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ノオト 宮脇淳さん×日比谷尚武 「利他的であること。その姿勢が、共に働く人たちを“会社のファン”にしていく」

INDEX

あの人は、なぜ“関係構築”が上手いのだろう——?

Public Relations(=社会との関係構築)を、現代社会の中でさまざまに体現している人たち。一体どのような経験を重ね、そこからどのような知見を得て、現在地にたどり着いたのでしょうか。

PR Tableのエバンジェリストである日比谷尚武が、自身と親交のある“PRパーソン”をたずね、その思索のプロセスをたどっていきます。

今回は、Webメディアを主軸とするコンテンツメーカーとして、編集者・ライターから非常に厚い信頼を寄せられている、有限会社ノオトの宮脇淳さんをたずねました。

フリーランスや複業など、新しい働き方が広まり、「個人」と企業の関わり方が大きく変わりはじめている今。宮脇さんはどのような考え方のもと、社員やフリーランスの外部スタッフと関係を構築しているのか、ひもときます。

 

 


Profile
宮脇 淳さん Atsushi Miyawaki

有限会社ノオト 代表取締役
フリーランスのライター&編集者として、雑誌やWebコンテンツの制作に携わった後、2004年7月、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。本業は、企業メディアの制作・プロデュース。また、12年以上にわたり宣伝会議 編集・ライター養成講座の講師を務めている。2014年には会社設立10周年を記念して、東京・五反田にコワーキングスペース「CONTENTZ」(コンテンツ)を、2016年にはコワーキングスナック「CONTENTZ分室」を開設。今年4月にはブログサービス「ShortNote」を事業継承した。コンテンツ制作に限定されない、幅広い活動を展開している。

聞き手:日比谷 尚武    Naotake Hibiya

学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベント等の企画運営に携わる。その後、NTTグループに勤務。2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、営業・企画・マネジメント全般を担う。2009年より、Sansanに参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。並行して、OpenNetworkLabの3期生としても活動。現在は、コネクタ/名刺総研所長/Eightエヴァンジェリストとして社外への情報発信を務める。並行して、 株式会社PRTable エバンジェリスト、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 広報委員、一般社団法人 at Will Work 理事、ロックバーの経営なども務める。

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(取材協力/コワーキングスナック「CONTENTZ分室」)


 

厳しい環境が当たり前。必死に仕事を覚えたフリーランス時代

日比谷:宮脇さんとは昔から縁があって、よく一緒に飲んだりしていたんですよね。

宮脇:近しい業界同士っていう感じですね。

日比谷:宮脇さんと知り合うまでは、編集プロダクションの存在自体をよく知らなかったから、すごく新鮮だったんですよ。

僕はベンチャー企業でマーケティングから広報になったので、コンテンツというのは、自分たちでつくってメディアに取材してもらうのが当然だと思っていて。

宮脇:たしかに企業の方からすると、よくわからない業種かもしれませんね。

日比谷:そもそものところから伺いたいのですが、どんなきっかけでこの道に進まれたんですか?

宮脇:編集者になったきっかけは、大学5年目の年に雑誌『WIRED』に拾ってもらったことです。すごく好きな雑誌だったんですよ。バイト募集をしていたので、受けてみたら受かっちゃって。

でも当時の編集長に、「このまま新卒で入社できると思うなよ」と言われ(笑)。 並行して就職活動をしていたところ、ソフトウェア開発の会社に就職が決まったんですよね。

日比谷:『WIRED』、僕も大好きな雑誌でした。そこからずいぶんと堅いところに行きましたね!

宮脇:うん、親も喜んでいました(笑)。ただ、内定をもらってから編集長にも報告したら、「お前、就職活動なんかしていたの? ここに残ればいいじゃん」って言われて。「矛盾してるなあ」と思いつつ、残ることにしたんです。

肩書きは編集者でしたが、実際は正社員じゃなくて業務委託でした。当時は「雑誌の世界はこれが普通なんだ、社会保険もないものなんだ」って感じでしたね。で、数ヶ月後に母体の会社が倒産してしまって。

日比谷:いい雑誌だったのにね。その後、どうしたんですか?

宮脇:知人のつてで、音楽雑誌の立ち上げに携わることになりました。でも、その雑誌も5号で休刊になった。仕方がないので、フリーライターとしてやっていくことになったんです。

日比谷:また短かったんだ! そこからすぐにフリーとして仕事をはじめたってすごいですね。出版社で編集をしていた期間ってすごく短いでしょ? 営業活動をしたんですか?

宮脇:それが、一回もしたことないんですよね。編集者時代に名刺交換した400人くらいに「独立しました」とハガキを送って。4〜5件の仕事が来て、そこから広がっていった感じですね。

最初は本当に稼ぎも少なかったですけど、なんとか軌道に乗って。そこから5年半がんばって、会社をつくりました。だから僕、会社員経験がないんです。

日比谷:なるほど。ライティングや編集の技術は、どうやって学んだんですか?

宮脇:誰も教えてくれなかったので、とにかく必死に仕事をしながら覚えました。企画が全然出せずに、よく怒られましたね。みんなが5本ずつ企画を出すところ、「お前は20本出せ」と言われ、出したら出したで全部はねられて……。

やっとのことで企画が通るようになった途端、『WIRED』が終わっちゃった。次の雑誌では師匠になる人がおらず、まだ新人なのに、ひとりで月に40ページくらい作らなくちゃいけなかったこともありました。

 

“高く仕入れて高く売る”。それが会社としての役割

日比谷:当時の雑誌編集の世界では、そうした厳しい環境が当然だったのかもしれません。ただ、今は時代も変わっていますよね。いま、ノオトでは社員に対する教育をどう考えています?

宮脇:うーん。難しいですよね、やはり、手取り足取り教えてあげられてはいません。ただうちの場合、自社で運営しているウェブメディア『品川経済新聞』が、新人教育講座の役割をしているんですよ。

ネタを拾ってきて、自分で取材交渉して、きっちり取材して、自分でファクトをきちんと書いて公開する。そうした一連のプロセスを、すべて経験できるので。上がってきた記事は、僕が全部チェックして新人に返しています。

日比谷:結果的にいい教材になっていると。ノオトの社員さんたちは、最終的にはライターではなく、編集者に育てようという考えですか?

宮脇:そうですね。社員自身が記事を書くケースもありますが、編集者の仕事は絶対に知って欲しいと思っています。

ライターとして記事を書くのって、本当に大変な作業なんですよ。力が入った記事は特に、1ヶ月に書ける本数にも限りがある。でも編集の仕事は、いろいろな仕事を並行して進められます。

ノルマは特に課していませんが、僕としては「お金関係のことは会社が見るので、とにかく良いコンテンツをつくってね」というスタンスでいます。

そうして生まれたコンテンツがノオトの営業ツールになって、また次の仕事をいただけるという流れ。うちは営業マンがいないので。

日比谷:仕事が仕事を呼ぶ、評判が次の仕事を連れてくるということですね。ちなみに、フリーランスのライターにはどれくらい仕事を発注していますか?

宮脇:アクティブに仕事をお願いしているライターさんは、年間100人前後かなぁ。

日比谷:結構多いですね! 最近は、フリーライターを目指す人も多いのでしょうか。

宮脇:今はインターネットやSNSがあるので、誰でも“ライターっぽい人”にはなれちゃうんですよね。名刺に「ライター」って書いちゃえばいい。ただ弊害として、ネットコンテンツの質の差が激しすぎる事態にもなっています。

日比谷:質が低くてもコンテンツが発信できてしまう……。

宮脇:ただね、トッププレイヤーはきっちり良いコンテンツを作っているんですよ。いまだにネットは質が低いと思い込んでいる人がいるけど、そんなことはありません。ネットだからこそ広がるケースもありますしね。別にフィールドなんてどこだって関係ないと思うんですよ。

原稿料も、正直なところ、いまはネットの方が上昇傾向にあります。むしろ紙媒体の方が下がっている。実はうちも、最近ギャラの値上げをして……。

日比谷:ライターさんへの報酬を値上げしたんですか?

宮脇:そうです。長年にわたり、うちが同じ価格で請け負っていた大手企業の仕事がありまして。捨て身で値上げ交渉をしたところ、なんと報酬が倍近くになったんですよ。そこでうちから支払うギャラを上げたら、ライターさんたちがめちゃくちゃ喜んでくれたんです。

日比谷:それは喜ばれますよね。「ちゃんと仕事に見合った適正な環境をつくろう」という姿勢が伝わってきますから。

宮脇:それはね、本当に会社の役割だと思っています。

極端にいうと、会社のことだけを考えれば、「安く仕入れて高く売る」方がもうかるじゃないですか。でもちゃんと高く仕入れて、より高く売った方がいいと僕は思っていて。

そうすれば、ライターさんたちにもいい仕事をしてもらえるようになって、さらに良いコンテンツをつくっていけるはずですから。

フリーランスの立場を理解し、いかに信頼関係を築くかを考える

日比谷:フリーランスの働き方については、最近、注目度が高まっていますよね。自由さもある一方で、自らリスク管理をしなければならないなど、デメリットもあると思います。シェアリングエコノミーやクラウドソーシングなど、新たなサービスも生まれてきていますが、いかがでしょう。

宮脇:そうですね……クラウドソーシングをきっかけに仕事をはじめるライターさんもいますが、最初のきっかけとしてはともかく、できればそこに依存しすぎない方がいいかなと、僕は思っています。

批判するわけじゃありませんが、どうしてもフリーランスの人が弱い立場になってしまうんですよね。反対に、発注したライターがばっくれるケースもあったりして、企業側が「クラウドソーソングはだめだ!」みたいになってしまうのは残念だなあと。

日比谷:お互いにリスクがあるという点では、確かにそうですね。サービスを提供するプラットフォーム側が、どれだけフリーランスを守るべきかという問題もやっぱりありますし。そのあたり、宮脇さんはどう考えていますか?

宮脇:フリーランスを守るというか、まずは信頼関係をどう築くかを考えています。

たとえばノオトの場合、万が一クライアントからの支払いが滞ったとしても、ライターさんに対しては早めにギャラを支払っています。経営者として最低限のキャッシュは確保して、渡すべきものはきちんと渡す。

そうすると会社との信頼関係が生まれて、ライターさんも優先的にうちの仕事をやってくれるようになるんです。

日比谷:業界の中で、そうした会社は少ない?

宮脇:昔から、編プロはブラックな環境のところが多いかもしれませんね。

それに、ライターの仕事はともすると「文章を書くだけ」に見えて、誰にでもできると思われちゃう。だから発注主の多くは原稿料を安く考えるんですよ。きちんと理解がある人には、文章がそんなに簡単に書けるものじゃないってわかってもらえるんですけど。

日比谷:それがわからない決済者もいるということですよね。フリーランスとしては、そうした立場を理解してくれる人と仕事したいと思うのは当然ですね。

「パラレル親方」に「限定社員」。注目される柔軟な働き方

宮脇:話は変わりますが、最近「おもしろい!」と思った働き方があるんですよ。知ってます? 「パラレル親方」。30代の若いフリーライターたちがはじめた試みなんですけど。

日比谷:はい、知っています。いい働き方ですよね。

宮脇:“親方”となるフリーランスの編集者やライターが何人かいて、それぞれ弟子を何人か抱え、お互いがゆるくつながっていくシステム。弟子は学生から社会人までさまざまで、リモートで仕事を受けることができ、親方を替えることもできる。

親方も、自分は自分で会社や仕事に対する責任を持ちながら、横の関係性をたくさんつくるという。これ聞いたとき「すごくありだな」と思ったんです。

日比谷:僕も注目していました。会社でもなく、完全なフリーランスでもない新たな仕組み。働き方が柔軟になりつつある。

宮脇:さらにいえば、みんなもっと、うまく会社を使ったらいいと思うんですよね。

会社って便利なもので、一応法律で守られているから。これから先、「会社に所属してるけれどほとんどフリーランス」みたいな人が出てきてもいいのかなと思います。

たとえば「5万円社員」みたいな。月給5万円と社会保険をつけてあげるから、仕事は各自取ってきてねっていう感じで。

日比谷:ある程度の保護をしてくれる屋根というかね。「限定社員」っていう言葉が実際にあって、僕も一時期、週に2〜3日出勤して、社会保障をつけてもらっていたことがあります。そうすると働く側だけじゃなく、会社側も柔軟な対応が必要になってきますよね。

大切なのは会社のファンを増やすこと、常に利他的であり続けること

宮脇:会社側の柔軟さはもちろん大事。さらに“会社のファン”をつくることが、今もっとも重要だと僕は思っているんですよ。

日比谷:ファン、ですか。

宮脇:僕は社員に対して、たとえば遅刻なんかにはうるさいことは言いません(笑)。 いや、別に社員に媚びているとか遠慮しているわけじゃなく、ちょっとした失敗は本人がちゃんと反省しているのを知っているので、あえて言わないようにしているんです。

ただ、「ライターさんに対して偉そうにしてはダメ」「一緒に仕事をしている仲間として大事にしなさい」ということは、常に口を酸っぱくして社員に言っていて。

そうすると、一緒に仕事をしたライターさんは「ノオトの○○さんとまた一緒に仕事がしたい」って思ってくれるじゃないですか。これ、本当に大事なんです。

日比谷:なるほど、ライターさんたちがノオトのファンになるわけですね。

宮脇:さらに言うと、何よりも社員に“ノオトのファン”になってもらわないといけないと思っています。「ノオトが好き」「ノオトって良い会社なんです」と社員のみんなが言ってくれることが、採用につながっている面もあります。

日比谷:確かにそうですね……!

宮脇:僕は、佐藤尚之さんに師事して「ファンベース」という考え方を学び、確信したんですよね。「ああ、自分がやろうとしてることは正しかったんだ」と。

ファンベースにはいろんなメソッドがあるのですが、その第一歩として自社のサービスや商品を売りたいなら、まずは社員に自社のサービスを好きになってもらう。まずはそこからだと考えています。

日比谷:おっしゃる通りですね。さらにノオトさんでは、コワーキングスペース「CONTENTZ」の運営やこの場所、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」の経営など、新しいことに次々取り組まれていますよね。そうした活動も、社内外のファン獲得を促すツールになっているのかなと思いますが、どうでしょう。

宮脇:それもあるかもしれません。ちなみに僕は、そうした活動すべてが「編集の仕事」の一環だと思っているんですよ。

楽な経営をしたいなら、“編プロの社長”だけをやっていればいい。それなら余計なお金も出ていかないですしね(笑)。でも、やっぱり他とは違うことを企画しないとつまらないじゃないですか。なんでもとりあえず試してみないと。

日比谷:ここまで話を聞いていて、宮脇さんは常に利他的な考え方をする人だな、という感想をあらためて持ちました。

宮脇:利他的であることは、常に意識しています。短期的に見れば、他人より自分の得を考えた方がもうけは出るかもしれない。でも、もっと長期的な視点で考えると、自分より他人を大事にする人生の方が絶対に“もうかる”と思うんです。

“もうかる”というのは、お金のことだけじゃありません。

いろんな人との関係性を築いて楽しい仕事ができるとか、一緒に美味しくお酒が飲めるとか、地方へ行った時にいいところを案内してもらえるとか。お金じゃない価値も含めてトータルで考えたら、その方がずっと大きな“もうけ”ですよね。

新たな働き方を選ぶ、「個人」との関係性を築くために

Webメディアに携わるフリーランサーたちの中で、なぜ、ノオトという会社や宮脇さんへの信頼が厚いのか。お話をうかがい、その理由がよくわかった気がしました。これから多くの企業では、「自由な働き方をする個人」との関係性を築く必要が生まれてくると思います。「常に利他的であること」。それは業種や業態に関わらず、今後より強く求められる姿勢なのではないでしょうか。