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PRパーソンは、自分のタグを活かし健全な「ネットワーク」を築いていくべきーーLinkedIn 村上臣さん

INDEX

パブリック・リレーションズは、何も広報だけが担当するものではありません。ときには会社の代表から一般の社員までが、その役を担うこともあるはずです。

今回は、広報担当者不在のLinkedIn日本法人で、代表でありながらPR的な役割にも注力し、順調に露出を増やしている村上臣さんに、PRパーソンとして世に認識されるためには何が必要なのか、キャリアの観点で語っていただきました。

PRパーソンはその特性上、会社名やサービス、プロダクトとセットで認識されがちです。

その中でも、どうやって自分の強みとなる「タグ」を見つければ良いのか。そして、そのタグを活かしながら、どのようにして「人脈」とは違う「ネットワーク」を築くべきなのか。広報ではない村上さんだからこそ語れる知見やヒントがありました。


Profile
村上 臣さん Shin Murakami

大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。その後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にLinkedInの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。


人脈とネットワークの違い

― 村上さんはよく「人脈づくり」と「ネットワーキング」は違うとおっしゃっていますが、具体的にどう違うのでしょうか?

村上さん(以下、敬称略):「人脈」というと、一方的にメリットを期待しているように感じます。ロジックを超えてねじ伏せるというか、表立った場では話せないけど、「俺とおまえの仲だからさ!」みたいな(笑)。

一方、「ネットワーク」は完全に対等で、お互いがWin-Winな関係を目指すようなイメージです。今すぐ何かにつながらなくても、定期的に情報交換したり、人を紹介したり、健全にビジネスに広がっていく。話をしていて、お互いにインスパイアされるような関係性は、非常にフラットでフェアな良い関係になるし、何より長続きすると思います。

― 村上さん自身は、いつ頃からその違いに気づいたのですか。

村上:僕は学生時代に仲間と起業しましたが、当時はもちろん、自分たちで仕事を取りに行かなければなりませんでした。最初はなかなか相手にしてもらえませんでしたが、小さなお仕事をいただき、それに必死に応え続けました。それが評価されて次々と仕事が取れ、ビジネスはどんどん大きくなっていきました。

僕は起業した「電脳隊」という会社の他に、個人でもビジネスをやっていました。大学に入る前から、常連だった秋葉原のパソコン屋でアルバイトをしていたのです。

法人のお客さんを担当することが多く、ファイルサーバーの共有やプリンターの設定など、社内イントラネットの相談を受けていました。普通の企業に発注すると何百万という見積もりになったと聞いたので、「僕ならもっと安くできますよ」と言ったら、「じゃあやってよ」という話になって。そこでも人が人を呼ぶように、紹介でどんどん仕事がもらえるようになりました。

その頃は「ネットワーク」というより、まだ「人脈」に近かったかもしれません。

でも、健全な関係から得た経験で、真面目に話して情熱を持って仕事をして、結果を出すとちゃんとつながっていく――当たり前の話かもしれませんが、これが自分の原体験になっています。

― パソコンに詳しいというご自身の強みが、健全な関係性、仕事につながったんですね。「ネットワーク」を築くために必要なことは何だと思いますか?

村上:お互いに良い質問がし合えるかどうかです。質問には、相手のことをどれだけ見ているかが現れると思います。

たとえば、お互いがやっているサービスやプロダクトのことを知っていれば、会う前にそのサービスやプロダクトを使ってみることができますよね。それだけでも、会ったときの会話は全然違うと思いませんか。

自分が開発したサービスを実際に使ってくれたなら、具体的にどこが良かったのか/改善点はどこか、具体的に聞きたいですよね。たとえば「何でこういうUIにしたの?」と聞かれたら意図を説明できますが、そこで「俺は全然そう思えない」と言われたら、それは自分にとっての気づきになります。同じように他の人にも聞いてみたら、大多数の人が同じことを言っていた――そうだとしたら、自分たちが間違っているかもしれないということになるわけです。

前職(Yahoo! JAPAN)ではシリコンバレーに行く機会が多くありました。向こうのスタートアップで働く人に会う際に、僕が提供できるバリューは日本の事情を伝えることだと考えました。日本で流行っているアプリを紹介し、逆にシリコンバレーではどんなアプリが流行っているのか聞いてみる。お互いの情報交換としてのバランスも良いし、話も弾みます。

その中で、日米の似ている部分や異なる部分が明らかになって、彼らにとってもアメリカ以外に進出する際の視点を得る意味で、メリットがあったと思ってもらえたはずです。

そういうやり取りがあると、関係性は続きます。彼らが日本進出を考えたときに、「ちょっとお茶しようよ」「誰か紹介してよ」とメールがくるわけです。こういう感じが「健全なネットワーク」だと思います。明らかに「人脈」とは違いますよね。

自分の「タグ」の見つけ方

― 「健全なネットワーク」を築くには、何か相手に与えられるメリットが必要ですよね。村上さんはよく、自分に「タグ」を付けて第一想起される人になる重要性について語っておられます。でも、自分のタグがわからない・見つからない人も多いのではないでしょうか。

村上:そのうち何か見つかるとは思いますが、新卒や20代半ばの人のウリは「元気が良くて、やる気があること」。これは僕のような40代には真似できません。「とにかく何でもやります!」という勢いだけでもいいのです。実際、学生時代の僕もそうでしたから。

行動しているうちに、人と同じだけ頑張っていても評価されるものとされないものが出てきます。自分では「こんなに頑張ったのに、何で評価されないのか」と思ってしまいますが、そこは割り切って評価されるほうをもう少し頑張ってみる。さらに評価されたら、もしかするとそこで評価されたことが周りから見た自分の強み=タグかもしれませんよね。

特に、自己評価と他己評価のバランスは常に意識しておくべきでしょう。努力と成果はあまり比例しませんし、自分が思った通りになるのは稀です。”他者からどう評価されたか”と、”自分の出した結果と、結果についてどのように努力したか”という自己評価、このふたつのバランスをどう取るか。

ただ、他己評価ばかり気にしても疲れてしまうので、自分の中で「ココまで頑張ったら、これくらいの期待に応えられる」という基準を持って、それが周囲と合っているのか、自分が思ったより評価されているのかなど、冷静な目で常に見るのはすごく大事なことだと思います。

― 自分では気づいていないけど、第三者にとっては価値があるということですね。それだと自分では意識的にタグ化するのが難しいと思うのですが、どうすればいいでしょうか。

村上:人に自分の価値を言ってもらえるような環境をつくることです。それがまさに「ネットワーク」なのですが、自分のことをよく知っていて、お互いに忌憚ない意見が言い合える関係をどれだけ持てるかがポイント。

そのためにも、自分が何をやっているかを開示することが大前提にあります。僕がLinkedInにいるから言っているわけではなく(笑)、以前から自分が個人的に何をしてきたか、周りに伝えるようにしていました。そうすることで、何かあったときに想起される確率が高まるからです。

僕はモバイル業界での経験が長いので、テック系・モバイル・IoTというタグを持っています。でも今は人材マーケットにいるので、異業種に近いチャレンジをしているわけですよね。

HR業界でのブランドは全くありませんが、Yahoo! JAPAN時代に新規事業開発や、どうやって社内外をレバレッジして結果を出すかなどの経験があるので、オープンイノベーションのような近接領域はあります。

これは働き方改革の文脈に近いので、その経験を利用してLinkedInの魅力を伝えるためのセルフブランディングを始めています。その一環が、最近注力しているブログです。

自分の「タグ」を活かして社会に貢献する

― ネットワークとタグの話を結びつけると、やはり「自分のテーマ」を持つことが重要だと思います。いかに人から求められるテーマを持っているかが、ネットワークを築くにあたって重要なのではないかと思います。

村上:そういう意味でいうと僕は今、PRパーソンのような仕事をしていますが、広報実務の経験はありません。でも、直近半年の露出状況を見てもらえれば、かなり上手くいっています。

なぜかというと、僕のキャリアがかなりユニークで今の文脈とも合っているので、みんなが興味を持ってくれるから。それが勝手にテーマになっているのです。

僕はLinkedInに転職する際、日本法人に広報担当者がいないことを知っていましたし、マーケティングもいない、予算もないことも分かっていました。そこで僕は、Yahoo! JAPAN時代に知り合った記者の人たちに転職する予定だと伝えておいたのです。

僕が持っている「テクノロジーを分かりやすく伝える」というタグによって、以前からよくさまざまなメディアの記者から相談をもらっていました。彼らとの関係性ができていたので、いざ転職したときに日経新聞などに記事にしてもらえたのです。

― まさに村上さんならではのタグの活かし方ですね。

村上:IoTなどテクノロジーのテーマであれば、インプットもアウトプットも全く苦ではないですね。必ずしも直近の仕事に役立つわけではありませんが、テクノロジーを正しく理解して使える人を増やさないと、今後大変なことになると危惧しています。どの産業もICTと無縁ではいられません。

業界以外の人が、もう少しテクノロジーに詳しくなれば、世の中はより良くなるはずだと考えています。そのために役立つことができるなら良いと思っているのです。広義の意味で、自分にも還ってくるはずですから。

それは短期のROI(投資収益率)を考えると絶対にできないことではあります。そして、会社にとってのパブリック・リレーションズにも同じことが言えると思います。中長期のROIで見ると非常にコストパフォーマンスは良いですが、短期のROIではコスパ最悪ですから(笑)。

PRパーソンとして個人で立つためのカギは「再現性」

― 企業に所属する広報担当者は、プロダクトやサービス、社名がタグになるというか「○○社の**さん」と呼ばれることが多いように思います。そんな中、PRパーソンとして個人で立つためには、どうすれば良いのでしょうか。

村上:PRの仕事は役割上、どうしても会社と紐付いています。PRが成功しても、その会社のブランドが良かったからなのか、広報担当者の努力の成果なのか分からないですよね。

本当は何社かやって、「あの人が手がけているものは全てバズっている」「適切なコミュニケーションが取れている」と評判になってくると、個人にフォーカスされるのですが、だいたいそういう人は独立してしまうという(笑)。

― そう考えると、PRパーソンが会社以外のタグを持つのはなかなか難しそうですね。

村上:そうかもしれません。

ただ広報は専門職なので、プロボノでも何でもいいので、副業としてスタートアップやNPOなどPRに困っているところを手伝ってみると良いと思います。週に1度でも手伝って何らかの結果が出てくれば、再現性があると言えるようになるので個人のタグになっていきます。

さらに副業先を選ぶ際、自分の興味関心と合わせることによってタグの掛け算になり、希少性が高まります。たとえば、会社ではコンシューマープロダクトのPRをやっている人が実は林業に興味があって、林業に関するNPOのPRをプロボノでやったら他にはいないPRパーソンになれますよね。

― 「広報は専門職」それを意識すると、自分がどんなタグを持ったPRパーソンになりたいのか想像することができそうです。最後に、PRパーソンに限らず、キャリアについて村上さんが考えていることを教えてください。

村上:やはり「仕事が楽しい」という人が増えてほしいと思っています。

キャリアに対して積極的に行動できない人は、食べていくために仕方なく働いているなど仕事に楽しさを感じていない、ややネガティブな印象を持っているように感じます。

でも、「人生100年時代」と言われる中、起きている時間の半分以上は仕事をしているわけです。どうせやるなら、楽しい方が良いですよね。

キャリアという意味では、仕事を通じて自分の中に達成感や楽しみを見つけるのが大前提になるのではないでしょうか。まだ若いから分からないというのであれば、とにかくいろいろなことをやってみると良いと思います。動いているうちに「自分はこういうことに向いているかも、楽しいかも」と分かってくるはず。

自分がなりたいものと、向いていることは必ずしも同じとは限りません。僕がまさにそうで、新卒のときの第一志望はパイロットでしたから(笑)。JALのパイロット試験を真っ先に受けに行きましたが、3次か4次面接で落とされました。もしパイロットになっていたら、全然違う人生になっていたでしょうね。

いずれにせよ、動きながら自分のやってきたことをオープンにすることで自分のタグを見つけ、そのタグを活かして忌憚ない意見を交わせる「ネットワーク」を築くことが大切です。「仕事が楽しい」と思えるよう、まずは自身のキャリアの棚卸しから始めてみてください。

PRパーソンが「黒子」ではいられなくなる時代がやってくる

村上さんとの対話の中で、「PRパーソンは黒子である」というこれまでの当たり前が、大きく変わりつつあることを再認識しました。では”黒子”ではいられなくなったとき、私たちPRパーソンはどんなタグをつけることができるのでしょうか。もしかしたらそのヒントは、村上さんのような、広報領域の”外”にいるビジネスパーソンから得られるのかもしれません(編集部)