたり、家事を済ませてから夜に仕事をしたり。
コロナ以降、働き方のフレキシビリティが非常に上がってきています。だから、生産性を高めるかどうかで言えば、間違いなくイエスです。さらには、生産性ばかりではなくて、社員の生活の質・ライフスタイルの質は、明らかに上がってきていると感じています。
経営陣と社員の距離が縮まったコロナ禍での取り組み
三村:他にも、色々な取り組みをやっています。例えば、コミュニケーション。
在宅になると副作用としてコミュニケーションが弱くなり、全社員が同じ空気を吸うという時間がなくなってしまったので、緊急事態宣言が出た翌日から、週次の全社ミーティングをはじめました。
これはちょっと青臭いのですが「絆ミーティング」と呼んでいます。業務の話というよりは、私が普段考えていることを話したり、笑っていいとも方式で社員にきてもらって、インタビューを通じてその社員の人となりを分かち合い、そして社員が次の社員を紹介するとか、そんなことをしています。
そうすると面白いことが起こりました。Great Place to Workのランキングは、社員によるアンケート結果で決まる面が非常に大きいです。色々な指標がありますが、その中の一つに経営者との距離感という指標があります。これが、最初にエントリーしたときには、ほぼ100%「距離が近い」という回答でしたが、毎年非常に早いスピードで会社の規模が大きくなっているので、この数値がどんどん下がってしまった、つまり、社長である私との距離感がどんどん開いていったんです。
それが面白いことに、今年の夏に調査した結果、この数値が急上昇していました。コロナになって、直接、顔と顔を合わせてコミュニケーションはできなくなりましたが、絆ミーティングを通じて、私が普段何を考えているのかということが社員によく伝わるようになり、距離がだいぶ縮まったようです。
大堀:なるほど。時間や企画面を含めて、経営チームとしてもかなり投資をした結果という印象を受けました。そこは、三村さんご自身、経営メンバー、チーム全体でつくっていったものなのでしょうか?
三村:そうですね。Great Place to Workジャパンの方がおっしゃっていましたが、コロナになって、総じてスコアが下がっているようなんですね。しかし、当社の場合、スコアがコロナ前とほとんど変わらなかったんです。これは、働きがいを軸において、いろいろな施策を持続性のある形で回し続けている結果、その積み上げがコロナ禍になって生きた結果だと思っています。
大堀:なるほど。皆さんが下がってきているという中で、まさに、コンカーさんのアクションは素晴らしいなと思いました。これは、他の企業でもできることなのか。なかなか難しく、苦戦していることなのか。ぜひ、藤本さんにお伺いしたいなと思います。
藤本:基本的には苦戦している会社のほうが断然多いと思います。1回目の緊急事態宣言と2回目の緊急事態宣言で、けっこう変えているところもあれば、1回目で「これはまずい!」と整備して、そこでちゃんと準備をしたから2回目でできるようになったという会社もいらっしゃいます。
ほとんどは、1回目で慌ててやったけれども「これだとちょっと立ち行かない」と言って、2回目はやっていなかったり、やめてしまったり、あとは余計に困っているという企業のほうが多いですね。
もちろん、大きな規模の企業さんのほうが、例えばツールを1個導入するにも、元々、検討期間に1年くらいかけていたものを数カ月で決めなきゃいけないというのは、けっこう難しいんですよね。だから、本当はやりたいけれどもできないという企業さんが多いなという印象があります。
だから、スタートアップや中堅企業さんのほうが、断然有利ですが、規模が言い訳になるというのは違う話です。よくお話をしているのは、部門ごとにやることが変わってくるので、部署ごとに導入してみる、ということ。必要な部門で必要なことをきめ細やかにやっていく必要があります。今、実際にうまくいきはじめたとか、これだったらできるかもと、スモールスタートではじめられている企業さんが多いなという感じはしています。
コンカーさんは相変わらず素晴らしいなと思います。皆さんのやり切る力と、それを継続されることがすごいなと思います。意外とできないんですよね。ちょっとやって、やめちゃう企業さんが多いです。それを継続することによって、コミュニケーションがどんどん密になってくるというのが、コンカーさんの場合、実践のところにすごく現われていますね。
働きがいの大切さを管理職が理解し、そこから全社へ
大堀:三村さんにお聞きしたいのですが。継続の秘訣や、導入においてはスモールではじめて全社で展開するという工夫はされていらっしゃるんですか?
三村:秘訣としては、経営者の関心ですね。なぜ、私が働きがいの取り組みをやっているか。社員におもねっているからではないんですね。働きがいを高めることで、社員がポテンシャルを発揮することができ、結果、業績に繋がるんです。
これは、体感値として感じています。
マーケティング戦略やマーケティング投資、製品戦略、製品投資、ビジネスにはいろいろな戦略投資があると思いますが、私たちがおこなっているのは「働きがいを高める」という戦略です。
この戦略が、実は本業であるビジネスでの結果に直結するんですね。そのことを経営者が理解できるかどうかだと思っています。
最近、心強いのは、日本で働き方改革が一気に広まったことです。特に大手企業の働き方改革というのは、非常に隔世の感がある変わり方をしているかと思います。働き方改革を終えた大手企業の中でも、ぽつぽつと「働きがいの大切さ」先ほどの方程式を理解する企業が出てきています。
先日も、日本の最大手のとあるメーカーの社長さんに依頼されて、役員向けに当社の働きがいの施策を90分ご説明しました。それを録画いただき、グループ会社も含めて、全管理職に「コンカーの働きがい」について見ていただきました。
当社の働きがいの取り組みは、3つの柱で構成されています。そのうちの一つとして、「フィードバックをする文化」があります。この文化に、非常に深く興味を持っていただきました。大企業なので、いきなり文化を変えるというのは大変ですので、まずこのフィードバックを人事部門でやってみようというお話になり、その企業の人事担当、管理職の方々に弊社のフィードバック研修を3時間半実施させていただきました。私は、最近、何が本業か分からなくなってきているんですけれど(笑)。
大堀:三村さん自ら研修に立たれるんですね(笑)。
三村:そうです。3時間半、話しました。
藤本:すごい。
三村:大手企業も働きがいの大切さを理解する。その会社は全世界でいうと20万人規模の会社ですけれど、当社のような僅か300人規模の外資系から貪欲に学ぼうという意識をお持ちでした。変化というのは一気には起こりませんが、そういった心ある大手企業から、少しずつ変化が起こりはじめているという波を感じています。
藤本:大事ですよね。さっきの人事部門のお話があったんですけれど、JALさんも同じことをお話しされていました。やっぱり、全社員にやろうと思うとすごく大変。航空業界の中では部門もすごく細かく分かれているので、事務職の人と客室乗務員と整備の人と、同じような制度が一気につくれるかというと、そういうことではありません。
でも、働きがいや、働きやすい環境づくりはすごく大事なので、どうしたら良いかというときに、人事の方々がまずは自分たちで試してみて「これだったら、これができる」「これは自分たちには合わない」というふうに、優先順位をつけていくということをやられていました。やっぱり、体験・体感されて、自社のカルチャーに混ぜていくという取り組みはすごく大事だなと思います。
大堀:人事からはじめてみるというのは、全社に合うのか合わないのかという観点でも大事ですね。
在宅勤務になって生産性が落ちてしまう人たちの課題
大堀:ここで質問をひとつ頂いています。①のテーマでは生産性というキーワードがある中で「在宅勤務になって生産性が落ちてしまう人たちは何が足りないでしょうか」という質問です。
生産性が上がるという観点で、まさに今回お話をお聞きできたと思いますが、下がってしまうというところにおいて、何が課題だと想定できるのでしょうか。
藤本:今回のセッションのテーマにも「働き方の選択肢」と書いていただいていますが、人によってけっこう違うと思うんですよ。わいわいがやがやしているところで、すごく集中できる人もいれば、とにかく静かなところで集中できるという人もいます。
私はどちらかというと、がやがやしているほうが好きなので、本当は会社で雑談が聞こえている状態の中で仕事をするほうが好きなんです。自分が、何が生産性が高くなる要素を持っているのか。それが人によって違うというのをしっかり見極めるということ。それに応じて、サポートや、できることをやっていく必要があるのかなと思います。
在宅だから生産性が上がる・下がるという、そんなにざっくりした話ではないのかなと思います。逆に、落ちてしまったという人に「会社にいるときと何が違うのか」ということを聞いてみると、変化の兆しが見えるかもしれません。「じゃあ、会社にこようよ」と、そんな簡単な話ではありませんが、何か違う仕組みを入れたりすることで解決することはできると思っています。
大堀:ありがとうございます。コンカーさんでは、社員の方々の働くスタイルや考え方に応じて、何か個別の対応、仕組みを入れることなどもされていらっしゃるんですか?
三村:そうですね。まず、在宅勤務の前提はディシプリン(自己規律)だと思います。自己規律がなく、周囲の監視がないと手が動かないタイプの人もいます。当社の場合には、幸い、ほとんどいないんですけれど。
また、別の観点ですが、自宅が在宅勤務に適していないという社員もいます。当社は、夫婦で働いている社員も多く在籍しています。聞くと「家が狭いので、テーブルは食卓のテーブルしかない。食卓のテーブルに、夫婦が対面でパソコンを開いて仕事をしている」という状況もあります。
そのため、働き方の選択という観点では、自宅だけでなくオフィスで働く自由も社員に与えています。もちろん、感染状況にもよりますが、「オフィスで働くこと=ネガティブ」ではなくて、オフィスで働くという選択肢も引き続き社員に提供しようと思っています。
藤本:その自律性のところはすごく難しいですよね。人によっては管理されて、与えられたものをこなしていくほうが、生産性が上がるという人もいる中で。
ここのご質問者の方も「業種によって違うということは置いておいて」とおっしゃっていますが、皆「とはいえ、うちはこうだから」と、例外例みたいなことを持ってきやすいと思います。
三村さんだったら、そういう方にどういうアドバイスをされますか?
ちょっと管理もしなきゃいけないけれど、在宅もしなきゃいけないという中で。
三村:我々、コロナ前も在宅勤務を一部OKとしていたんですね。
在宅勤務をOKとしていたのは、結果が数値で分かる職種。具体的にお伝えするとと、インサイドセールス(電話営業)とクライアントサポートですね。それぞれ、荷電や受注、問い合わせの件数が数値で分かります。その後、コロナ禍に入り、全職種に在宅勤務を認めましたが、それぞれの成果は必ずしも数値ではとれません。そういった観点からですと、マネージャーの負担は増えたかなと思います。
弊社では、従来1on1をやっていましたけれども、在宅勤務がメインになってから、きちんと1on1はやるように言っています。数値ではとれない部分を、マネージャーがいかに見るかということが大切になると思っています。
藤本:そうですね。中間管理職の方の大変さが増えたというのは、いろんな企業さんでも言われていますね。
大堀:当社でも、re:Cultureにご参加いただいた企業さんからも、そういったところはあると聞いています。
そこも課題としてありながら、三村さんがおっしゃっていた自己規律と選択肢は、このテーマのかなり大きいポイントになってくるところだと、改めて思いました。一つ目のテーマは終了させていただきまして、次のテーマに行きたいと思います。
※【コンカー×at Will Work】個との関係性の変化から紐解く、企業カルチャーの「これまで」と「これから」 ー re:Culture #4(中編)に続く