「はいる・なじむ・はずむ・にじみでる」の4つのサイクルで、コミュニティは活性化する──OSIRO 杉山博一さん
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BtoB、BtoCに関わらず、さまざまな企業がステークホルダーやユーザーとのコミュニティづくりに取り組み始めた昨今。新しい役割として「コミュニティマネージャー」という職種も登場し始めていますが、コミュニティを活性化し、それを持続させる仕事はなかなか容易ではないという声も聞かれます。
そこで今回は、「サブスク型ファンコミュニティ」を構築するプラットフォームを運営するOSIROの杉山博一さんにヒントをいただくことにしました。コミュニティを活性化させるサイクルや具体的に必要な仕組み、そしてコミュニティが活性化・拡大した先にはどんな可能性が広がっているのか、じっくり教えていただきました。
Profile
杉山博一 Hirokazu Sugiyama
オシロ株式会社 代表取締役社長
元アーティスト&デザイナー。世界一周後、アーティスト活動開始、30才を機に終止符を打ち、日本初の金融サービスを2人で創業。その後ニュージーランドと東京の二拠点居住を開始、外資系IT企業の日本法人代表を経て、現在は東京に定住。「日本を芸術文化大国にする」というミッションを実現するべく、コミュニティ特化型プラットフォームを開発し、システム提供だけでなく、アドバイスサポートも行っている。
※所属・職位はインタビュー当時/2020年4月
アーティストに必要なのは「応援団」の存在
─ まずOSIROが生まれたきっかけを教えてください。
杉山博一さん(以下、杉山):きっかけは「天命」があったからです。小学生の頃、意識不明の重体になるような大事故に遭ってから、「人はいつか死ぬ、それならばやりたいことをして悔いのない人生をおくるほうがいい」と思うようになって。この大事故を機に親は「勉強しなさい」と言わなくなり、まったく勉強しませんでした(笑)
20代は世界一周の旅を経験し、帰国後、絵を描いて生きていくことを志していたんですね。でも絵だけでは食べていけない、食い扶持を稼ぐためにデザインを独学で身につけて、食いつないでいました。そして30歳になるのを機に才能がないと気がついて……。アート活動を諦め、ご縁で起業しました。それから、会社がある程度軌道に乗ったタイミングで、起業経験を自分の半径5mの人たちに提供したいと考え、デザインとコンサルティングを合わせたような会社を設立したんです。その後、ニュージーランドと東京を行き来するようなライフスタイルを送るようになりました。
ビジネスパートナーが永住権を取って住んでいたこともあり、ニュージーランドと東京を行き来する生活を4~5年続けてみて、自分も移住しようと思ったくらい好きになったんですね。それくらいニュージーランドは素晴らしい国です。でもあるとき、おまえは「日本を芸術文化大国にしなさい」という天命が降りてきて。
― それは突然降ってきたんですか?
杉山:そうですね。ヨーロッパが芸術文化大国として生き残っている一方、日本は経済大国になろうとしてきた。けれど、アジアに行けば分かる通り、彼らほどのバイタリティは今の日本にはありません。1年の半分をニュージーランドで過ごしながら日本を外から見るうちに、「このままでは、日本は生き残っていけないのではないか」と感じるようになっていたんですね。
日本が芸術文化大国になるために必要な宝であるアーティストたちが、30歳前後でどんどん辞めてしまうのが現状です。「日本というプレゼンスを保つための最も重要な部分を間違えているのでは?」と考え始めました。
アーティストが活動を続けていくために重要な要素は2つあります。それは「お金」と「応援してくれる人」です。お金の面は、バイトをしながらなんとか凌げるけど、応援してくれる人の存在はそんなに簡単に得られるものではない。だからこそ非常に大事です。アーティストは孤独と向き合っているからこそ、応援団がいてくれれば続けられると考えたんです。
この2つをアーティストに提供するようなサービスが海外にあれば日本に持って来ようと探してみたんですが、お金の支援をするサービスはあっても、コミュニティ機能も併せ持つサービスがなかった。これは自分でつくるしかない!と思い立ってつくり始めたのが2015年頃のことでした。一番最初に親友の四角大輔のコミュニティで、2015年12月からβ版の提供を開始しましたが、この頃はまだ法人化していませんでしたね。
― 賛同してくれる仲間との出会いもあったのでしょうか。
杉山:2016年の夏に、友人であるクリエイター・エージェンシー「コルク」代表の佐渡島康平に「所属作家さんにも使ってもらったらきっといいと思う」と提案したときに、「これからは、作家もエージェントもこういう仕組みがないと成り立たないから、一緒にやろう」と言ってくれて、最初の出資者になってくれました。オフィスを間借りさせてもらいながら開発を進め、佐渡島と、僕の親友である四角大輔3人を創業メンバーとして、2017年1月に法人化しました。
四角は約15年間、大手レコード会社に勤め、絢香、Superfly、平井堅、CHEMISTRYなどを手掛け、10度のミリオンヒットを記録。無名だったアーティストがトップスターになる道のりをプロデュースした経験を持っています。「ファンクラブの運営はすごく難しいけれど、軌道に乗せられれば不景気でもアーティストが食べていけるようになる。ファンとの関係を築けるようになる面でも、アーティストが活動を続けていくためには必要な仕組みだ」という想いとともに一緒に創業しました。
OSIROができた背景には僕の天命だけではなく(笑)、レコード業界を知る四角、出版業界を知る佐渡島、そして僕、3人の想いがあるんです。
メンバーが「偏愛性」を発揮することで、コミュニティはより活性化する
― 昨今、個人でオンラインサロンを運営する人も増えましたが、コミュニティとして活性化し続けるのは難しいように感じます。
杉山:難しい理由はいくつかあると思いますが、僕らが考えるコミュニティ活性化のサイクルがあるので、まずはそれを説明しますね。
コミュニティ活性化には、①コミュニティに「はいる」フェーズ、②入った後に「なじむ」フェーズ、③なじんだ後に「はずむ」フェーズ、そして④として、③によって「にじみでる」ものを知った人が、また①として入ってくるフェーズがあります。コミュニティの成長スパイラルには、「はいる・なじむ・はずむ・にじみでる」という4つが重要なんです。
1つ目の「はいる」では、コミュニティの旗振り役に共感した人が入ってきます。2つ目の「なじむ」ためには、さまざまな要素が必要ですが、安心安全だと感じられないコミュニティには人はなじめないんですよ。SNSで誰とでもつながれる時代にはなりましたが、逆にオープンすぎて、偏愛性など「本当の自分」を出せない人が多い。でも狭く深いクローズドな場があると、本来持っている自分の偏愛性を出しやすくなるんです。
― 「偏愛」、最近よく耳にするワードですよね。
杉山:偏愛性というのは、例えば「野球が好き」だけでなく「野球を表現するのが好き」みたいなことですね。野球が好きな人は世の中にたくさんいますが、「野球×表現」がしたい人も一定数います。そんな偏愛性のある人だけが集まれば、コミュニティは非常に盛り上がります。
野球が好きな人のオープンなコミュニティでは、特定の球団が好きだと言わなければならない暗黙のルールがあるらしいんですね。でも野球×表現のコミュニティでは、「実は私、好きな球団がいくつもあるんです」と言っても許される。野球で表現することが好きなのであれば、好きな球団がいくつあっても自由。これはクローズドじゃないと言えないし、盛り上がれないわけです。
そういう安心な場で「私はこれが好きだ」と発信することは、自分の服を脱いでいくようなもの。安心安全が担保されているから服を脱げる。服を脱ぐことで、自分の興味関心を相手に知ってもらえる。お互いが知り合うことで、そのコミュニティになじんでいく、という流れができるわけです。そして、なじむことでお互いを知り尽くせると、場がはずむんですよ。はずむ=自分の本心を隠さず、自分らしくいられるということなので、コミュニティが活性化していきます。
― 個人が運営するオンラインサロンだと、そのポイントを押さえるのが難しそうですね。
杉山:確かにそうですね。車を運転するためには教習所へ通う必要がありますが、コミュニティ運営に教習所はありません。車が置いてあって「じゃあ運転してください」と言われるようなもの。それなのに会社からは、コミュニティ運営による売上や人数規模が求められるわけです。運営の仕方もわからないのに、1人で始めなければならない。さまざまなコミュニティでそんなことが起きているのが現状だと感じています。
― 逆に、コミュニティ運営が上手くいっている事例はありますか?
杉山:OSIROでいうと、「文春野球学校」さんはうまいですね。新しいメンバーを追加すると、どうしてもコミュニティ全体の温度は一旦下がります。それがなじんで仲良くなるとまた弾むので、再び熱量が上がってくるんです。文春野球さんは、この繰り返しで少しずつ大きくなってきたコミュニティですね。入りたい人は事前申し込みという形で予約できるんですが、今はメンバーより予約者のほうが多いんです。
― OSIRO側はどのように関わっているんですか?
杉山:コミュニティプロデューサーという役割の人間が、コミュニティ設計や運用をお手伝いしています。文春野球さんの場合、最初のコミュニティマネージャーを担当された方が法務部の方だったのですが、本職が非常にお忙しい。そこでコミュニティの会員に「ちょっとコレお願い!」と頼むことも多いそうです。でも、頼まれた側は嬉しいんですよ。
― 偏愛性がマッチしている安心感と、コミュニティの中で何らかの役割がある、自分が関わっている部分があることがポイントなんですね。
杉山:そうそう。メンバーは最初、悩みを解決することや、大好きなものについて話したいという欲求を満たすために入ってきます。それが満たされると次は「この場所を守りたい」とフェーズが変わります。オープンなSNSでは炎上することもありますが、自分の大好きなクローズドの場を壊すようなことは起こしにくいものです。「守る=貢献したい」とメンバーの意識も変わってくるんですね。
「ここでしかできないプロジェクト」で帰属意識が高まる
― なるほど。ファンクラブのような1対nの関係ではなく、n対nの関係性でコミュニケーションが活性化するために必要なことは何だと思いますか?
杉山:n対nって、最初はお互いの人となりがわからない状態ですよね。OSIROにはプロフィール写真が登録され、SNSと連携することもでき、本名だけでなくあだ名も入れられるようになっています。見た人から、「この人とは仲良くなれるかもしれない」と思ってもらえる要素を入力してもらっているんですね。お互いに仮面をかぶった状態で、どこの誰かもわからないようでは近づきにくいじゃないですか。
― 先ほどおっしゃっていた「心理的安全性」には、クローズドかつ人となりがわかる状態が必要なんですね。
杉山:そうですね。n対nがお互いを知った後の活性化フェーズでは、2つの重要なポイントがあります。1つは「ここはn対n同士、仲良く交流してもいい場所なんですよ」と啓蒙すること。これによりメンバー同士が自ら企画を立てるようになり、コミュニケーションが活性化していきます。
もう1つは「ここでしかできないこと」を運営側が提示することです。n対nで出会った人同士、コミュニティを辞めて会費を払わなくても、仲良くできてしまうわけです。ただ、運営側がそのコミュニティでしかできない独自のプロジェクトやコンテンツ企画ができるというような参加型のコンテンツを提供することで、コミュニティの中で熱量が高まるんですね。
先ほど例に挙げた文春野球学校さんでは、運営である文藝春秋社の方が「ブックフェアに出す雑誌をつくろうよ」と呼びかけたんです。「野球×表現」欲求のあるメンバーが集まっているので、みんな大喜びして。写真撮影やライティングなど、メンバーそれぞれが自身の強みを活かし、冊子をつくるプロジェクトが生まれました。
仲良くなった人同士がコミュニティの外でつくることもできるかもしれませんが、コミュニティの中だからこそ「【公式】文春野球学校」という冊子がつくれる。つまり、「そのコミュニティでしか得られない体験」になっているわけです。
― いわゆる「参加型コンテンツ」ですね。
杉山:そう、参加型のコンテンツはやはり自分事化しやすいので、満足度が高いんですよ。冊子の表紙を選ぶだけでも「参加している感」が得られますから。そして満足度の高さゆえに、そのコンテンツが商品化された際に口コミが発生しやすい。熱量高くコンテンツに関わった人の数は100人程度でも、彼らが熱を持って友人たちに伝えることで、結果として多くの人に作品やサービスが届くことになります。
n対nではなく、アーティストとファン(1対n)でも同じことが起こります。例えば音楽アーティストが新アルバムを発表する前に、コミュニティで「今度のアルバム、この曲順でいこうと思うんだけど、どうかな?」と投げかけるとします。コアなファンならアーティストの意図や文脈が分かるので、アーティストにとって有意義な意見を寄せてくれるんですね。
もちろん、その意見を受け入れるかどうかはアーティストが決めることですが、コミュニティのメンバーは「自分がアルバム制作に参加した」という感覚を持ってくれるので、発売後に口コミしてくれる可能性が高い。コミュニティでのやり取りが、結果的にアーティストに還元されるんです。
コミュニティプロデューサーは「教習所の教官」
― 先ほど出てきた、コミュニティプロデューサーの仕事について教えてください。
杉山:コミュニティの運営には、ノウハウもシステムも必要です。プラットフォーム自体はいくつか出てきていますが、先ほどの教習所の例でいうと、彼らは運転の仕方は教えてくれません。でも実際にコミュニティを運営するためには車だけでなく、運転の仕方を教えてくれる教官も必要なわけです。
OSIROはコミュニティプロデューサーが教官の役割を果たしており、コミュニティが盛り上がるための属人的なノウハウを日々現場で見つけ、再現性が高まるよう機能改善を実施しています。毎週機能改善をリリースしているので、年間700~900個の機能が開発 or アップデートされています。
はじめにコミュニティオーナーと打ち合わせをして方針を決め、コミュニティ設計のお手伝いをするのもコミュニティプロデューサーの仕事です。コミュニティができた後も、定期的にサポート、アドバイスをしていきます。
― 実際に機能改善された例はありますか?
杉山:なじむフェーズで利用する「バディ機能」をつくりました。既存メンバーが「新しい人が入ってきたら、教えてあげるよ」というステータスをONにしておくと、新規メンバーがバディを申し込めるんです。既存メンバーは1ヶ月間、バディを組んだ新規メンバーからさまざまな質問を受け付けサポートできる仕組みです。
― バディはどのようにマッチングしているんですか?
杉山:OSIROには「興味関心機能」というものがあって、コミュニティごとに独自の「興味関心カード」がつくれるようになっています。カードは既存のものから選ぶこともできるし自分でつくることもできるのですが、例えば「コーヒーが好き」というものから「○○産のコーヒー豆が好き」というようところまで、興味関心の幅や深さを示すことができ、そのデータベースから共通項をもとにバディが選ばれるシステムになっています。
バディ同士のやり取りはクローズドな場ではなく、新規メンバープロフィール内のメッセージボード上でしか行うことができないので、コミュニティ内ではオープン。安心安全を保つことができる仕組みになっているんです。
― ユニークなシステムですね。ただ、案件が増えたり規模が広がったりすると、1人のプロデューサーが見られる範囲は限られてくるのではないでしょうか?
杉山:もちろんコミュニティプロデューサーの数は増やしていきますが、並行して、運営者であるコミュニティマネージャーの仕事が減るような仕組み化も進めていきます。コミュニティマネージャーの手腕に左右されずコミュニティが活性化するノウハウをテクノロジーに落としていく。これを僕らは「コミュニティマネージャーのAI化」と呼んでいます。
家族のような関係性とミッション達成の両立を目指したい
― コミュニティを大きくすればするほど、実現できることは増えていくのでしょうか。
杉山:僕らも実践しつつ、答えを出せるところまではまだ到達できていません。ただ、コミュニティづくりと会社の組織づくりは限りなく近いものだとわかってきて、すると規模を追いかければいいというものではないな、と。組織をつくるときに、人数を目標に設定することはあまりないですからね。
そして、組織にミッションがあるように、弊社にも「日本を芸術文化大国にする」というミッションがあります。それに共感してくれる人、成し遂げたいと心底思える人と一緒にやっていきたいと思っています。
世界に約5万人の従業員を抱えるSalesforceは、社員を家族だと言っています。僕も同じで、社員=家族だと思っていて、それを体現するために、OSIROのメンバーは僕も含め名刺を「御城(オシロ)」という名字に変えてしまったんですよ(笑)。
本当の家族よりも多くの時間を過ごしているのがOSIROのメンバーなので、もしかすると家族よりも濃い関係だと言えるかもしれません。
ミッションを達成するには人数が多いほうがいいかもしれませんし、500人、1,000人と増えていく会社もあるけれど、僕らにそのイメージはありません。最大で150人くらいかな。150人でも、1,000人規模の成果を出せるような組織を理想としている。家族としての心地良さとミッション達成。そのバランスをうまく取っていきたいですね。
― 確かに、コミュニティの人数が増えていくと、互いの関係性は薄くなっていくのかもしれませんね。
杉山:組織に限らず、コミュニティも「150人」が目安だと言われていますが、それはインターネットがなかった時代の指標です。Facebook社はチャットの上限の人数から250人と定めているようですね。僕らの感覚値とも合っていて、OSIROが運営するコミュニティの多くは、250人くらいの規模です。
ただ、今後さまざまなファンコミュニティができていく中で、250人ではビジネスとして成り立たないケースもありますし、規模的に参入してもらいにくい。
数千人、数万人規模のコミュニティになっても、150~250人のコミュニティと同等の関係性をつくるにはどうすればいいのか。僕らの仮説は、規模が大きいコミュニティでも「自分が話しをできる人」の上限を決めれば良いのではということでした。
そこでOSIROでは、フォローできる人数を150人に制限したんです。3万人のコミュニティでも、自分と仲が良い人、コミュニケーションが取れる相手は150人まで。全体の話題を見ることはできたとしても、実際に会話ができ、交友関係を結べる人数を限ることで、関係性の深さが損なわれることはないのではないか?この仮説のもと、いくつかの大型案件で実証していく予定です。
それを実証できれば、コミュニティの可能性をさらに広げられると考えています。
コミュニティ運営と組織づくりは似ている
会社の法人格を「1」と考えると、従業員(n)との関係性は1対nと捉えることができます。コミュニティ規模の適正値である250人と従業員同士(n対n)の関係性を考えてみると、組織における「事業部」は私の知る限りだいたい150~250人規模が多いことに気づき、膝を打ちました。
新型コロナウィルスの拡大によってリモートワークを余儀なくされる中、今後はますますオンライン上でのコミュニケーションが重要になってくると感じます。「コミュニティ活性化のサイクル」を、いかにオンライン上で実現していくのか。OSIROのコミュニティ運営を参考に、私もじっくり考えてみたいと思います。(編集部)