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全社員をDX人材に─ 富士通CHROが語る人事制度フルモデルチェンジの全容 [re:Culture#21 レポート]

INDEX

re:Cultureは、人的資本に投資する企業の変革事例を学び企業カルチャーのこれからを考えるイベントです。

今回、富士通株式会社で執行役員EVP CHROを務める平松 浩樹さんにご登壇いただき、2020年より実行した人事制度改革の事例を交えながら、経営戦略と人事戦略を紐づけた人的資本経営の全容についてお話し頂きました。

本記事では、3つのテーマと視聴者からの質問を元にしたセッションの模様を中心に写真つきで振り返ります。

スピーカー
平松 浩樹
富士通株式会社 執行役員 EVP CHRO
1989年富士通株式会社に入社。2009年より役員人事の担当部長として、指名報酬委員会の立上げに参画。2018年より人事本部人事部長として2020年4月に導入したジョブ型人事制度の 企画・導入を主導。2020年4月より執行役員常務として、ジョブ型人事制度、ニューノーマル時代の働き方・オフィス改革に取り組み、2022年より現職。

モデレーター
久保 圭太
株式会社PR Table PR室 室長 / Evangelist
北海道札幌出身。二児の父。 PRSJ認定PRプランナー。 ネット専業代理店にて広告企画営業、人事戦略、PRの責任者を経て、2018年よりPR Tableに参画。 カンファレンスやオウンドメディア発信などでPublic Relationsの探究活動を行いながら、コンサルタントとして導入企業様向けのコンテンツ企画・活用支援に従事。 その後、CS組織の立ち上げを経て現職。


富士通のDX改革の鍵を握る“人的資本経営”とは

富士通では、2019年9月より「IT企業からDX企業への転換」を経営方針として掲げ、2020年7月には、ニューノーマル時代における新しい働き方のコンセプトとして「Work Life Shift」を発表。そして2021年10月に発表した「Work Life Shift2.0」では、全社DXプロジェクト「フジトラ」とも連携し、全社一丸となって「DX企業への転換」に向けて取り組んでいます。

そうした中、グローバル視点で人材を活用するため、「ジョブ型人事制度」や「通年採用」など人事制度のフルモデルチェンジを推進しているのが、執行役員EVP CHROを務める平松さんです。

▲富士通株式会社 執行役員 EVP CHROの平松浩樹さん

本編に入る前のアイスブレイクとして、視聴者に向けたいくつかのアンケートを実施。「ジョブ型人材マネジメント」や「人的資本への投資」における取り組み状況をお伺いしました。

その後、まずは平松さんより「DX企業への変革の鍵を握る富士通の”人的資本経営”とは」というテーマでお話しいただくケーススタディへ。

富士通のパーパス実現に向けた変革の取り組みとして、ジョブ型人事制度やWork Life Shiftなどの取り組みについて触れながら、それによって「時間」や「場所」「生産性」などの観点から働き方がどう変わったか?という振り返りの結果についても解説いただきました。

ここからは、より内容を深掘りするための3つのテーマと、視聴者からの質問をぶつけた後半のセッションの模様を対談形式でお送りいたします。

良い意味で想定外だった変革のスピード感

PR Table久保(以下、久保):まず最初のテーマからお伺いしたいのですが、全社でDXプロジェクトを実行しながら、人事としてフルモデルチェンジをしていく中で、KPIやゴール設定はどのように定めていったのでしょうか?

富士通平松氏(以下、平松):富士通全体としては、経産省が作ったDX推進指標を非財務指標の一つとして社外にコミットしています。ただ、それだけではなく富士通がどういう会社に変わっていくのか、そのためにどうやってDXを実践していくのか、というストーリーが必要です。

たとえば営業に2年かけてこういう教育をしたので、これからはDXの提案がどんどん出来ますよ、という話をお客様に伝えるためには、どれくらいお金をかけて何人育成するべきか、といったことが見えてくる。つまりビジネス戦略にあわせてKPIが設定されていくべきだと思うんですよね。

久保:ご質問もいただいているんですが、実際に改革を進めていく中で現場への浸透はどれくらい想定していましたか?また想定とどのくらい乖離がありましたか?

平松:従来だとまずはトライアルを実行してマニュアルを作り、制度としてしっかり整えていく進め方でしたが、今回は大きな変革をするのでそもそもアジャイルにやりますよ、というのを最初から伝えていました。

部分的に変えても他の仕組みとの整合が取れなくなるし、何のためにやってるんだっけ?となってしまいます。制度としてはシンプルに、その代わり関連するものは全部変える、それはこういうことを目指しているからなんですよ、と伝えていきました。

なので全体像としてはわかりやすく理解できたという声があった一方で、実践するのは大変そう、という声もありましたね。

今までやっていなかったことですし、マネジメントの意識も、社員全体の意識も変えなければ難しいことです。今は実践しながら、こういうやり方が良いよね、というのをみんなでブラッシュアップしている時期だと思っています。

そういった覚悟のうえで、全体を変革した方が皆の腹落ちもできるだろうなと思っていましたので、その辺は想定通りですね。

久保:以前に別の講演で平松さんは「人事施策に特効薬はない」と仰ってましたよね。すぐに数値が上がったり、結果が出るものではないですよね。

平松:そうですね。でも想定外だったのは、ポスティング(※)に手を挙げる人が大幅に増えたことですね。慎重な人が多いイメージを持っていたのですが、国内8万人のうち2021年度だけで8千人が手を挙げて、合格したのが4-5割なので4千人くらいが異動しているというのは、相当インパクトが大きいと思っています。なのでこのスピードは良い意味で想定外でしたね。

※ポスティング‥‥グループ各部門が公表する「求人」に従業員が自ら応募してさまざまな仕事に挑戦できる制度。

久保:みんな実は意思を持っていて、これまで見えていなかっただけなのかもしれないですよね。

今の部分に関わるご質問が来ています。「素晴らしい実績ですが、元の部署へのリソースの充当はあるのでしょうか。」と。確かにこれはジョブローテーションなどでかならず出てくる課題だと思うのですが、このあたりどのように納得感を出しているのでしょうか。

平松:従来は、年間の採用人数を何人まで、と枠をはめていた。つまり人が抜けても採用枠がなかったら補充できない、という状況でした。しかし今は、ポスティングで抜けても補充の権限も与えているので、機会均等で健全な競争環境、市場原理が働くようになっています。

久保:自分のポジションの魅力を伝えていかないと応募が来ないし、マネージャーも努力するようになり、フェアかもしれないですね。

平松:どんな組織のどんな仕事でも、華やかなところがあれば地道なところもある。自分の組織にどういう価値があるか、みんなが表現していくべき。最初は大変かもしれないけど良い方向に進むと思っています。

久保:それが当たり前になり、人材がより社内で流動する意識に向かうと良いですよね。

納得性を重視するために機能した1on1ミーティング

久保:では次のテーマに移りますね。やはり皆さん気になるのではないかと思うのが、「変革を実行するうえで、成果がある一方で、何かしら弊害があるのではないか」ということ。

質問もいただいています。「特に評価制度の改革において、現場への落とし込みで工夫した点はありますか?トップダウンで決めたのか、現場の声を反映したのか、どういう進め方をしたのでしょうか」。

平松:これまで目標管理制度では、年初に設定した目標の達成率を見て、できる限り広い範囲で評価の調整をしていましたが、評価をしている方もされている方もどこか違和感がありました。わかりやすく言うと、目標設定のときに低めの目標を言って達成率をあげる、というのが構造として起こりうる。もしくはめちゃくちゃチャレンジングな目標だけど未達でした、ということもある。その場合、どっちを評価する?という課題がありました。

これまでも制度をマイナーチェンジしてきましたが、やはり下手に調整会議をするよりも、上司が何を期待し、何を持って評価するのかを主観でいいからしっかり伝える。それを毎月の1on1でしっかりコミュニケーションをとっているか、という納得性が大事だなと。

もうひとつ肝心なポイントは、評価に不満がある人にもポスティング制度があるということ。自分の実力に自信があるなら手を挙げてください、それはあなたの選択ですよ。と、会社に与えられた上司とポジションで文句言うだけでは終わらないようにしていますね。

久保:自主的に選択できる余地が残されていますものね。企業によっては優秀な人が自社でキャリアの選択肢がなくなり転職してしまうケースもあると思いますが、キャリアの柔軟性や自律性を促し、社内で人材流動性を回せるというのは強いなと思いました。

平松:社内の流動性があって、社外の流動性もあがっていく。両方一緒にやっていく必要があるなと思っています。

また今回非常にありがたかったのは、社長の時田の強力なコミットメントとサポートがあったことです。人事制度の仕組みを変えるときには、まず時田から“何のためにやっているのか”、“富士通は何を目指すのか”、“皆にこういうことを期待している”、ということをポジティブ伝えてもらいました。

そしてもうひとつ、以前はできなかったことですが、社員向けサーベイを使い、どんな課題があるか拾えるようになったこと。その中にポジティブな声が多かった、ということを伝えることでマインドを変えるのに役立っています。

久保:先ほどのポスティングの仕組みもそうですが、全体の数字としてのポジティブな変化は捉えつつ、個別の課題は1on1で拾っていくという風にバランスがとれているなと感じますね。

オンラインのメリットを活かした改革の進め方

久保:もうひとつ質問です。「人事改革は、各部門からプロジェクトチームを編成したのでしょうか?また決定から実施の期間は?」といただいています。

平松:めちゃめちゃなスピードで実行したんですよね。2019年6月に時田が社長になったときに、人事の仕組みを改革するためにジョブ型の仕組みを導入する必要があるので最短でやれるか、と聞かれ、「来年の4月には少なくとも1万5千人の管理職をジョブ型に移行します」と言ってしまったんです。

なぜそう答えたかというと、これまでも人事としてやるべきことはみんなで議論していたものの、やるチャンスがなく悶々としていました。ここで僕が躊躇して人事ではなく経営戦略部門などが主導するテーマになるのは悔しいと思ったのです。意気揚々と社長室から出てきて「言ってやったよ」といったらなんてこと言ってくれたんだとメンバーから驚かれましたけどね(笑)

でもゼロから作ったのではなく、他社の良い事例はたくさんあったのでそれを頭の中でうまく繋げていくイメージは元々ありましたね。

人数でいうと、中心的なメンバーは本社人事の企画チーム10人くらいでラフ案をつくり、各部門人事が集まる定期的な幹部会で意見をもらってブラッシュアップしていく。実行フェーズになると各役割別の組織に落とし込んでいって具体化してもらったという流れですね。

久保:かなりの少人数でありえないスピードでやったということなんですね。

「改革を進めていくうえで、オンラインだと施策の意図がうまく伝わらないんじゃないかという不安があります」という質問もきているのですが、このあたりはどう乗り越えましたか?

平松:リアルの良さと、オンラインだからやれたことの両面があると思っています。

ジョブ型人事制度に一気に切り替えたのが2020年4月で、Work Life Shiftが2020年7月。当時はコロナのピークだったのでオンラインしか選択肢がなく、逆に開き直れたんですよね。リアルだと会議室の設定などが大変なところを、オンラインだと一気に何百人でやれますし、チャットで質問をもらうこともできます。回数やスピード、アクセスの良さはオンラインの方が絶対によかった。リアルの良さを追求してたら、説明会だけで一年かかってたかもしれませんね。

久保:オンラインがポジティブに働いたんですね。逆にあえてオフラインでやったことはありますか?

平松:役員や本部長レベルの方々に対して、ジョブ型におけるマネジメントや組織設計の変化についての議論など幹部レイヤーの意識あわせは、リアルな場で2-3日かけてやりましたね。

「Work Life Shift」で働き方はどう変わった?

久保:制度改革を進めていく中で、社内だけでなく社外からの反応はどう変わりましたか?たとえば採用面において応募してくる人材の変化などがあれば教えてください。

平松:かなり意図的に外向けにも富士通の変革について発信しているので、反応としても“これまでの富士通からかなりのスピードで変化しているな”という評価をいただいていると感じます。

特にWork Life Shiftを2020年7月という相当早い時期に出したので、その直後くらいから自分の会社と比較して働き方の柔軟性についてメリットを感じ、中途・新卒含めて応募してくれる人が増えたなと思います。

久保:スタートアップやベンチャーはそういう施策に踏み出せていたとしても、大企業では富士通さんがとても早かったですよね。

さらに2021年10月にWork Life Shift2.0を打ち出して継続的にブラッシュアップされています。働き方変革のデータとして、ウェルビーイングや生産性など今後とっていきたい数値はありますか?

平松:ひとつは定期的にとっているサーベイで、コロナ前と比較して個人やチームの生産性の変化を聞いています。その問いに対して、維持しているないしは向上しているという人が7割以上もいるんですよね。また業績についてもこの2年間堅調にあがってる。働き方は変わっても生産性は落ちるどころか、維持もしくは向上しているんだろうと実感していますね。

平松:ウェルビーイングは概念が広いですよね。相関性がありそうなポジテイブなデータとして例えば、“富士通にいることで幸せを実感しているか”といったデータ取得にはまだ踏み込めていないので、そこはこれからみていきたいところですね。

久保:幸せの数値化はいろいろな企業が取り組みはしていますが、なかなかまだ難しくて答えが出ていないですよね。我々も「働く人の笑顔が“連鎖する”世界をつくる」というビジョンを掲げているのですが、笑顔とか幸せとか、違和感なく働けている状態をどういう風に数値化していけるのかというのは、チャレンジのしがいがありますよね。

目指すべき従業員と会社の“関係性”

久保:それではラスト3つ目のテーマですね。平松さんは、目指すべき従業員と企業との関係性において、「自律×信頼を生み出す関係づくり」を心がけているとのことでした。

自律を促す制度設計がされている一方で、これまで自律的でなかった社員がいきなり自律的になるのだろうかという疑問が生じたのですが、このあたりどのようにお考えでしょうか?

平松:一口に自律と言っても、普段の仕事を自律的にやります、ということから自分のキャリアを自律的に考えるということまでさまざまなレベルがありますよね。

普段の仕事、で言うとWork Life Shiftで8割が在宅ワークになり、時間や場所を自由に自分でデザインすることに皆が適応できているとうことは、皆が自律的に働く良さを実感して自律が一歩進んだのではないかと思っています。

一方、キャリア自律という観点で言うと、まだ7割くらいの人が悩んで不安に思ってアクションできていないんじゃないかと思っています。キャリアってなんだ?というところから考える機会を与えていくため、キャリアオーナーシップ研修を改めてやろうと進めています。

“機会を作っていく”ということと、“透明性を高める”ということを意図的に設計し、組織のビジョンやエンゲージメントの状態を全社員にどんどんオープンにしています。まさに、“信頼しているからオープンにします。だから自律的に動いていってください”という関係性をつくっていきたいですね。

久保:平松さんご自身がこの2年間通じて、他に何か心がけてきたことなどはありますか?

平松:相当大きな人事の仕組みの改革なので、人事自身が社員から信頼されないと話になりません。

従来の人事のイメージは、敷居が高くて話しかけにくい、本音がわからないみたいな存在だったと思いますが、そういう人事がつくった仕組みは信頼できないし安心できないと思います。なので我々人事が率先して変わっていく。そう言う意味ではトップの僕が、これまでの人事のトップとは違う行動をしていかないといけないと思いました。

何を考え、どういう思いを持っていて、こういうところは自信がありません、だからみんなに助けてほしい。ということも含めて社内向けのラジオで話したり、タウンホールミーティングでメッセージを発信したり、信頼を得るために変わろうとしています。社内だけでなく外に発信したものを社員が見てくれることもあるので、今日のような場も大事だと思っています。

久保:社員が外に出ていくというのも採用においても大事ですが、今回みたいな改革レベルになるとトップや上の人がどういう考えなのかが非常に大事で、それをしっかり開示されているのが信頼に繋がっているんだろうなと思いました。

久保:それではそろそろお時間になりましたので、最後に視聴者に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

平松:人事の世界には、いろいろなキーワードが毎年のように出てきます。しかし、そこに踊らされずに、会社としてどういう想いを持ってどういう姿を目指したいか、というビジョンを描き、人事もそれを経営層やビジネスの責任者と一緒に考える存在になってきた、ということがすごく大事だと思っています。選択肢がいっぱいありますし、良いお手本もいっぱいある。経営戦略の一環としての人事戦略を一緒に考えるのが人事だと思っています。

久保:ありがとうございます。まさに“自律×信頼”を人事が率先し、従業員との関係づくりをしていくということが大事なんだな、と今日のお話しを聞いて改めて思わせていただきました。

ご登壇いただいた平松さん、この度は貴重なお話を頂き、誠にありがとうございました!

▲PR Table経営陣との一枚(左:大堀航、右:大堀海)

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