「そのスキル、どう生かしてく?」女性PRパーソンのキャリアを考える——イベントレポート#3
INDEX
ライフステージによって、仕事との向き合い方が大きく変化する働く女性たち。
なかでも、会社の中では少数のPRパーソン・広報職の女性にとって、ロールモデルとなる女性は見つけ難いのではないでしょうか。
そんな女性PRパーソンを対象に、2018年4月19日、PR Table Communityイベント第3弾として「そのスキル、どう生かしてく?女性PRパーソンのキャリアを考える」を開催。
PRを軸に幅広く活躍されているふたりの女性を迎え、PRについての考え方や今後の展望についてお話いただきました。
Guest
岡本 純子さん Jyunko Okamoto (写真左)
コミュニケーションストラテジスト。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリスト。グローバルの最先端ノウハウやスキルを基にしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。これまでに1000人近い社長、企業幹部のプレゼン・スピーチなどのコミュニケーションコーチングを手掛け、オジサン観察に励む。その経験をもとに、オジサンのコミュ力改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとする。2018年2月、角川新書より『世界一孤独な日本のオジサン』を出版。読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションズコンサルタントを経て、株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士、元・米MIT(マサチューセッツ工科大学)比較メディア学客員研究員。
藤本 あゆみさん Ayumi Fujimoto(写真中央)
大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て、営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPR マネージャーとしての仕事を経て、2018年3月からPlug and Play株式会社でマーケティング/コミュニケーション ディレクターとしての新しいキャリアをスタート。
Moderator
松原 佳代さん Kayo Matsubara(写真右)
1979年富山県生まれ。お茶の水女子大学 人間社会科学科心理学専攻 卒業。コンサルティング会社に勤務後、編集・ライター職を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報および企業ブランディングを担当する傍ら、アート、住宅関連のマッチングサービスの事業責任者をつとめる。2015年に独立し、株式会社ハモニアを設立。スタートアップの広報戦略、広報人材育成をおこなう。2017年9月より、(株)カヤックLivingの代表取締役を兼任。暮らし、住宅、移住をテーマとする事業を展開する。1歳、4歳の男子ふたりの子育て中。鎌倉在住。
(※本文中/敬称略)
コントロールできないことも、PRの醍醐味のひとつ
松原:まず最初に、PRの仕事の魅力についてお伺いしたいです。おふたりはどんなところに面白さがあると感じていらっしゃいますか?
藤本:“自分の企みが成功してハマった”はもちろん、“まさか、そうくるのか”という、コントロールできないことも含めて面白いと感じています。
岡本:PRってある意味、企業の「求愛」活動みたいなところがある。どうしたら自分を好きになってもらえるのか、理解してもらえるのかって。そういうことを日々、実験しながら、研究するのが楽しい。私はPR業の他にジャーナリストもしているので、そこでどういうメッセージが刺さるのかを学んで、PRに活かすというのも面白いですね。
松原:今日のイベントのメインテーマでもありますが、キャリアについて悩んだことはありますか?
岡本:ライフイベントとの兼ね合いで葛藤したことはありますが、どちらかというとスパッと決めるタイプなので……キャリアについて悩んだことはあまりないかもしれません。
悩んだときに重要なのは、限られた時間の中で何を優先するかを考えること、これもあれもと抱え込まず絞り込むことと、ひとつの軸を持つということだと思います。
私の軸は、ずっと“コミュニケーション”でした。どんな選択をするにしても、そこからは離れないようにしています。その一方で、何かを手に入れるために、何かを手放すことも必要だと、思い切るタイプかもしれません。
藤本:私は手放すのが苦手で……以前の勤めていたGoogleを辞めるのにも3年かかりました。入社して6年目ぐらいから、このままやっていても結果は出せるしエラくもなれるかもしれないけど、それを望んでいるのかな……? ともやもやしていて。
でも、このままここに居れば、いつか何か開けるんじゃないかと思ったりして、なかなか動けませんでした。
ただ、それまで営業のキャリアしかなく、積めば積むほどそれ以外の職種に移ることが難しいなと感じ、辞めることにしました。結果、やりたいなと素直に思えたことをやるというのが自分ががんばれるし、成果を出せるように思います。
【INTERVIEW】「広報の仕事は何か」ではなく「自分はいま何をすべきか?」を問うー藤本あゆみさん
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PRの考え方は、会社のどのセクションでも活かしていける
松原:これからのPRパーソンとして、どんなことを身に着けておくべきだとお考えですか。
岡本:ミーハーであり、”超絶”好奇心を持つことだと思います。ただでさえ社会の変化が早く、ついていくのが大変な時代です。そんな時代でも、好奇心を持って、今何が人の心をとらえているのか、刺さっているのかなどに興味を持つことが大切かな、と。
藤本:キャリアという観点で大きくとらえると、“自分が好きじゃない方”を、あえて一回、試すことをなるべくやっておいた方が良いと思います。
「自分はこれだ!」と思い込んでいても、それだけじゃないことだって多々あります。だからこそ、好きじゃない方を一度は見てみる。それによって好きなことへの確証が持てたり、逆に新しい発見もあったりすると思っています。
PRの仕事においても、視点を変えることや俯瞰してみることが大事。私はアイデアに困ったりしたとき、たとえばひとつ手前の駅で降りる、違う路線で帰宅するなど、小さくても”いつもと違う行動”をしてみて、新しい発見を得るようにしています。
松原:PRの仕事って、とにかく視点を変えて俯瞰してみることが大事ですよね。私も経営をやっていると俯瞰した視点で全体を見ることが多いので、経営視点もPRに活きるなと思っています。
ちなみに、「この仕事をやっておけばよかった」「この視点がPRに生きるのではないか」と思われる職業はありますか? 具体的におうかがいしてみたいです。
藤本:営業は、本当にやっていてよかったと思います。営業って、8割くらいは話を聞く仕事なんですよね。広報も、「相手は何が好きなのか」などを把握し、関係性を高めることが求められます。だから営業と通じることがあると思います。
他の職業となると……カスタマーサポートに行きたいです。ダイレクトにカスタマーとコミュニケーションができて発見が多いと思うので。マーケッターのセンスはもちろん、文章力なども磨かれるように感じます。
岡本:コミュニケーションという観点で考えると、PRのスキルは会社のどのセクションでも活かせると思います。たとえばCSRや、人事などもそうですよね。PRのスキルをもっと社内で導入すれば、コミュニケーションが活性化されるのでは?と思います。
【INTERVIEW】2度の渡米とキャリアチェンジ。 ブレない軸があったから、専門家としての道が開かれた—岡本純子さん
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松原:たしかに、社員一人ひとりがPRの感覚を持っている会社は、ブランド作りが上手ですよね。
藤本:そうなんですよね。私は、広報担当者だけではなく、社員全員が“PRパーソン”だと考えています。お客さまに見せる資料1枚でも、その会社を代表することになりますから。
どの社員にもそれぞれネットワークがあって、個別に発信する先はありますよね。だからこそ、みんながPublic Relationsの感覚を持つかどうかで、会社が強くなるか否かがわかれるのではないでしょうか。
岡本:経営者が、PRマインドを持っていることも重要だと思います。
松原:私も一番のPRパーソンは経営者だと思っています。転職するときに、PRへの理解がある経営者か否かを判断するのもひとつかもしれないですね。
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普遍的かつ本質的。だからこそ正解がないのかもしれない
松原:あらためてになりますが、おふたりにとって「PR」とは何か、聞かせてください。
藤本:私はPRを「コミュニケーション」に置き換えて考えています。コミュニケーションって一般的だけど重要なことですからね。
岡本:私にとっては「生きがい」です。どうすれば伝えたいことが伝わるのか……を探究していくのが本当に面白いです。アメリカではコミュニケーションが科学的に分析されています。
企業のリレーションズもパーソナルなリレーションズも、実は根っこは一緒。「効く処方箋」が実は同じだったりして、すごく奥が深い。これからも一生追求していきたいと思っています。
松原:PRは目的ではなくて、「何かを達成するためのもの」というのが共通している見解でしょうか。
私にとっても、PRは相棒のような感じです。何かをやりたいときに上手く活用し、実現したいことを実現するために一緒にいるものだと考えています。
藤本:みなさんそれぞれですよね。私は前職ではじめて広報を担当する際に、いろんな人に「PRってなんですか?」と聞きまわったんです。そのときの答えは、本当に千差万別。こんなに答えが人それぞれで、決まった正解がないのであれば、自分らしくやろうと思いました。
松原:本当に、人それぞれかもしれませんね。それでは最後になりましたが、おふたりの今後のキャリアの展望を教えてください!
藤本:決めてません(笑) 私はあれこれと決めない方が、いろんなことを味わえる楽しさがあると感じています。先々の目標を決めないとがんばれない、という人もいますが、私は逆なんですよね。
岡本:先日、「人生というのは自分から何かを起こすことと、起きるのを持っていることの繰り返し」という言葉があって、すごくいいなと思ったんです。自分から立ち上がって行動を起こす時もあれば、次の波が来るのを待つときもある。
人と人のつながりがどんどん希薄化している今、もっと人がつながれる世界を、Public Relationsを通じてつくりたいと思っています。
正解なきPublic Relationsの奥深き世界
個人的な話ですが、新たにPRパーソンとしてのキャリアを歩み始めたばかりの私にとって、今回のお二方のお話は励みになり、刺激にもなりました。
社会の変化が早く、ものごとの善し悪しなんて、やってみないとわからないPRの世界。答えはないけれど、とても奥深く、これからも追求していきたいなと思いました。