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博報堂ケトル 嶋浩一郎さん × PR Table 大堀航「経営に徹底してコミットする、“筋肉質なPRパーソン”の時代へ」

INDEX

*本記事は、2018年に実施したインタビューを要約・再構成したものです。

熱いPRパーソンと共に議論し、PRの解像度を高めたい——そのときPR Tableの創業者・大堀航は、ある人物を真っ先に思い浮かべました。手段にとらわれない「手口ニュートラル」を掲げる、博報堂ケトルの嶋浩一郎さん。

クリエイティブ偏重に陥りがちな広告代理店の中で、早くからPR主導の統合コミュニケーションを提唱し、世の中を沸かせてきたPublic Relationsの第一人者です。

PRパーソンが、まだまだ“黒子”としてのポジションに甘んじている今。これから先の未来、PRパーソンが本来、兼ね備えている力を発揮していくためにはどうするべきか。

共に自ら会社経営に身を投じ、Public Relationsの可能性を探究し続けるふたりが、私たちを取り巻く環境の変化をふまえ、PRの未来を議論しました。


Profile

嶋浩一郎さん Koichiro Shima

株式会社博報堂ケトル  取締役・クリエイティブディレクター 

1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『ケトル』の編集長、エリアニュースサイト「赤坂経済新聞」編集長などメディアコンテンツ制作にも積極的に関わる。2012年東京下北沢に内沼晋太郎との共同事業として本屋B&Bを開業。編著書に『CHILDLENS』(リトルモア)、『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー21)、『企画力』(翔泳社)、『このツイートは覚えておかなくちゃ。』(講談社)、『人が動く ものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』(誠文堂新光社)がある。

———–

聞き手:大堀航 Ko Ohori

株式会社PR Table 取締役/Founder

1984年神奈川県生まれ。大手総合PR会社の(株)オズマピーアールを経て、国内最大のオンライン英会話サービスを運営する(株)レアジョブに入社。PRチームを立ち上げ、2014年6月に東証マザーズ上場に貢献。2014年12月、(株)PR Tableを創業。


現代版の“産業革命”でPRのあり方が変貌している

大堀:僕たちは、自社事業を通じてお客さまと接する中で、Public Relationsが経営の根幹に関わる、まさにその必要性が増してきたことを実感しています。

嶋さんは長きにわたって多数の企業コミュニケーションに携わってこられていますが、最近、感じている変化はありますか?

嶋浩一郎さん(以下、敬称略):いま、同時多発的に変化が起きているね。それは現代における、いわば“産業革命”といえるものだね。

あらゆる業種において、企業と、生み出されるプロダクト、そして生活者が直接つながる時代に突入してきた。5Gの時代がきて、全てのものがネット接続しクルマも家もネットと常時接続するようになる。

これまで日本を支えてきた自動車産業、最先端のアパレル産業など、その技術革新は目覚ましいものがあるよね。

大堀:たしかにそうですね。生活者のオーダーメイド的なニーズをくみ取り、ビッグデータの活用でそれを満たしたり、プロダクト自体に通信機能を搭載し、ネットワーク接続を可能にしたり。

:この、現代版ともいえる“産業革命”によって、PRにどんな変化が起こっているのか。まずひとつには、とにもかくにも「生活者との直接的コミュニケーション」が要請されはじめていること。

大堀:これまで現場レベルで、一般的に「PRの仕事」と考えられてきたのは、たとえば記者発表会を開くなど、トラディショナルなメディアを介したコミュニケーションでした。でも、今はそこからさらに先へと進んでいるんですよね。

:そう。企業やプロダクト自体が、直接、生活者とつながる時代になった。だから、PR従事者も、これまでの仕事だけではとても十分とはいえなくなっていると思うよ。

いまは自分たちが理想とする企業としての在り方や、描いているビジョンを、生活者に対して「直接」語りかける時代。そう考えると、記者会見ひとつを開くにしても、たとえばマスメディアだけではなく一般の“生活者”を誘致したって、本来はいいはずなんだよね。

大堀:そうした企業と生活者の関係性を、メディアが“目撃者”として報じる、という構図に変わっていくということですね。こうした流れの中で、メディア人材のインハウス化も目立ってきているように思います。

元・記者や編集者、デザイナーなどが事業会社に移籍してコーポレート・ブランディングの重要な側面を担い、活躍しているケースをよく目にするようになりました。

:’90年代まではマス広告を使えば効率的に顧客とのコミュニケーションがとれていると思われていた。でもSNSの台頭に代表される情報環境の変化で、いまは企業活動を展開していくために、生活者との関係構築や、合意形成が必要不可欠であることが顕在化している。

そこでオウンドメディアなどが注目されているわけだけど、しっかりワークするものを立ち上げようとなると相当な覚悟が必要。実際に生活者とうまくコミュニケーションがとれているのは、本当にごく一部だろうね。

経営者と対峙できるPRパーソンになるために

大堀:PRを取り巻く変化といえば、もうひとつ。そもそも組織のトップがPRに深く関わることは重要でしたが、より一層、その重みが増してきた印象を受けているんです。

これからのPRパーソンは、経営者と対峙して適切なストーリー構築を提言し、企業経営に寄与できなければならない。そのために、どんなスキルやマインドが求められると考えますか?

:押さえておきたい大きな変化のひとつとして、企業が語る「ビジョン」が、これまでよりもより重要になってきたし、そのスパンも長いものになっている印象を受ける。企業への期待値が、企業ブランド形成のコアになってきているでしょ。

これまでは数ヶ月、長くても数年単位の施策を練っていれば十分だったけど、技術革新を成し遂げたことで、数十年単位で企業のビジョンを語る必要が出てきた。

大堀:そこで短期的な視点しか持っていないと、経営者と話しても全く噛み合わないんですよね。僕自身も経営をすることで視座が大きく変わったので、その感覚は非常にわかります。

:企業ビジョンが壮大になるのに伴い、PRパーソンに求められるスキルも変わってくる。まだまだ希少だけど、たとえばPRとマーケティングの領域を相互に“越境”した人材は、これから価値が高まってくるはず。

「社会的文脈を汲み取り、世の中の反応を予測する」という従来のPRの力に加えて、市場の潮流も読めるマーケティングのスキルが不可欠になるね。

大堀:企業のコミュニケーション課題が高度化する一方で、PRパーソン自身のスキルやマインドは、そのレベルにまだ追いついていない危機感も覚えます。僕も、もともとはPR会社の出身だからよくわかるんです。PRを生業にしている人たちこそ、視座を上げていかないと。

:そうだね。特にPRエージェンシーの中にいて、経営者と対峙できる人材は圧倒的に不足しているように思う。自分たちの仕事を「パブリシティ」に限定してしまってきたことや、黒子に徹するメンタリティなどに起因しているのだろうね。

ただし、最近はパブリシティも獲得できないPRパーソンが増えてきているのも事実。正直、そこは大前提のスキルとして押さえてほしいけどね。

大堀:PRの基礎が、パブリシティによって培われるのは事実ですからね。世の中やメディアの文脈を読み取ることの延長線上に、経営への想像力もあると思います。

:PRパーソンは社会の風向きを理解できるうえに、生活者と関係構築を図り、合意形成へとつなげる手法をいくつも持っているべき存在。そのテクノロジーを持っている人は、経営の中枢となる重要な場に呼ばれるようになるはずだよ。

大堀:たとえば著名なクリエイターなどがそうであるように、PRパーソンも、経営者と並んでしかるべきですよね。

そうした視点で考えていくと、ハイブリッドな能力を備えたPRパーソンが、この状況を変えるかもしれない。たとえばプログラミングができるPRパーソンとか、これまでになかった切り口から合意形成を成し遂げられるような人材が出てきてもいい。

そうしてさまざまな領域を“越境”したハイブリッド人材が増えてきたら、社会がもっと良くなりますね。PRパーソンがプロモーションやパブリシティのことだけを考えていればいい時代は、もはや終わったと思っています。

PRパーソンの未来は、経営に対する“コミットメント”の先にある

大堀:これから先、PRパーソンの在り方はどのように変化していくのでしょう?

:PRエージェンシーに関していうと、まず“稼ぎ方”がもっと多様化していくだろうね。現状では作業量そのものや、広告換算額に対して報酬が支払われるというのがひとつのスタンダードな形になっているけれど、経営側からみると本質的ではない。

パブリシティはあくまで手段にすぎないので、その先のビジネスインパクト——売上なり、利益なり、何かしらの成果数値に対する報酬制に変わっていく方が、企業にとってもPRパーソンにとっても幸せだろうと思うよ。

大堀:ビジネスにおける成果数値に対する報酬制に変わっていけば、たとえばエージェンシーにとっての営業先も、対象は広報部にとどまらなくなるんですよね。優秀な人材を採用できるならHR、株価の上昇に貢献できるならIRと、クライアントの幅も格段に広がっていく。

:そうそう。もともと関係構築や合意形成の手段は、もっといろいろあっていいはず。本来、PRパーソンは多くの領域をつないで何でもできる存在であり、何をやっても許されていたわけだからね。

僕はよく、「恋と戦争は手段を選ばない」と言っているんだけど(笑)。それを実現するためには、とにかく、PRパーソンもいろいろなところに“越境”していくしかない。

経営を軸に、データやクリエイティブ、マーケティングなどと、PRの世論を読む力。そこで掛け算ができ、数値的な成果が生み出せる人は強いと思うよ。

大堀:“越境”に加えるとしたら、僕自身は“コミットメント”がキーワードになると考えています。ビジネスにおける成果を生み出すことに対し、徹底してコミットできる力を持ったPRパーソンが必要じゃないか、と。

:それはその通りだと思うね。これまで多くのPRパーソンは、どうしても経営数値に対するコミットメントから逃げてしまっていたところがある。広告換算額は「逃げの指標」の最たるものだと思うよ。

大堀:そもそも、企業が投資している「お金」の構造をよく理解できていないPRパーソンが多い気がします。一度は、自分で事業をやってみた方がいいですよね。

:まあ、そうだよね。

大堀:僕自身も、会社を経営してみてはじめてクリアに理解できることがたくさんありました。嶋さんも長らく会社を経営されていますが、一経営者としてどう思われますか?

:僕はよく、周りから「嶋は楽しい仕事しかしていないよな」と言われるんだけど、違うんだよ。いわゆる“お金勘定”も意外にやってるよ。明確に、PRパーソンとしての自分たちが、どれだけ事業に貢献できたのかわかると責任や自信もでてくる。

大堀:どんな経営戦略のもと、どういう仕組みでオペレーションが走っていて、どんなコミュニケーションに基づき、目の前の「お金」が支払われているのか——。そうしたビジネスの大きな流れを知ることは大事ですよね。

一度そこが見えると仕事の“解像度”が高まり、より数値へのコミットメントの重要性が理解できるようになる。

:僕の場合は、20代の頃から雑誌の編集長をやったり、事業の立ち上げで他社に出向したり、プロジェクトごとのPLやBSを見てきたりした経験も大きいかな。

今も、下北沢で『B&B』という書店を経営しながら、いろいろな“実験”ができている。どんなに小さくてもいいから、自分で事業をやってみると、コミットメントに対する意識は確かに変わるかもしれない。

ただ、そもそもの話として、ひとつの企業のビジネスで成果を生み出すために、本気で数値にコミットメントするのは本当に大変なこと。

だからPRパーソンは、これから、より“筋肉質”になっていかなければならないね。

大堀:筋肉質……! 確かにそうですね。そうすれば、仕事での「汗のかき方」も変わるし、新しい市場が拓けるはずだと思っているんです。

逆に経営者の立場からみると、ビジネスにコミットできる人は、非常にありがたい存在。僕自身、PRエージェンシーと事業会社の広報を経て起業し、つくづくそれがわかるようになりました。

どんな環境においても、経営的な成果にコミットメントすること。そうした在り方を目指していけば、PRパーソンのプレゼンスも自然と上がっていくんじゃないかと思っています。

:そう、コミットメントの強さはフィーの向上にもひと役買うし、その人自身の役割の重さも増すよね。

PRパーソンに限らず、ビジネスで求められる成果に徹底してコミットメントできる人は、どんどん需要が高まっていくはず。「宣伝」や「広報」というように従来通り縦割りされた役割を超えて、経営者は手段を問わず、ビジネスインパクトを求めているからね。

我々のようにPRに携わる人間も、よりエフェクティブな課題解決に導くことを目指していきたいね。

本質的なビジネスアイデアは、徹底したコミットメントから生まれる

現在のPR業界を築いてくださった嶋さん。お話をしていく中で、クリエイティブやアイデアだけがすごいのではなく、経営者としても「ビジネス」にチャレンジしていることを改めて感じました。嶋さんのように日本を代表する企業の経営者と相対するには、さまざまな領域の知見やスキルを身につけなければならない。そうした貪欲さが、これからのPRパーソンには必要なのだと思います。

「ビジネスについて考える」とは、すなわち結果(数字)に向き合い、徹底してコミットすること。PRパーソンも徹底的に対峙するビジネスについて考え抜き、事業成長にコミットすることが何より大事になってくるでしょう。“芯を食った”アイデアやクリエイティブは、そこから生まれてくる。私たちPR TALKも、そのような新たな「知」が共創されていく場でありたいと思います(編集部)