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#18 若者が「幸せに働く」未来をどうつくる?組織と個人のこれからの関係性 ─ ゲスト:リクルートワークス研究所・古屋星斗さん

INDEX

聴く「PR TALK」は、PRを実践するさまざまなゲストとテーブルを囲み、膝を突き合わせて「もっとPRの話をしよう」という趣旨の番組です。

本日のゲストは、いつものPRパーソンとは少し趣向を変え、リクルートワークス研究所で主任研究員をされている古屋星斗(しょうと)さんをお招きしました。

私たちPR Tableは、創業時から労働市場に着目し、企業で「働く人」にフォーカスしたコンテンツをつくり、talentbookというメディアプラットフォームで展開する事業を行なっています。

今回、「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会を創造する」をミッションに掲げるリクルートワークス研究所で、「働く」ことを科学や定量で解き明かす研究をされている古屋さんと一緒に、若者が「幸せに働く」未来をつくるための企業や組織の在り方についてディスカッションしました。

古屋さんの研究結果や、海外の事例なども踏まえたとても示唆に富んだ内容になっています。PRパーソンのみならず、若者もシニアも全ビジネスパーソン必見です!

ゲストプロフィール

古谷 星斗さん
リクルートワークス研究所 / 主任研究員

2011年経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定に携わる。2017年より現職。専門は組織行動論、人的資源管理論。若年労働や次世代のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。 Twitter

▼音声で聴く方はこちら

官から民へ。異色のキャリアを歩んだ理由

PR Table久保圭太(以下、久保):古屋さんは、僕らとはまた違ったアプローチで若者の「働く」や、組織と個人の関係性について紐解く研究活動をされています。

今日は若者が「働く」うえでどんな課題を抱えていて、そこに対して企業はどのように対応していけばいいのか。というヒントを探っていく時間にできればと思っております。

リクルートワークス研究所古屋さん(以下、古屋):PRパーソンではないかもしれませんが、本日はよろしくお願いします。

久保:古屋さんはとてもユニークな経歴で、経済産業省からファーストキャリアをスタートされているんですよね。

古屋:元々、リーマンショックの時期に大学院で教育社会学を学んでいて、その後、経産省で人材政策などに関わっていました。人生一度きりなので、自分が一番やりたいことを仕事にしようと思い、リクルートワークス研究所にきた感じですね。経産省では7年間働きました。

久保:経産省時代に学べたことで、今に活きていることは何ですか?

古屋:厳しい職場でしたが、なにより“仕事をする姿勢”を一番学びましたね。

PR Table大堀航(以下、航):国のために不夜城のようにめちゃくちゃ働いてくれているイメージがありますよね。

古屋:”手を抜かない”、というか“手を抜けない”仕事、という感じで、中にいる人たちは皆、本気でやってます。そういうところに自分がいられたというのは本当にいい経験でした。

“半歩先の社会課題”を研究する

久保:現在、主にどのような研究に携わっているのですか?

古屋:リクルートワークス研究所では“半歩先の社会課題”というのを研究テーマに掲げています。まだ顕在化していないけど、もうすぐ顕在化する社会課題というイメージですね。そこに対して科学によって解答を提示するというのがミッションです。

その中で私がやっている研究のひとつは『ゆるい職場』と若手の研究

入社した職場がだんだんゆるくなっているのではないか、というのをデータで検証しながら今までの人材育成の仕方では全く通用しなくなっていることに警鐘を鳴らしています。

そしてもうひとつが仕事の未来予測

少子高齢化によって、労働の需要と供給のバランスが悪くなり、労働の供給が絶対的に不足する社会がやってきます。それによって一番ダメージを受けるのは、我々の生活に直結する、物流、建築、建設、土木、医療や介護などの生活維持サービスです。そうなると我々の生活水準がすごく低下してしまうんじゃないかという課題をスタート地点として、どうすればそういう「労働供給制約社会」を乗り越えられるのか、という研究をしています。

久保:確かにそれって遠い未来じゃなくて、ほんとに半歩先の目の前にある感じがしますよね。

航:そうですね。僕らも普段お話ししている大企業のお客様の課題は色々あって、ある業界はこれからのイノベーションをつくる高付加価値人材が不足している、一方で働く場所としてイメージがよくないけど実はしっかりキャリアのロールモデルがつくれることを伝えきれていない業界もある。インフラに近いような業種がそれに当たるのかなと。それらの仕事の重要性をしっかり伝えるのも大事だなと思いました。

僕らは「働く人の笑顔が“連鎖する”世界をつくる」というビジョンを大事にしているのですが、それぞれの働く場所で働きがいなどの実感を持てるかどうかでパフォーマンスが変わってくる。その変化を起こせると思えば、将来を暗く語らなくて良くなりますよね。

古屋:そうですね。将来の話をすると、どうしても人口減少の話もあるので、暗く語りがちですが、もっと明るく語れるのではないかと思っています。たとえば生活維持サービスの仕事は、機械化・自動化によって大きく働き方が変わる。雨の日にかっぱを被ってバイクを運転していた郵便配達員の仕事が、ロボットを操縦するオペレーターに近くなるとイメージが全然変わりますよね。

久保:そういった未来予測を継続してやられているということなんですね。未来を良くしていくために研究をしているというのが、とても良いですよね。

「ゆるい」職場と若手育成の実態

久保:先日、ゆるい」職場の研究結果を見て衝撃を受けました。大手企業の若手社員への定量調査をした結果、36%が「ゆるい」と感じていて、離職意向も高い傾向にあると。10年前のご自身の働き方なども振り返って、古屋さんはこのあたりの変化をどのように捉えていますか?

古屋:実は、元々別の仮説を検証するために若手のインタビューをしていたのですが、「上司からフィードバックがない」とか「定時で帰れと言われてうるさい」とか「理不尽なこと言われたことない」という声が半数以上の若手から出てきたんです。そこで、これを取り上げないと企業も若手も勘違いしたまま進んでしまうんじゃないか、と研究を進めることになりました。

航:「上司に叱責されたことがあるか」という調査では、ここ10年で倍の差が出ているんだなと驚きましたね。

▲新入社員期に職場の上司・先輩から叱責される機会(一度もなかった割合)

※参照:大手企業の新入社員が直面する職場環境を科学する

古屋:育成する立場の方とお話しして思うのは、ハラスメントなどに敏感な今の時代においてシンプルにフィードバックが難しくなってきているということです。そもそもマネージャーだけで解決は難しいのではないかとも考えていて、会社の外にネットワークをつくる「デベロップメンタル・ネットワーク」という議論もされていますね。

航:研究記事で古屋さんは、「会社が若手を育てる」の主語と述語が入れ替わり「若手が会社を使って育つ」時代に変わっていく、と述べられています。具体的には、どうやって会社を使って育てばいいのでしょうか。

古屋:アメリカの労働市場の議論で「Voice and  Exit」という言葉があります。自分の待遇改善を訴えて、それでだめならやめていくという姿勢をとったほうがいいということ。日本はNo Voiceでやめていくじゃないですか。これは両者にとって損だと思うんです。なので、会社を使いこなそうと思ったら、まずは声をあげないといけない。自分が不安に思っているかどうかは、話さないと伝わらないですからね。

某レガシー系の大手企業の3年目の方がおっしゃっていた面白い事例があります。その方は、上司がゆるくて指導してくれないと感じていたのですが、自分の同期で良いフィードバックをもらって育っている人の話をヒアリングしてまとめて、自分の上司にレクチャーしたそうです(笑)

航:たとえば事業づくりの観点でも、お客様からお伺いするプロダクトの失注理由は宝物だと言われています。それと同じように、働いていたメンバーが辞めてしまうときの声も宝物のはず。それが見える化されると会社も改善できる、と今の話を聞いて思いましたね。

心理的安全性 × キャリア安全性

久保:一方で、古屋さんがおっしゃっているゆるい職場というのは、「働き方」という観点で見ると改善されてきているはずですよね。リモートワークも増えて、ワークライフバランスも保てるようになり、心理的安全性は高まっている。いい職場と思っていても、本音が言えない、深いコミュニケーションができていないから退職が増えているということなのでしょうか。

古屋:するどいご指摘ですね。日本社会では「ブラック企業」という言葉が2013年に流行語大賞トップ10をとって以降、心理的安全性を高める方向に舵を切ってきました。労働時間しかりハラスメント撲滅しかり、さまざまな形で若手に対してサポーティブな職場をつくろうとしてきた。結果として色々な数値的な成果も出てきましたが、それだけだと十分ではないというのもわかってきたのです。

若手のエンゲージメントを調べていくと、実は「心理的安全性」が高いだけだとワークエンゲージメントがそれほど高いわけではありません。

潜んでいる別のファクターとして、その職場で仕事を続けることで、自分の職業人生の選択肢を自分が持ち続けられるかどうか、という認識の高低が、エンゲージメントに影響していることが発見されました。

そのことを、私は暫定的に「キャリア安全性」と呼んでいます。

▲ワーク・エンゲージメントと職場環境の認識

※参照:心理的安全性が高いだけの職場では、若手は活躍できない

航:すごく納得感があります。たしかにその人自身が常に成長実感を感じながら、キャリアの選択肢を持っているというのは、自社にとっても強みになりますよね。

古屋:本当にそうですよね。よく、囲い込みみたいな議論になるんですが、それって無意味じゃないですか。ぶら下がり社員のような方たちはエンゲージメントが低く、離職意向も低い。そういう人が欲しいんですか?ということです。会社を辞めさせないことは、最終目的にはなり得ない。

久保:エンゲージメント高く働くからこそ、生産性があがり、業績があがっていく。それが良いサイクルですもんね。

転職はコミットメント・シフトの時代へ

久保:ちなみに「心理的安全性」と「キャリア安全性」は両方とも同時にあげていくことはできるんでしょうか?

古屋:やっかいなことにその二つには負の相関、もしくは無相関が見られるんですよね。なので両方全然違うアプローチになるので非常に難易度は高いと言われています。

久保:最近心理的安全性」は働きやすさの観点からどこの会社も当たり前に対策をしていて、前提になってきていると感じますね。なのでこれからの企業は「キャリア安全性」をどう打ち出していけるかがより大事になりそうですね。

古屋:これにはいくつかソリューションがあると思っています。ひとつは「外」でも育てていくということ。これまではOJTを通じて「社内」で育てるのが当たり前でしたが、最近では「越境学習」と言われる取り組みなども増えてきました。

でも大事なのは、外で行なったアクションを職場でしっかり共有してもらうこと。その仕組みづくりがとても難しいんですよね。

久保:当社もリモートワークで全国に社員が散らばっているので、副業や外のコミュニティに参加している人も多いんですが、外で学んだことを社内に共有したり、繋ぐ動きも増えてきていて良いなと思いますね。

航:あと受け入れる側としても感じるのが、有名企業に所属している優秀な副業人材の方と仕事をすることで、メンバーがそのレベル感を学べるということ。リソースをお借りする以上に価値があると実感しています。そういう機会は経営として意識的につくっていきたいですね。

古屋:転職だけがキャリアチェンジではなくなってきていると思うんですよね。裾野が広がってきていますから、まずは片足を突っ込むところから始める。そういう方が日本の社会人にとってもしかしたら向いているかもしれません。私も役所から民間企業に転職したので、いきなり新しい環境に飛びこむというのはとまどいましたからね。

徐々にワークスタイルをシフトしていく転職の在り方を、私は「コミットメント・シフト」と呼んでいます。1:0→0:1の転職ではなく、0.8:0.2のような段階をふんでキャリアチェンジが進むというのがこれからの新しい働き方かなと。

▲現在の転職とこれからの仕事の移行のイメージ

※参照:「転職」が無くなる時。“コミットメント・シフト”の時代。

航:昔は大企業であればその会社がある意味「社会」だったと思うんですが、今は本当の意味で「社会」で働く時代になってきましたよね。

久保:そのような変化を知る機会としてこういうデータを開示してくれているのは、改めてとても社会的な意義を感じますね。

答えはなくても、仮説はつくれる。

久保:それこそ「人的資本への投資」に各社取り組んでいると思いますが、社内だけを向いて単発の人材育成施策を実行してもうまくいかないんだろうな、と今日の話を聞いて感じましたね。

古屋:特に人材に関しては、常に正しい指標というのは存在しないと思っています。決めておしまいではなくて、適切な尺度を常に模索しつづけることが社会全体として必要なんじゃないかと思っていて。

人的資本の開示については、それが目的になってしまってはいけません。人間が幸せに生きるため、ウェルビーイングな人生を達成するために仕事があり、そのために職場がどうあるべきかという観点で人的資本にどう投資すべきかという話があるわけです。

ひとつひとつの指標を達成させることは目的でもなんでもない。常にフィジビリティ・スタディであることが可視化にとっては必要だと思っています。

航:スタンスは本当にそうあるべきですよね。リモートか出社か、とかもそうですけど、つい正解が欲しくなっちゃうのが世の常じゃないですか。でも答えのないところに立ち向かったり、もっと言語化していきたいな、と思わせてもらえました。

古屋:答えがないからといって、考えなくていいことではないわけですからね。答えはないけど、仮説はつくれますから。

久保:大切な考え方ですね。古屋さんのこれからの「働く」うえでの展望はありますか?

古屋:今、二拠点で働いているのですが、来年の長女の小学校入学によって住む場所が変わるので、自分のライフにとっても転機がくる予定です。仕事のシェアを調整したり、他の活動やプライベートも重要視できるようになってきているので私自身も働き方を試行錯誤していきたいと思っています。

あとまだタイトルも決まってないんですが、中央公論社から書籍を出しますので、「古屋星斗」という名前を見かけたらぜひ手にとっていただきたいなと思います。

久保:それは必見ですね…!最後に、何かPRパーソンに向けたメッセージはありますか。

古屋:研究はコンテンツをつくる仕事でもあります。それを然るべき人に届けることで、はじめてフィードバックをもらえて、もっと仮説が研ぎ澄まされていく感覚があります。そういう観点で、パートナーでもある広報とうまくコラボレーションできていて、いなくてはならない存在だと感じています。

ですので、コンテンツを磨きこんでいけるのは広報・PRの皆さんなのだという観点を、ぜひご自身のワークアイデンティティに加えていただけるとうれしいなと思います。

久保:勇気の出るメッセージですね。いろんなヒントと重要なキーワードをたくさんいただきました。本日は誠にありがとうございました!

関連情報

■古屋さんの研究をまとめたプロフィールページ
https://www.works-i.com/outline/profile/Shoto_Furuya.html

■古屋さんのTwitter
https://twitter.com/FuruyaShoto

■リクルートワークス研究所TOP
https://www.works-i.com/

パーソナリティーのご紹介

大堀 航

株式会社PR Table 取締役 / Founder

大手総合PR会社のオズマピーアールを経て、国内最大のオンライン英会話サービスを運営するレアジョブに入社。PRチームを立ち上げ、2014年6月に東証マザーズ上場に貢献。2014年12月、PR Tableを創業。

ストーリー:PRにこだわる理由は、働く人が笑顔になるきっかけをつくりたいから

久保 圭太

株式会社PR Table PR室マネージャー /Evangelist

北海道札幌出身。二児の父。 PRSJ認定PRプランナー。 ITベンチャー企業にて広告企画営業、人事戦略、PRの責任者を経て、2018年よりPR Tableに参画。 カンファレンス企画や自社オウンドメディア運営を統括し、Public Relationsの探究活動を行う。その後、PRコンサルタントとして顧客向けのオウンドコンテンツ企画・活用支援に従事。2020年よりCS組織の立ち上げを経て現職。

ストーリー:はじめて感情がグルグルした仕事がPRだった。だから僕はこの会社の一員になった