am. 岡山史興さん「PRから生まれる人との関係が、僕の生きる道を示してくれる」
INDEX
ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)の若手PRパーソンは、日々どんなことを想い、どんな感覚をもってPublic Relationsを体現しているのか——。
PR Table Communityでは、さまざまなステークホルダーとの関係構築に力を注いでいる人たちにフォーカスしていきます。
これからのPRパーソンは、社会の中で多様な役割を果たしていくことができるはず。
彼・彼女らがいま取り組んでいること、感じている課題、これからの在り方など、リアルな声をぜひ、聞いてください。
きっと、次世代に求められるPublic Relationsの在り方——「PR 3.0」につながる道が見えてくるはずです。
Profile
岡山史興さん Fumioki Okayama
株式会社am.代表取締役 CEO ストーリーデザイナー/70Seeds 編集長
1984年長崎県生まれ。学生時代からNPOの立ち上げや、愛・地球博にて市民プロジェクトリーダーを務めるなど、一貫して社会課題と生活者をつなぐコミュニケーション領域で活動。戦略PRコンサルティング会社を経て、2014年にStory Design houseを共同創業。2017年6月株式会社am. (アム)を設立。これまでに60社以上のスタートアップ、大企業、地域などのパートナーとしてブランド戦略立案からマーケティング/広報活動の実行支援、新規事業開発などを手掛ける。
「わからないヤツが悪い」ではなく、共感を探る道へ
- — 岡山さんは学生時代にNPO団体で活動されていたそうですが、そもそもなぜ、就職するときにPR会社を選んだのですか?
岡山史興さん(以下、敬称略):僕は長崎の出身で、高校時代に被爆地の若者の声を世界に届けるNPOを立ち上げ、被爆者のことを世界に発信する活動をはじめたんです。そこでお世話になった先生が、広報活動がとても上手かったんですよね。
大きなストーリーを描いて、僕たちNPOの活動が注目されるきっかけを作ってくれました。署名を4万人分集めたり、平和大使として国連でローマ法王に特別謁見する機会を得たり。
ー それはすごい経験ですね。
岡山:一方でいざ東京に出てくると、まず平和や原爆などが身近なテーマではないんだ、ということを思い知りました。まじめだとか、固いとか、自分には関係ない……というイメージがこんなにも強くなってしまうんだな、と。
ただそれって、活動している側にも問題があると思ったんです。「俺たちは正しいことをやっている、わからないやつが悪い」という雰囲気にしちゃっているところがある。これは、多くの社会課題に対する活動全般に言えることです。
ー 確かに、そういった側面もあるかもしれません。
岡山:本質的に自分たちが達成したいゴールは何なのかを考えると、自分の言いたいことを言うのではなくて、「どう伝えれば相手に共感してもらえるか」を考え、実践していくことが大事だなと思うようになりました。それができる仕事はなんだろう? と考えたところから、PRの仕事にたどり着いたんです。
“強者”だけが勝っていく、そんなスパイラルを変えたかった
ー PR会社での経験は、岡山さんにとってどのようなものだったのでしょうか。
岡山:入社後は、とにかくいろいろな会社のメディアプロモートを担当していました。ひとつ大きな成功体験になったのは、ある街工場が挑戦した初めての自社商品のブランディングを、発売前の段階から担当させてもらったことです。
自分自身もそのブランドの背景に心から共感していましたし、描いたストーリーがメディアの方や、消費者に届いていくプロセスを目の当たりにしたんですよね。とてもやりがいを感じられた仕事でした。
PRをベースにして実際に商品を世に送り出していくモデルへの理解は、その案件で深まりましたね。
ー そうしたやりがいを感じる一方で、のちにPR会社を退職し、独立の道を選ばれるわけですよね。それはなぜだったのでしょうか?
岡山:正直、自分の仕事に対してモヤっとした感覚を抱くこともあったんです。PR会社に発注する予算がある企業だけではなく、メディアに取り上げられるべきものが、他にもたくさんあるんじゃないか……と。
お金も人材も豊富な強い会社が、どんどんメディアに取り上げられて勝ち上がっていく。でもその一方で、本当はすごく魅力があるのに、なかなか表舞台に出られない人たちもいます。
PR会社や広告代理店の顧客からこぼれ落ちてしまうような小さなところは、埋もれたまま誰にも注目されない——。
そこをどうにかしたいと思ってPRの仕事をしているのに、自分は今、強い人たちが勝ち上がっていくスパイラルを後押ししているだけなのではないか? そう感じてしまうことさえあったんです。
ー そんな葛藤があったんですね。
岡山:もう、「とにかく大きくなればいい」という時代は終わっていると思うんです。PR会社も、広告代理店も、事業会社もそう。
とにかく大きく広げるのではなく、適切な規模のつながりを持つことが重要になっているのを感じるようになりました。なんとか、強いものだけが勝っていく流れを変えたい、と。
そこでPR会社を辞め、2014年に立ち上げたのが「Story Design house」でした。
「ハートに火をつける」メディアを立ち上げた理由
ー Story Design houseでは、どんな事業に取り組んでいたのですか?
岡山:スタートアップだったり、地方の会社だったり、スモールビジネスを展開する人たちの力になりたいと考えて、より経営戦略から入り込んだ支援を行なっていました。
ただ僕は自分の会社を大きくするのではなく、もっとPublic Relationsの力をいろいろな方向に生かしていきたいと思っていて。結局、Story Design houseはもうひとりの共同代表にゆずり、新たに株式会社am.を立ち上げることにしたんです。
ー am.の中心事業が、ウェブメディア「70Seeds」ですね。このメディアと、PR会社時代の経験とがつながっている部分はどんなところでしょうか。
岡山: 「70Seeds」は、戦後や平和といったテーマをいろんな切り口で見せていき、さまざまなターゲットにとって身近なものにしてみようという気持ちでスタートさせました。ちょうど、戦後70年という節目のタイミングでなにかやりたいと思っていたので。そこで、PR会社時代に身につけた力を使ってみよう、と。
結果的に全国紙に取材してもらったり、NHKで取り上げていただいたりと、広く注目してもらうことができました。
ー 「ハートに火をつける」というコンセプトも、当初からあったのですか?
岡山:現在のコンセプトは、戦後70年の翌年にできたものです。「70Seeds」を、もっと未来志向にしていくことが必要じゃないかという想いがあったんですよね。
ここで、もともと僕自身が課題を感じていたスモールビジネスの支援や、社会課題を「戦後70年の先をつくっていく人たち」と位置づけ、より広く扱っていく方向に舵を切って再スタートしました。
ただの情報の通過点としてのメディアではなく、一緒にものごとを作るところから。外側から第三者として広報を支援するというより、僕らもリスクをとって、商品開発から売るところまで、チームの一員としてイチから取り組んでいくスタンスで事業を作っていこうと思いました。昨年3月にはECもスタートしています。
Public Relationsの思想を軸に、情報を届けた“その先”へ
ー 「70Seeds」というメディアの印象が強いですが、株式会社am.はどのような事業構造になっているのでしょうか?
岡山:大きく3つの軸があります。ひとつはクライアントワーク、もうひとつはメディア、そしてその2つをミックスした、商品開発から情報発信、ECでの販売まで含めたハイブリッド事業です。特に最後のひとつが、僕たちが目指している世界につながる取り組みですね。
販路として持っているのが、メディアと連動した「70Seeds STORE」というECサイトですが、最近はオンラインだけではなく、この場所(am.のオフィス兼店舗)でイベントを開催することも増えているんです。
ー こうしてお話を聞くまではメディア事業のイメージが強かったのですが、単純に一括りにはできないですね。スモールビジネスに焦点をあてたうえで、Public Relationsの考え方に基づいて事業設計をされている。
岡山: そうですね。主役はあくまでも、僕たちがメディアで取り上げる方々です。その人たちの成長ストーリーを描き、ともに育っていくことを大切にしています。そのために広告もやっていません。
やはり、「ハートに火をつける」というコンセプトに込めた想いでもあるのですが、何かを知ってもらうだけじゃなくて、その先の行動までを促していきたいという想いがあるんですよね。
「70Seeds」で紹介している方々の生き方や、その人たちの仕事を知ってもらうことで、読者の生活の仕方も変わっていくといいなと。
さらに消費につながる直接的な行動が起これば、メディアで紹介した方々の事業の継続性にもつながっていきます。僕たちが、そうした一連の行動を促していくことができたらいいなと思っています。
ー メディアで取り上げる商品や、クライアントはどんな方たちが多いのでしょうか。
岡山:最近はありがたいことに、「70Seeds」の世界観に共感してくれる方や、同じ価値観を持ってくださる方からお声がけいただく機会が増えていますね。
ちょうど先日は、ドイツのソーシャル企業が、僕たちのメディアの内容を見てわざわざ問い合わせをくれたんですよ。
そうして僕たちの取り組みに共感してくれる人たちのためにも、あらゆる手段で人と人との関係性を構築し、ビジネスを育てていきたいと思っています。
踏み出すべき次の一歩は、関係性の中から生まれる
ー 最後にあらためて、岡山さんにとっての “Public Relations”とは何か、うかがってもよいでしょうか。
岡山:語弊があるかもしれないのですが、僕個人には「絶対にこれがやりたい!」というものがなくて。今取り組んでいることは全部、人との関係性ができたところから必然的に生まれてきたものなんですよね。
「70Seeds」を立ち上げていろいろな人との関わりができていく中で、「これもあったらいいね」、「それならこっちも良さそうだよね」と——。
こうして関係性の中から生まれてくるものを、一つひとつ大切にしていく。だから今後の展開を考えるにしても、まずはいかに、今関わってくれている人の役に立つかが第一なんです。そこを起点に考えれば、自ずと次にやるべきことが見えてくる。
僕にとってのPublic Relationsは、そういうものだと捉えています。これから生きていくための道を示してくれるもの。そこから生まれる関係性のことなんだろうな、と。
Public Relationsの視点が生きるのは、大きなビジネスだけではない
岡山さん自身の生き方をまじえたお話には、共感しかありませんでした。「“強者”だけが勝っていくスパイラル」という言葉には、ちょっとドキリとしたところも……。確かに、社会的なインパクトが大きいことばかりが、「PR」ではないですよね。スモールビジネスにこそ、Public Relationsの視点が生きる。その姿勢から、新たなPRのカタチを見た思いがしました。(編集部)