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「ファンベース」をヒントに、Public Relationsの実践を考えるーーイベントレポート#13

INDEX

私たちはかねてから、佐藤尚之さん(こと、さとなおさん)の提唱されている「ファンベース」の考え方と、Public Relationsには強い親和性があることを感じていました。

企業が大切にしなければいけないのは、もちろん顧客だけではありません。社員や株主、取引先、地域社会などとも、より一層良好な関係性を築くために努力していかなければならない。事業を展開する中で、そうした課題に直面している企業の方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、ファンベースの提唱者である佐藤尚之さんと、その考え方を経営に取り入れている宮脇淳さんをゲストに迎え、今の時代にファンベースが重要とされる背景と、実践にあたって必要な姿勢について語っていただきました。

 


Guest
佐藤尚之(さとなお)さん Naoyuki Sato
コミュニケーション・ディレクター (株)ツナグ/(株)4th代表
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。 大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。 花火師。1985年(株)電通入社にし、コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグを設立。 現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。 「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。 本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

—————

宮脇淳さん Atsushi Miyawaki
有限会社ノオト 代表取締役
フリーランスのライター&編集者として、雑誌やWebコンテンツの制作に携わった後、2004年7月、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立。本業は、企業メディアの制作・プロデュース。また、12年以上にわたり宣伝会議 編集・ライター養成講座の講師を務めている。2014年には会社設立10周年を記念して、東京・五反田にコワーキングスペース「CONTENTZ」(コンテンツ)を、2016年にはコワーキングスナック「CONTENTZ分室」を開設。今年4月にはブログサービス「ShortNote」を事業継承した。


なぜ今、「ファンベース」が重要なのか?

宮脇淳さん(以下、敬称略):今日はさとなおさんに、「ファンベース」についていろいろとお伺いしていきたいと思います。

はじめに、私たちふたりの関係性を簡単にご説明しておきましょうか。私、実はさとなおさんが主催されている『さとなおオープンラボ』の4期生なんです。いま、9期生までいるんですよね?

佐藤尚之さん(以下、敬称略):はい。総勢300名以上のコミュニティになりました。

宮脇:私はそこで、さとなおさんが提唱されている「ファンベース」について学びました。ここ数年での変化もふまえて、まずは「ファンベース」の概要をお話いただけますか。

佐藤:そうですね。僕は電通でずっと広告業をやってきたので、その力をよく知っています。広告を否定して、これからは「全部がファンベースだ」というつもりは全くありません。

ただ、今の時代は、広告露出を増やすことで得られる効果は薄れています。マス向けの広告を見て商品やサービスにお金を出す人たちは、そうそう多くはいません。

だからこそ、自社の商品をすでによく知っていて、いつも買ってくださっている方——つまり“ファン”の方々にもっとフォーカスしていくべきではないか、というのがファンベースの基本的な考え方です。

実は、商品やサービスの“ファン”は顧客全体の2割弱ほどいて、その2割の人たちが、全体売上の8割ほどを支えています。「パレートの法則」ともいいますよね。それならば、まずは2割のファンをちゃんと大事にすることをベースにしていけばいいのではないか、と。かなりざっくりした説明ですけどね。

宮脇:この説明を聞くと、なぜ「ファンベース」のような考え方が今まで重要視されてこなかったのか、逆に疑問に思います。

佐藤:以前から、同じようなことを言っている人がいるにはいました。ただ昔は、新規のキャンペーンを打つだけで、一定の効果を得ることができる時代だったんですよね。

さらにここ20年ほどは、どの企業でもとにかく短期的な結果を求める風潮が強くなりました。人間の絆やつながり、社会との関係構築を数字では測れないはずなのに、とにかくKPIを設定し、PDCAを回していく……という発想にどんどん寄っていってしまっている。それも、これまでファンベースが重要視されてこなかったひとつの要因だと思います。

ファンとは、“単なるリピーター”ではない

宮脇:ここで改めて確認したいのですが、ファンベースでいう「ファン」とは、そもそもどんな人たちのことを指すのでしょう? 既存の顧客といっても、いろいろなレイヤーがありますよね。

佐藤:パレートの法則でいう2割の上位顧客のなかには、実は「ファンじゃない人」も入っているんですよね。

宮脇:お客さんだけど、ファンじゃない人。

佐藤:そう。「リピーター」と「ファン」は別物です。

たとえば、僕はあるヨーグルトのリピーターなんだけど、けっして「ファン」ではない。商品や会社に対する愛着はないので、もし同じような機能をもつもっと美味しいヨーグルトが他社で発売されたら、僕はすぐにそれを買うようになるでしょう。だから、全然ファンではない。

「ファン」というのは、共感や愛着、信頼といった感情をもっていて、商品やサービス、会社の背景や考え方などまでを含めて支持してくれている人ですね。

宮脇:感情でつながっているのが、「ファン」の定義。そう考えると、そこまでの「ファン」になってもらうには、企業側にはかなり継続的な取り組みが必要になりますよね。一度だけ何か良いキャンペーンを打ち、それがずっと効くわけではなく。

佐藤:もちろんです。「とりあえず一晩つき合ってもらえたらいい」わけではなく、ずっと長くおつき合いするにはどうすればいいか、という発想。

だから、自分の悪いところはごまかせないんです。PRで印象を操作しようとして、「どうにかよく見せよう」とかしちゃうのはまったくの無意味だと思います。いまは企業側のマーケティングは、全部バレてますから。

「ファンから儲ける」発想では、企業価値を保てない

宮脇:では次に、ファンベースの「ベース」という言葉について。「ファンビジネス」などの類似語がある中で、なぜあえて「ベース」と称しているのですか。

佐藤:僕はどちらかというと、「ファンジビネス」や「ファンマーケティング」などの考え方には否定的なんです。テクニック自体はよいのですが、ファンを囲い込み、コミュニティを作ってそこから儲けるという考え方は、どうしても品がないと思ってしまう。

特定のファンだけを対象にしたファンビジネスもよいですが、それだけに終始してしまうと、そのファンたちがただ疲弊していくだけですからね。

「囲い込む」「刈り取る」という発想ではなく共感や愛着、信頼を作っていき、ファンの好意をベースにしていかないと、これからの時代、売上はおろか企業価値も保てないと思います。

宮脇:ベース、つまり「土台」をつくるということですね。ファンの人たちから儲けるのではなく、その人たちがさらに周りの人を連れてきてくれるような関係性を維持していく、という。

佐藤:そうです。企業側がどんなに一生付き合う気持ちでいても、ファンの人たちは自由なので、その商品やサービスに飽きることも、離れていくこともあります。だからこそ、ファンの周りの人たちに広がっていくことを想定したコミュニケーション構築が重要です。

「仲睦まじい夫婦」のコピーに、意味はあるか?

宮脇:改めて「ファンベース」という言葉についてうかがったところで、今回の主題でもある「ファンベースをヒントにしたPublic Relationsの実践」について話していきたいと思います。

この手の話はだいたい成功事例などをいくつか挙げてもらうことが多いのですが、さとなおさんは、常日頃から「事例を聞いても意味がない」と繰り返されているんですよね。

佐藤:そうですね。たとえば、あるところにすごく仲睦まじい夫婦がいるとして、みなさんはそれを完全に真似できますか? できませんよね。

そうじゃなくて、ちゃんと自分の隣にいる「自分の奥さん」を見ればいいだけの話なんですよ。

宮脇:いま、自分の目の前にいる人を見よ、と。

佐藤:そう。みなさんけっこう誤解している人が多いのですが、「ファンベース」で大事なのは、「ファンをただただ大事にして手厚くもてなす」ことではありません。ファンを“ちゃんと見る”ことなんです。

ファンの声を丁寧に傾聴していくと、ファンが愛してくれているツボがわかってくるはず。それを施策に反映していけばいいんです。

宮脇:ファンの声を傾聴するための場のひとつが、「ファンミーティング」ですね。

佐藤:そう。最近は、このファンミーティングの依頼ばかりきてますね。

多くの人は、ファンの声を聞くためにアンケートやグループインタビューを実施すればいいと考えがち。でも、それは難しいと思います。アンケートで「どこが好きですか?」と真正面から聞かれても、普通のファンたちはそう簡単に言語化できません。

ましてやグループインタビューとなると、誰かが大きな声で強く主張したことに、場がどんどん引きずられていきます。なんなら批判的な意見を言ったほうがかっこよく見えるので、だんだん商品の問題ばかり出てくる流れになりやすいんですよ。

宮脇:確かに、そうかもしれませんね。

佐藤:だからこそ僕は、「ファンミーティング」が大切だと思っています。ただしここでも、「ファンをもてなすこと」が最優先ではありません。むしろそれはどうでもいい。

大切なのはファン同士を集めて、お互いに話せるような空気を作ること。すると「これはここがいいよね」「俺はここが好きだわ」と盛り上がっていくんです。

そうした会話を通して、企業側が聞きたかった“ファンのツボ”がわかる瞬間がきます。それはだいたいにおいて、企業側が考えている自分たちの強みとはズレていたりするんですよね。

宮脇:インタビューするのではなく、ファン同士の会話に聞き耳を立てるのですね。

佐藤:インタビューが上手い人であれば相手の本音をグッーと引き出せるのでしょうけど、いわゆるプロのモデレーターは、全部一定の落とし所に持っていってしまうことが多いですから。

それに、たとえば鉄道のファンのなかに僕がいきなり混じって話を聞こうとしても、鉄道が好きじゃないことはすぐにバレてしまう。だから何よりも、ファン同士で話してもらうのがいい。

とにかく盛り上がる場と空気だけつくって、企業側はできる限り、その盛り上がりを止めないこと。ずーっとがまんしてがまんして……その先にようやく、ふっと奇跡的な時間がくるんですよ。「私たちが聞きたかったのはそれだ!」みたいな。1回じゃ難しいこともあるでしょうね。

なぜ、上司に対しても「ファンベース」しないのか

宮脇:ファンミーティングのポイントを抑えて実施できたとして、今度はそれをもとにどんな意思決定をするのか、という問題が出てきますよね。今日の参加者の中にも、「ファンベースを実践しようとしても、なかなか上司の理解が得られない」と悩まれている人が多いのではないかと思います。

佐藤:実際、多いですね。ただ、みなさんPRやコミュニケーションを仕事にしているのに、上司に対してコミュニケーション戦略を立てないのはなぜなんだろう。

宮脇:ああ、確かに。

佐藤:マス広告でさまざまな成功体験を得ている上司に、部下が正面切って「今の時代はファンベースです!」と言ったところで、聞いてくれるわけないじゃないですか。しかし、上司にもファンと同じく“ツボ”があるはずです。「こうすれば話を聞いてくれる」というツボ。そこを掴んで、上司相手にもちゃんとファンベースを実践するんです。

▲アイスブレイクとして、参加者同士の悩みをシェアしてもらいました。

 

宮脇:対上司にもファンベースの実践ができる。それでいくと、私は経営者なので、主に社員に対してファンベースの考え方を取り入れ、実践しています。ノオトは現在13人の社員がいる編集プロダクションなのですが、さとなおさんのラボに入った当時、仕事量が増えて社員の不満も溜まり、悩んでいたんですよね。

そんなときに「ファンベース」の考え方を知り、いちばん最初に「まず社員を自分たちの会社のファンにする」と書いてあって、それがとても心に響いたんです。

佐藤:うん、うん。

宮脇:それまで社員を気遣っていなかったわけではないけれど、明確にそう考えたことはなくて。それ以降、細かいノルマやルールで社員をしばることを止め、「いいコンテンツを作ること」だけに専念できるように仕事も減らして、環境を整えていきました。

佐藤:社員がファンになると、「この会社がいい」という圧倒的に信頼できる情報が、周りに染み出していくんですよね。全世界に伝わる必要はないんですよ。要は、ノオトという会社に関係がある、いわば“類友”にさえ届けばいい。

だからノルマを廃し、仕事を減らしてでも「社員の幸せ」にフォーカスすれば、売上的には停滞しているように見えても、評判はものすごく上がって質のいい仕事がくるようになったんじゃない?

宮脇:はい、それは本当にそうですね。まさしく「ベース」と呼べる土台ができたと思っています。いろいろな理由でうちを退職しても、ノオトにいたことを「誇り」だと言ってくれる社員も多くて。

佐藤:それは超大事なことですよ。いまはもう、派遣社員や契約社員として働く人たちが会社の評判を決める時代です。マイナスなことは、辞めたあと全部ネットに流れますからね。もう、コンプライアンスなんて通用しないんです。だから表面的につくろっていることは、全部バレると思った方がいい。

社内も社外も一緒だと思えば、PRでも「社内の人をファンにすること」が大前提になりますよね。

宮脇:みんな、対社外のコミュニケーションはすごく考えるのに。

佐藤:そう、社内に対するプランニングはしないよね。外にいる人をがんばってナンパするんじゃなくて、まずは奥さんを大事にしましょうよ、ということです。

たった一度のやり取りで、関係性が築けるわけがない

宮脇:最後に、ファンベースを実践するため、周囲と関係性を築いていくために必要な姿勢をうかがってもいいですか。

佐藤:「時間をかける」じゃないですかね。

宮脇:時間をかける?

佐藤:いろいろな人たちと関係を構築するのに、1回のやり取りじゃムリですよね。それで関係性なんかできるわけがない。

時間と手間をかけてはじめて、人は話を聞いてくれるようになると思うんです。ちょっと良いことや派手なことをして盛り上げればいいわけじゃないんですよ。とにかく、相手のことを考えた行動を積み重ねること。関係性は1回でできるわけじゃないので、何度も地道なやりとりをすることです。

宮脇:そうした意味では、まさにPublic Relationsでいう“Relations”の重要度が高いということですね。

佐藤:そうそう、まさにそこです。ただ、僕はそもそもPRと広告を分けて考えたことはないです。伝わる方法、相手がちゃんと共感してくれる手段はどれか、というだけの話だと思いますよ。

地道に関係性を育んでいく「ファンベース」の考え方とPublic Relations

さとなおさん、宮脇さんのお話を聞いて、あらためて「ファンベース」は、「すべてのステークホルダーと良好な関係を築く」というPublic Relationsの根本に近い考え方だと感じました。

顧客・ユーザーに対しては、商品やサービスの背景にある想いやドラマを共有しながら、ゆっくりと時間をかけて関係性を築いていくこと。そうして育まれた共感や愛着、信頼といった感情が、本当の「ファン」を生む大きな鍵になるのですね。

またさとなおさんの、「なぜ社内に対してファンベースしないのか?」という問いも、多くの方に響いたようでした。会社の外だけを見るのではなく、共に働く同僚や上司、部下への関わり方を見つめ直すことで、新たに構築される関係性があるはずです。(編集部)