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ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)の若手PRパーソンは、日々どんなことを想い、どんな感覚をもってPublic Relationsを体現しているのか——。
PR Table Communityでは、さまざまなステークホルダーとの関係構築に力を注いでいる人たちにフォーカスしていきます。
これからのPRパーソンは、社会の中で多様な役割を果たしていくことができるはず。
彼・彼女らがいま取り組んでいること、感じている課題、これからの在り方など、リアルな声をぜひ、聞いてください。
きっと、次世代に求められるPublic Relationsの在り方——「PR 3.0」につながる道が見えてくるはずです。
Profile
若尾真実さん Mami Wakao
シタテル株式会社 企画・PR。1992年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。在学中、ソーシャルビジネスを学ぶためバングラデシュに渡航。現地工場と連携した若者向けソーシャルブランドを立ち上げ、イベントやSNSを通して約2,000個のバッグを販売。2015年、PR会社にてIT・ベンチャー企業などのPRを担当。2016年、衣服生産プラットフォームを展開するシタテル株式会社にPRとして入社。メディアやイベントの企画運営、さまざまな企業とのコラボレーションなど、幅広いPR・ブランディングに携わる。
ゼロイチでカルチャーをつくる、PRの仕事にひかれた
― 若尾さんはシタテルに入社する前、PR会社にいらっしゃったんですよね。
若尾さん(以下、敬称略):はい。もともとはPR会社で、IT・ベンチャー企業などのPRを担当していました。配属された当初は先輩も全員男性でしたし、お会いするメディアの方もビジネス系、ITテクノロジー系が多かったので、結構硬そうな仕事だなと思っていました。
でも始めてみると、自分がやりたかったこととマッチしていてすごく面白かった。スタートアップやベンチャー企業が仕掛けようとしている事業は、提供するサービスや商品自体があまり生活に浸透していなかったり、まだ世の中に受け入れられていなかったりする状態なわけです。だからイチからカルチャーを作って、市場を広げていく必要があります。それをゼロイチで作っていくのがとても楽しかったです。
― 具体的には、どんな仕事をしていましたか?
若尾:ずっと戦略PRに携わっていました。自分からメディア向けの企画書を作るなど、記者や読者の立場に立って、クライアントの情報を料理するような仕事です。
― PR会社から、シタテルに転職されたきっかけはなんですか?
若尾:採用系サービスのPRを担当していた時に、たまたま事例取材の場でシタテルの社長と知り合ったことです。何度かお会いしているうちに、社長に私の学生時代の話をする機会があって。そのとき、「うちの事業とすごく共通点があるね」という話になったんです。お会いした当時は、まさか転職することになるなんて考えてもいませんでしたけどね。
「楽しい」「かわいい」……ポジティブな感情で、人を動かしたかった
― 学生時代、若尾さんはアパレル系のソーシャルビジネスを立ち上げられたんですよね。
若尾:はい。「国際問題を伝える」ということにフォーカスした学生団体に入って、ソーシャルビジネスに取り組んでいました。
そのときに、知名度がある会社や団体は何をやってもニュースになりやすいけれど、そうでない場合は何か注目してもらえるようなトピックスがないと、興味を持ってもらうこと自体が難しいと実感したんです。
学生でお金もなかったので、結局、アイデアや企画でしか解決できないことがたくさんあって。そこからクリエイティブやPublic Relationsに興味を持ち始めました。
ただ、当時はPRという言葉もよく理解していなかったと思います。漠然と、ビジネスやサービス、商品のことを「本当に魅力的」と思ってもらうための仕掛けをつくるプロになりたいなと思っていて。
「これ面白いな」とか、「楽しいな」、「かわいいな」というポジティブな感情によって人を動かす。それもPublic Relationsのひとつかな、と。その経験があって、広告やPR業界を目指して就職活動したんです。
現場で一緒にストーリーを生み出し、サービスの価値を伝える
― 改めて、シタテルの事業内容についてもお伺いしてもいいでしょうか。
若尾:洋服を作りたい、ファッションブランドを立ち上げたい、会社でユニフォームを作りたい、などのニーズを持つ方と、それを実際に作れる工場をマッチングする「衣服生産プラットフォーム」を提供しています。
ただマッチングさせるだけでなく、シタテルが最終的に納品するところまで責任をもってお受けする仕組みになっています。
アパレルはそもそも、生産者が工場を探すのがなかなか難しい業界でした。
ただその一方で、日本国内にある縫製工場の多くは、経営が厳しくなっているのが現状です。いままでは大手企業の生産で半分以上の売り上げを占めていたにも関わらず、仕事が海外の工場に流れてしまったことが大きな原因です。
さらに消費者のトレンドサイクルも短くなっているうえ、ファッションの好みが多様化しているという時代的な背景もあります。
だからこそ、シタテルが双方の“受付窓口”のような存在になって、マッチングできるサービスを提供しています。基本的にはBtoBのサービスですね。
― 事業会社側で広報の仕事をするようになって、感じたことはありますか?
若尾:私が入社する前のシタテルは、ちょうどTVの『ガイアの夜明け』で取り上げられ、採用が伸びていた時期でした。もともと社長が、PRに対する強い意識——というより、むしろ危機感を持っていたように思います。
私は、最初こそ広報職という形で入社しましたが、本当に幅広い仕事に取り組んでいます。社長自身が、あまり固定概念やしきたりに拘らない方なので、自分なりの手法で成果を出すことをすごく求められる環境です。私としては、それはとてもありがたいと感じています。
― 幅広いというと、実際はどんなことをされているんですか?
若尾:例えば「こんなサービスです」「こういう商品があります」と一方的にアピールするだけでは、社会に広がっていきませんよね。
私たちが事業として取り組んでいるのは、「衣服生産のプラットフォーム」をつくっていくこと。それは、新たなカルチャーを社会に浸透させていくことでもあります。
だからもっと付加価値になる部分……「こんな会社と一緒に、こんな新しい取り組みを提供しました」など、自分たちから仕掛けていかなければいけないと思っていて。一つひとつの案件を作るところから始まるので、広報というより、半分は営業と同じような感じかもしれません。
― 世の中を動かすためのストーリーを、現場のみなさんと一緒に描きながら動いている?
若尾:そうですね。出会った方たちとアイデアを出し合いながら、さまざまな取り組みを生み出しているイメージです。
― それは営業でもあり、コーポレート・ブランディングにもつながる動きですよね。
若尾:広報でもあり、確かに経営企画や社長室のような側面もあります。シタテルのサービスがどんな価値を生み出しているのか、それを世の中の人たちにどう伝えていくかを、常に考えています。
“広報”の枠を超え、インナー施策からオウンドメディア運営まで
― 現在、広報担当は若尾さんおひとりですか?
若尾:はい。対外的な広報活動はもちろんですが、インナーブランディングにも力を入れています。現在は社員30名ほど(※2018年3月現在)なのですが、バックボーンがすごく多様なんですよね。
アパレル専門でやってきたスタッフと、ITの開発エンジニアと、営業と、私のような代理店からきた人間と——。だから意識を統一していくのが、なかなか自然にはいかなくて。
全く異なる業界から集まったスタッフ同士が、現場でコミュニケーションを取れる環境を整えるべく、ワークショップを開くなど、お互いに社内で学び合うような機会を作っています。
― 会社としてもどんどん成長していくフェーズにあって、これから取り組もうと考えていることがあったら教えてください。
若尾:シタテルには、「服づくりの未来を考える」をテーマにしたオウンドメディアがあります。この『sitateru Magazine』をリニューアルし、衣服に関わるビジネス、テクノロジー、クリエイティブの未来をテーマにしたコミュニティメディアにしていきたいと考えています。
その一環で、今後はオフラインのイベントも展開していきたいと思っていて。そのために、この場所(取材で使わせてもらったオープンスペース)にはかなりこだわりました。場所選定から任せてもらい、本当になんでこんなにこだわったんだろう、っていうくらい(笑)
― 若尾さんご自身が、心底シタテルの事業に可能性を感じているのですね。
若尾:ファッションって、本当はすごく細分化されていて、パーソナルなものだと思うんです。これまでは大量生産の衣服が当たり前の時代でしたが、さまざまな人たちにシタテルのプラットフォームを使ってもらうことで、あらゆるスタイルの衣服ができていくと思います。
そこには人それぞれの哲学があったり、想いがあったりするはずじゃないですか。
さらに最近は、ユニフォームのオーダーが増えているので、今後「働き方」にどう衣服が関わっていくのかにも注目しています。衣服は、小さなイノベーションを起こす力を持っていると思うんです。まだまだ開拓の余地がある世界じゃないか、と。
― これからの発展が本当に楽しみです……! ちなみに若尾さんご自身は、今後のキャリアについてどのように考えていますか?
若尾:やはりこれからも、まだ世の中に出ていなかったり、馴染みがなかったりするサービスや商品に関わっていきたいですね。そうした新しいカルチャーを、イチから作っていくこと。目指すのは、そういうところかもしれません。
だから正直にいうと、いまの「広報」だけの肩書きから早く脱したいと思っているんです。それだけに絞りたくない。
PR会社時代に得ることができたメディア側の視点と編集スキル、シタテルでいま取り組んでいること、これから仕掛けていくこと——そうした一つひとつの積み重ねを強みにしつつ、世の中に新しいカルチャーを浸透させていけたらと思います。
軽やかに、肩書きの枠を超えていく
従来の広報の枠にとどまらない、自由な発想は新しいタイプのPRパーソンのように感じます。お邪魔したオフィスは、若尾さんが物件を探すところから手がけたということでしたが、シタテルのブランドイメージを体感できる素敵な内装でした。会社のことも、PRのことも、理屈だけでは語れない部分まで理解されているようで、その感覚がとても新鮮に感じる取材でした。