PRの本質を追い求めて(後編)──立ち返った原点。「働く人」のストーリーが会社の未来を変える
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企業が自分たちで情報発信できるサービス、広報担当者の力になれるサービスを作りたい──そんな想いを胸に、弟の海と株式会社PR Tableを創業した大堀 航。「talentbook」は、会社は、どのような変遷をたどって現在に至ったのか。大堀の葛藤や気づき、そして目指す未来を語ります。(前編はこちら)
Profile
大堀航 Koh Ohori
株式会社PR Table 取締役/Founder
1984年神奈川県生まれ。大手総合PR会社のオズマピーアールを経て、国内最大のオンライン英会話サービスを運営するレアジョブに入社。PRチームを立ち上げ、2014年6月に東証マザーズ上場に貢献。2014年12月、PR Tableを創業。
「働く人のストーリー」を活用したPR手法の確かな手応え
2014年12月、株式会社PR Tableは、現在の「talentbook」のプロトタイプとなるサービスをリリース。初期の顧客の中でも大堀が印象に残っているのが、名古屋市を中心に透析医療、一般医療、老人医療を柱にして病院やクリニックなどを経営する『偕行会グループ』です。
大堀「これまでもプレスリリースなどの発信は行っていたものの、専門的な話をわかりやすく伝えることに難しさを感じていらっしゃいました。そこで、医師や看護師の専門性や想いをコンテンツにして公開したことをきっかけに、メディア取材やイベント登壇に繋がったという声をいただきました。それまでやっていた一般的なPR活動では得られなかった効果に、満足していただくことができました。」
レアジョブ時代に感じた、人を軸にした情報発信が他の企業でも有効であると手応えを感じた大堀。そんなとき、とある企業の担当者様との出会いをきっかけに、広報以外の意外なニーズがあることが判明します。
大堀「あるとき、創業期のメルカリさんの人事トップの方から連絡があり、サービスを導入していただけることになったんです。人事部門は、採用候補者へ人を軸にしてカルチャーを伝えられる場所を求めていたため、サービスのコンセプトに共感してくれたんですね。これを機に、採用を強化しようとしているベンチャー企業からの引き合いが増えていきました。
また、採用広報で利用されることで、記事に登場する社員の人選にも変化を感じました。企業広報だと、どうしてもスター社員というか、なにかを成し遂げた人を取り上げるケースが多いんです。でも採用広報の場合、若手から縁の下の力持ちまで、より幅広く身近な社員が登場するようになって。『社員のモチベーションアップに繋がる』という声も多かったので、情報を発信することの意義を再確認できましたね」
広報に加え、人事領域にも活路を見い出し、立ち上げたビジネスの明るい兆しが見えたかのように思えた創業期。しかし、その背後には暗雲が立ち込めていたのです。
浮かび上がった課題──ストーリーの価値を可視化する難しさ
新規顧客が徐々に増えていき、従来よりも自発的な、そして自社で生み出すコンテンツへのニーズをひしひしと感じていた大堀。
大堀 「コンテンツ発信は、継続することに意味がある。即効性がなくても、地道にコンテンツを作り発信を続けることで、ステークホルダーとのつながりが増え、関係性が深まっていく。実際に、企業への理解度が深まり採用活動の改善に寄与できた、社員のコミュニケーションが活性化しエンゲージメント向上に繋がったなどの声がありました。」
しかし、頑張って発信し続けてきたにもかかわらず、サービスを解約してしまうお客様も出てきました。サービス導入による効果を、数値化して直接的には証明しにくいというのが理由でした。
その当時、PRは企業の経営課題の解決策としては優先順位が低く、担当者が取り組んだことを定量的な情報をもって社内に説明できず、解約に繋がっていたのです。
大堀「サービスの走り出しということで、新規顧客の獲得に注力していたために、場所を提供するだけでは、継続的な情報発信を支えることができないということに気付くのが遅れてしまったんです」
ベンチャーキャピタルからの投資や期待もある中、企業としての成長を焦るようになった大堀は「解約率改善」のため、サービス料金や契約内容の改訂を繰り返してしまいます。
大堀「方針として、大手企業向けのサービスに振り切ろうとした時期もありました。そのときに、創業当初からずっと使ってくれていた中小・ベンチャー企業の解約が続いてしまって。でも、今成長するためには仕方ないのかもしれない。次のステージに進むには必要なことだと思い直し、走り続けました」
2020年に入ると、コロナウイルスの影響も受け、PR Tableはかつてない苦境に立たされることになりました。
大堀「多くの企業が先行きに不安を抱えるようになると、我々のような情報発信系のサービスが真っ先に止められることは当然でした。しかし、それだけでなく、お客様が納得しうる適切なプライシング、サービス提供体制を整えられていなかったことにこそ原因があったのだと思っています」
社員の声を聞き、顧客と向き合うことで見い出した進むべき道
2020年から2021年前半にかけて、事業が伸び悩み、大きな苦しみを味わっていた大堀。そこから脱却できたのは、日々顧客と向き合ってきた社員たちの力だと語ります。
大堀「迷走を続ける僕たちに対して、現場にいるメンバーが、真摯にお客様の声を語ってくれました。厳しい状況の中でもtalentbookを続けるのはどんなところに価値を感じているからか、はたまた今解約せざるを得ないのは、どんなところに理由があるからなのか……。
そこでようやく気づきました。これまでは、ある意味で妄想的なマーケットを見て意思決定をしていたんだと。一番大切にするべきはお客様の声で、それを軸に進むべき方向を定めていこうとシンプルな戦略に立ち返ったんです」
そうして明らかになってきたのは、同じ目的を持った顧客でも、企業規模や業界によってtalentbookへの期待が大きく異なるということでした。
大堀「今までは、『talentbookを使ってこうなりましょう』と一律でゴールを決めていました。
でも実際は、自分たちで粛々とコンテンツ制作を進めたいというお客様もいれば、うちに制作支援を頼んで記事を増やし、採用活動でどんどん活用したいという方、広告を使ってとにかく拡散させたいという方もいるんですよね。
効果測定にしても同じで、定性的に満足を感じているからずっと使い続けたいというケースもあれば、運用担当者は満足していても、上長やほかの部門へ定量的な説明が必要だというケースもあって。何が、どこで、どれくらい閲覧されているのか。記事を通してどんな反応が起きているのか。記事を読んだ人がどう感じているのかを知りたい、という要望もありました」
これらを受け、経営方針として2021年下半期の目標値を「解約率」ではなく「顧客満足度」へ変更。基本料金を月額10万円に戻し、ニーズの大きかったオンライン取材から原稿制作までの支援を手厚く行う仕組みを整えました。また、コンテンツの構成案をレコメンドする機能やアナリティクス機能など、プロダクトの強化にも着手。提携メディアや広告プランを増やすことで、コンテンツの活用面にもテコ入れしました。
ステークホルダーとのより良い関係作りの先にある笑顔
多くの企業が情報発信を継続的に行えるように、サービスや仕組みは整えられ、一歩一歩着実に前へ進み始めたtalentbook。
大堀は、そのtalentbookを支える社員たちと改めて、PR Tableが目指す世界を共有したいと考えるようになります。そして会社のビジョン・ミッションを刷新することに。
2021年9月に完成した新たなビジョンは、「働く人の笑顔が“連鎖する”世界をつくる」。ミッションとしては「笑顔が生まれる“きっかけ”を増やす」ことを掲げました。
大堀「成長を急いでいた頃は、僕自身も笑顔でいることができませんでした。働く人が笑顔で働ける環境があることで、一人ひとりの生産性が高まり、事業成長に繋がる。事業が成長すると、給与が上がり、いろんな機会・可能性が増え、もっと楽しく働ける。この好循環を作れる企業こそ、社会によりよい価値を提供できると思っています。
企業の資本は人であり、顧客や採用候補者、投資家や地域の人など、すべてのステークホルダーと対面しているのは、その会社で働く人たち。彼ら彼女らが笑顔で働けるかどうかが、企業価値にも繋がっていくと思います。それを多くの企業に実践、体感してほしいんです」
「働く人の笑顔が“連鎖する”世界」の実現を目指し、走り始めた大堀。前進する中で見えはじめた景色の変化についてこう語ります。
大堀「少しずつではありますが、経営方針を成し遂げるためにtalentbookを活用してくださるお客様も増えはじめました。世の中に情報を発信し、知ってもらうだけではなく、経営課題を解決するパートナーとしてtalentbookを選んでくださるお客様がいることはとても嬉しいことです。
これまでの道のりはスマートではありませんでした。それでも多くのステークホルダーの方々の笑顔に支えられ、ここまでくることができました。
だからこそ、一社でも多くの企業がPRを実践し、一人でも多くの笑顔を増やすためにも、僕たち自身もPRを探究・実践し、お客様とともに歩んでいきたい。お客様の成果が私たちの成果でもありますし、笑顔を見ることができた時、僕たちはPRの価値を証明できたことになるんです」
PRに魅了され、自身のキャリアを懸けてPRを探究・実践し続けてきた大堀。──talentbookが目指すビジョンが実現した時、世界がたくさんの笑顔に包まれることを願って、私たちはPRの世界で航海を続けます。