◆ 概要 re:Culture #2では、33期連続で増収増益を続け、2015年以降さらにその伸長を加速させている株式会社ニトリホールディングスより理事/組織開発室室長の永島氏にご登壇いただきました。 こちらはレポ―ト第2弾のセッション編となります。
INDEX
※本記事は【Report ~Case Study編~】 ニトリが実践する「個人の成長を後押しする」企業文化の浸透 – re:Culture#2の続編です。
ニトリホールディングス 理事 / 組織開発室 室長
永島 寛之(Hiroyuki Nagashima)
大学卒業後、東レ、ソニーでのマーケティング部署の経験を経て、ソニーUSA出向。
出向先のアメリカでニトリのアメリカ出店に感動し、2013年にニトリへ入社。
2015年より採用責任者と教育責任者を兼任。2019年よりニトリホールディングスの人事責任者へ。
長く携わったマーケティングの顧客視点を人事の現場に導入し、HRテックを駆使した「学びあう組織のタレントマネジメント」を開発。
「個の成長が企業の成長。そして、社会を変えていく力になる」という考えのもと、従業員の価値観や好奇心をエンジンにした施策でホールディングス全体の組織開発と変革の陣頭指揮を執る。
理想の合意形成とは
弊社:ではここから、スライドを使ってディスカッションをしていきたいと思います。私のほうで、今回ポイントになるなと思ったものを三つピックアップさせていただきました。
弊社:まず、ひとつめの「理想の合意形成」です。永島さんのお話の中でも、企業の理想・ビジョンと、個人の価値観・好奇心を繋ぎ込むことが人事のお仕事だというお話がありました。これは本当に言うは易く行うは難しだと思っています。
いろんな方の価値観や好奇心を引っ張り出しても、それが本当に会社の30年後にその人が生かせるものかどうかというと、必ずしも全員がそのままそうではない可能性があります。そのときにご本人も納得して、かつ、会社で活躍できるように、合意形成をはかっていく必要があるのではないかと思います。具体的にどのようにやられているのでしょうか?
永島:これは本当に難しい部分があって。特に伝統的な会社ほど難しいんですよね。安定企業と言われるところは、船に乗って、そのままその船・組織が、個人を目的地につれていってくれる。
皆で運転しようという流れがずっとあったと思うんですね。それが、ここ5年、10年、もうちょっと前、バブルの崩壊とか、そういうところまで遡るのかもしれないですが、崩れてきて。
やはり、まずは、自分・個人のキャリアというのは、会社に預けちゃいけないというのが、今の考え方が主流になってきていると思います。会社によって、どっち側の人が主流を占めているかによって、合意形成のとり方も変わってくるかなと思います。
永島:ニトリの場合は、幸いにして、ずっと、33期連続増収増益という形で成長させてもらっています。その意味でいうと、元々、個人も成長していかないと会社の成長に間に合わないというところがあります。
それはどうやってやってきたかというと、一つは、配転教育です。世の中でも、報酬は金額だけじゃなくて経験の量だという話がありますよね。個人の成長というのが会社の成長になるというのが見えるようにするというのが、僕は大事かなと思います。
そしてもう一つ。30年キャリアビジョンを個人も出しましょうと言っています。僕らのもとに5,000通くらい届いた内容をタレントマネジメントの仕組みに入れて、どういう方向にいきたいかをちゃんと見させてもらって、それに合わせて配置転換したり、ラーニングのレコメンドをしたりしています。ちゃんと繋いでいるということを伝えるのが、最初の一歩だと思います。
弊社:年に2回というのがすごいですよね。相当なエネルギーをかけないとできないことですよね。
個人の価値観や好奇心を言語化するためにやっていること
弊社:今、頂いた質問でこれは関係するなと思ったのですが「個人の価値観や好奇心の言語化に関する工夫や具体的アクションについて詳しく伺いたいです」ということです。
永島:これは非常に難しくて。30年シートの中で今取り組んでいることは、昔は「将来、どの部署に行きたいですか?」とある種、自己申告的なものでした。今は「将来、解決したい社会課題は何ですか?」と、一度大きいところを問うています。
その上で「どういうふうにこの会社を使って、社会課題を解決したいですか?」と、商品づくりなのか、インフラづくりなのか、途上国で何かするのか。そこから部署に落とし込んでいくようにしています。SDGsの項目をプルダウンにして選べる工夫をしました。社会課題を考えるきっかけも提供させてもらったりしています。
弊社:世代によって興味の持たせ方や引き出し方は代わってくると思います。特に、これから中堅層に差し掛かる人たちで、かつ自分の強み・弱みもなんとなく分かってきている人に対して、どういうふうに引き出されるのでしょうか。
永島:世代によっていろいろ手法を変えてしまうと中身も変わってきてしまうので、手法は変わっていないですかね。でもそこは課題でもあるんですよ。やっぱり、ミドルほど回答率は下がってきますので。
例えば、僕は人事放送局・ニトリ大学放送局という番組を毎週やっています。まだ15回くらいなんですけど。それも視聴率を見ていて、どこの年齢層が見てくれているか、そこにアプローチしていくにはどうするかと。やはり、僕らがメディアにならなきゃいけないなと徹底しています。
弊社:ありがとうございます。普段、どうしても目先のことや、目の前の業務に一生懸命向き合っているから、飛躍したテーマ・大きなテーマを問わないと、なかなか本当の部分の価値観や好奇心は引き出せないのかもしれませんね。
ちょっと話が逸れるかもしれませんが、ニトリさんのユニークだなと思っているところは、皆最初に店舗を経験するじゃないですか。永島さんご自身もそうだったと思います。
永島:そうですね。
弊社:それを嫌がる方がいた場合に、どのようにご説明されているのか。もしくは、永島さんご自身もどのように説明を受けたのか教えていただけますか。
永島:入社の段階でそこはしっかり伝えるようにしています。例えば、若い方だったら「店舗というのは、マネジメントとマーケティングが学べる場だ」と、好奇心に合わせるような言語化は大切です。そこは学び放題で、全社員が勉強できるようになっています。
やっぱり、将来やっていきたいことに、今の仕事をちゃんと繋げてあげないといけませんよね。あとは、上司がそれをできるように、さっきのビジョナリーリーダー研修などをする。また、部下が何をやってきた人で、将来何をやりたいか、ツールの中で見れるようにしています。
「あなたの仕事は、部下が今やっている仕事を、過去現在未来と繋ぐことです。それがマネジメントです」みたいな話をしたりしていますね。
僕も採用を2年間やっていたので、思いを持って入ってきてくれた人が成就できなくなるという状況が本当につらいんですよね。だから、そこをどうしようかと、いつも皆で話しています。
弊社:ありがとうございます。いかに、その会社における仕事を魅力的、かつ刺激的に語れる人が多いかどうかが、個人の成長を後押しする文化の正体なんじゃないかと思いました。人事だけが語っても良くないし、上司だけが語っても良くないですからね。
永島:そうですね。仕事ってつまらなくしようと思えばつまらなくなるし、面白いにだって変えられる。つまり繋ぎ方かなと思いますよね。
人事と広報の融合
弊社:「人事と広報の融合」というキーワードについて関連するご質問を頂いています。
「どうして、人に関わるところを人事広報として、広報から切りだそうと考えたのでしょうか?」
やはり広報は緊急対応など忙しくて、手が回らないということもあったと思います。それ以外にも何かあったのですか?
永島:先ほどスライドの中にもありましたが仕事の質が違うんですよね。
本来よくある企業広報の内容と、組織を内外に伝えていく部分は、仕事の質が違うけど、広報という関係で一緒になっています。常に物事が起きたら即対応する仕事と、恒常的ににやっていかないといけない仕事が一緒になっているのは良くありません。
そのため一旦、これは人事で預からせてほしいということでもらい、将来的には、2チームがまた一緒になることで、内容がシームレスになって良いだろうなと思っています。
弊社:ありがとうございます。ニトリの人事広報チームはユニークなケイパビリティを持っているのではないかと思います。これから、いわゆるニトリという会社が労働市場におけるレピュテーションを高めて、プレゼンスを高めていくために、今のチームをもっともっと進化させていくとしたら、どういう新しいチームをつくるのか。どういう新しいスキルや人材が必要だと思いますか?
永島:やはり、マーケティングだとマーケティングコミュニケーションじゃないですか。ピープルコミュニケーションの部分で言うと、冒頭に言いましたが、自分のお客さん「誰に何を伝えなきゃいけないのか」ということをちゃんと意識できる人を人事に増やしていかないといけないと思います。
それは、社員でもあり、求職者でもあり、社員や求職者の関係者でもある。大学の先生で「ニトリはやめたほうがいいよ」と言う人は、昔、多かったんですよ。
「情報学を勉強したのに、なんで家具の販売員をやるんだ?」みたいな話をされちゃって、辞退しちゃうような人もいました。とにかく、いろんな関係者がいて、そこに対して何を打っていくのかということを考えられるようなチームが必要かなと思います。
永島:もう一つ言うと、制度設計。僕のチームの中に、人事制度や評価をつくっていく、そういうチームもあります。
制度って形にするとA41枚だったりするんですけど。その裏側には「こういう人が成長してほしい」といういろんな思いが詰まっています。そこを言語化するのは、制度をつくった人が意外とやりきれなかったりするので、そこを社内にちゃんと伝えていくということが大事ですよね。それが、ニトリ大学放送局とか、新たなメディアになるとか、そういうチームかなと思います。
not未来人材への啓蒙・育成方法
弊社:では最後に「not未来人材への啓蒙・育成方法」です。永島さんから冒頭にご説明いただいたように、採用した方をオンボーディングして、3年くらいかけて徐々に内発的動機などを後押ししていくと思います。
そこのエンプロイー・ジャーニーに乗りきれなかった方たち。もしくは、元々いた社員の方で、そういうプログラムを体験してこなかった方たちなど、全員がニトリの未来人材に向いていない可能性があるんじゃないかなと思っています。
そうした中で、どこまでその人たちを救っていかないといけないのかというご質問を頂いたことがあります。not未来人材という言い方をさせていただいていますけれど、ニトリさんの場合、こういった方たちに対する捉え方はどのようにお考えでしょうか。
永島:今日はいろいろとお話をしましたが、僕自身、本当に未来を考えて走れる人って2割くらいだと思っているんですよ。ほとんどの人がnotなのかなと、実は思います。
自分もこういうことを言う前は、目先のシェアのために仕事をしていた時期もありました。別の会社にいたときもね。だから、そう思ってやらないといけないかなと思うんですよね。
最初の頃、いろんなことをやって、なかなか取り組んでくれる人が少なかったとしても、人事ってそういうものなんですよね。なかなか理解されず、使ってもらえないみたいなものをけっこう社内でもリリースしていたりします。基本的には、そこまで皆さんやらない前提で考えています。
だから、今やっている研修にしても、ほとんど、not未来人材、まだそうなっていない人が対象となる前提でやっていきます。良いものを出したときは、どうしても皆がうなづいてやってくれるものだと考えちゃうんですけど、そうではありません。やらないものだと考えているんですね。アプローチの方法はいくらでも出てきますね。
弊社:なるほど。ありがとうございます。これは、多くの人事の方が悩まれている課題だと思うんですけど。気持ちを強く持つ、ということですね。
永島:そうですね。ただ、我々で言えば、少なくとも年に2回は考えてもらおうとか。いろんな機会をつくったり、自然と考えられる環境をつくったりして、チャレンジしています。
弊社:ありがとうございます。「人事が描く理想と、現場(ニトリさんの場合は店舗)が描く理想とで、ずれが生じている実感はありますか?」という質問をいただいています。人事が描く理想も、現場では忘れられていたりするのではないでしょうか。
永島:それが逆にずれていなかったら、僕らはあまりいなくて良いと思っているんですよ。目指すところが比較的平らであれば、そうなれるかなと思いますが。ジャンプしなきゃいけないので、ずれますよ。今やっていることと、20年後にあるうちの会社が違うものになっているというのが、会社のメッセージですから。そもそも、プリセットでずれているんですよ。
弊社:いわば、ポジティブなずれですよね。
永島:そうです。研修でよく言うのは「今、使う筋肉と、将来、使う筋肉と、両方鍛えよう。そういう研修を僕らは用意しているから、なんとかやってくれないか?」と。
だから、ここまでいろいろなことをやってきましたけど、常に思うのは、やっていない人に対するアプローチというものを本当に進めていくということ。あるいは、自然とそうなっていくにはどうしたら良いか。そんなことをいつも考えていますし。あらゆるものがそこを基点になっているような気がしますね。
弊社:皆さん、長時間お付き合いいただき、ありがとうございました。これにて終了でございます。ありがとうございました。