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5つの事例からひもとく「地方都市×クリエイティブ企業」の融和【Glocal creative summitより】

INDEX

いま、地方都市に熱い視線が向けられています。Uターン・Iターンによって、生活拠点を地方にまるごと移す若手ビジネスパーソンも少なくありません。それは決して個人に限ったことではなく、企業も同じです。

2018年1月13日(土)、5つの地方都市でさまざまな活動に取り組む企業とそれぞれの自治体が参加するイベントが、福岡市の「福岡クリエイティブキャンプ」の一環として都内にて開催されました。(企画・主催:福岡移住計画

『Glocal creative summit 〜なぜこのまちが面白い? 地方から世界基準へ〜』

▲当イベントの第二・第三セッションにて、PR Table取締役の菅原弘暁がモデレーターを務めました。

 

地方都市と、企業の関係。すなわち「コミュニティ・リレーションズ(Community Relations:CR)」は、企業経営に欠かせないPR(Public Relations)の一要素にほかなりません

 

そもそも、「コミュニティ・リレーションズ」とは何か

企業と地域社会との関係構築、すなわちコミュニティ・リレーションズが重要視されるようになったのは1970年代のこと。そのきっかけは、当時、大きな社会問題となっていた公害への対処が必要になったことからでした(※)

社会に対して正確な情報を開示すること、地域住民の声にしっかり耳を傾けること。それが企業に対して求められたCRの基本であり、現在も変わらない原則です。

しかし近年ではさらに関係性が深化して、企業が地域に住む人たちと積極的にコミュニケーションを取り、さらに自治体と相互に協力し合うケースなども増えています。

企業が主体となって地域にはたらきかけることにより、自治体や住民との関係性を深めていく。そんなCRのあり方が、いま、各地で新たなビジネスの可能性をひらいているようです。

今回は、当日のセッションで語られた5つの都市の事例から、これからのコミュニティ・リレーションズのあり方をひもといていきたいと思います。

——–

参照:井之上喬(2006)『パブリック リレーションズ 戦略広報を実現するリレーションシップ マネジメント』 日本評論社. 

 

▲会場には多くの参加者の方が集まり、登壇者の話に耳を傾けていました

急成長中のインバウンド需要は「東南アジア」にあり。地域の資産を新たなビジネスへ【北海道札幌市】

年間230万人以上の観光客が訪れる札幌市。そのこと自体はイメージ通りですが、ちょっと意外なのはその内訳です。

「実は、タイをはじめとする東南アジアからの観光客がとても増えているんです。そこからインバウンドのニーズを分析し、マーケティングにつなぐことができます」(山田瑞希氏/株式会社Gear8)

札幌市に拠点をもつWebディレクション会社、株式会社Gear8。同社は国内2拠点(札幌・福岡)の他、タイのチェンマイとバンコクにも拠点を構えており、東南アジア向けのウェブマーケティング事業を展開しています。

そのひとつが、“タイ語のみ(※2015年ローンチ当時。2017年に繁体字版・英語版をリリース)”で作成された北海道観光情報アプリ『TrippinoHOKKAIDO』の開発・運営。道内の自治体や企業と連携しながら、トータル1,500件 以上の観光施設、商業施設、レストラン、デパート、ホテルなどの情報を発信してきたそうです。


▲2015年リリース当初はタイ語“のみ”でしたが、2017年に繁体字版・英語版をリリース。

 

「海外の旅行者に人気がある場所なのに、地元の人にはあまり知られていない……というケースも多々あります。これから地域ブランドをより強めていくために、特に若者は地元から一度“外に出る”経験をして、自分の住む町への客観的な視点を持っておいた方がいいのかもしれませんね」(山田氏)

行政・自治体側からみても、こうした世界との接点は大きな地域資産になるもの。今後はその蓄積を活かし、観光だけにとどまらない他分野のビジネスへの展開が期待されます。

 


▲モデレーターを務めた、PR Table 取締役の菅原弘暁(第二・第三セッション)

 

自治体・企業が一丸となった“攻めの施策”で、次世代を担う起業家を育てる【宮城県仙台市】

仙台市では、東日本大震災をひとつのきっかけとして、全国や海外から志ある起業家が集まり、こうした動きとともに地元でも新たに自分で小さなビジネスをはじめた人たちが多くいるのだそうです。仙台市の自治体職員がその動きに伴走する形で、現在、若手起業家の育成・支援に取り組んでいます。

さらにそれをクリエイティブの側面からサポートしているのが、株式会社ラナエクストラクティブの元代表取締役であり、現在は仙台と東京を拠点に活動している、仙台出身のクリエイティブプランナー 太田伸志氏。

「仙台にはいろいろと面白いビジネスの種があって、まだ世に出ていない優秀な人たちがたくさんいる。それを誰よりも先に見つけていく楽しさ、“見つけがい”があると思うんですよね」(太田氏)

太田氏は2018年1月、クリエイティブの新しい可能性を追求するために独立。今後は行政・自治体や地元企業とコラボレーションしながら、地域活性の一翼を担っていく予定です。


▲太田氏が手がけたクリエイティブのひとつ。/仙台IT文化祭 from RaNa extractive, inc. on Vimeo. 

 

震災から7年、自治体職員の方の言葉を借りると「ようやく攻めのターン」に転じることができたという仙台市。自分たちが、東北全体の先導者になっていく——そんな熱い意気込みのもと、東北全域を対象としたアクセラレータープログラムの実施などをはじめ、さまざまな役割を担う企業と共に“攻めの施策”に取り組みはじめています。

 

地域に根ざして20年、新たなコミュニティや交流を次々と生み出していく【神奈川県鎌倉市】

「経済合理性? それだけを考えたら東京の方が有利でしょうね。鎌倉にオフィスを構えたのは直感です。ここに面白法人があったらおもしろいかな、と」(柳澤大輔氏/面白法人カヤック)

2002年から鎌倉市を拠点として事業を展開している面白法人カヤック。しかし当時は自治体側も、積極的にベンチャー企業の誘致を進めていたわけではありませんでした。

「効率や生産性だけを考えたら、都内の方が有利です。ただ、もう経済合理性だけで幸せになる時代ではなくなったと思うんですよね」(柳澤氏)

柳澤氏は地域を中心とした、新しい資本主義の形を模索していました。地域に根ざした経営思想のもと、同社はさまざまな活動を展開しはじめます。

その中のひとつが、2013年にスタートした「カマコン」の活動です。住民や鎌倉に興味を持つ人が地域を盛り上げるためのアイデアを持ち寄ってブレストし、それをプロジェクト化して実際に一つひとつ形にしていく、というもの。


「カマコン」の公式サイト。定例ミーティングの開催予定がずらりと並んでいる

 

「この街をもっとよくしていこう!」——カマコンを通してそんな意識が強くなり、今では地域の中で新たなコミュニティが形成されて、世代などの垣根を超えた交流がどんどん生まれているそうです。行政・自治体とも協力し、新たな事業やイノベーションの創出を目指しているのだとか。

「地域に関わりはじめたことで、人生が3倍くらい楽しくなりましたよ。そもそも私たちのテーマは、“面白く働くこと”ですから」(柳澤氏)

企業と行政、市民が協力し合えれば、もっと幸せになれるはず。鎌倉の地に拠点を構えて16年、面白法人カヤックの仕掛けるコミュニティ・リレーションズは、まだまだ広がっていきそうです。

企業も人も、あらゆる才能が集う街へ。次に挑むのは世界へのトビラ【福岡県福岡市】

「いま、最も勢いのある地方都市はどこか?」と問われたら、きっと多くの人がこの街のことを思い浮かべるのではないでしょうか。福岡県福岡市。ITやクリエイティブ分野の企業や若手起業家が多く集まり、「企業が人を呼び、人が企業を呼ぶ」好循環が生まれている地域のひとつです。

「もっといろいろな面白い人が集まってくれたらいいですよね、多様な人のるつぼのように」(橋本正徳氏/株式会社ヌーラボ)

2004年に、自身の出身地である福岡市で起業した橋本氏。プロジェクト管理ツール『Backlog』をはじめとするツールやサービスを提供しています。同社はすでに国内外合わせて複数の拠点を構えており、事業の世界展開を視野に入れて活動中です。

特筆すべきは、こうした民間企業の動きを、行政・自治体側が全面的にサポートしていること。新たなチャレンジの妨げにならないよう、規制緩和などを通じて不要なハードルを取り除いているのです。

ちなみに、橋本氏の福岡における活動は、ビジネスだけにとどまりません。

2011年より、「テクノロジーとクリエイティブに関わる人々が集まる」ことを目標としたフェスティバル『明星和楽』をスタート。音楽や映像など、魅力的なテクノロジーを取り上げることで、海外メディアへのプロモーションへとつなげています。

「こうした取り組みがメディアに取り上げられることで、アンテナの高い人たちに届けばいいなと思っているんです。より才能のある人たちが集まる街になってほしいですから」(橋本氏)

 

人口約5万人。小規模でも若手主導で、さまざまな動きが生まれている街【宮崎県日南市】

今回の参加5都市の中で、規模的には最も小さい日南市。しかし2013年に33歳(当時)の市長が誕生して以来、40代以下の若い世代が活躍しはじめているそうです。

そんな日南市にある築140年の古民家を活用し、2017年にサテライトオフィスを開設したのが、さまざまなデジタルクリエイティブ事業を手がける株式会社プラスディーです。

「行政・自治体側のみなさんのフットワークが非常に軽く、アクションも早い。ともにトライ&エラーを積み重ねることができていますね」(本田晋一郎氏/株式会社プラスディー)


▲古民家をリノベーションして開設したサテライトオフィスのようす

 

同社では日南市の拠点を中心に、リブランディング、ECサイトの構築、販促活動、PR支援までを一気通貫で行う地方創生事業を推進しているそう。プラスディーはそれを“サクセス・シェアリング”と呼んでいます。

「まだまだ課題もありますが、“サクセス・シェアリング”を通じた新たな事業の創出によって、地域のみなさんに価値を還元していけたらと思っています」(本田氏)

同社のような国内企業だけではなく、シリコンバレーを拠点とする企業が日南市にオフィスを構えた事例もあるといいます。若い人たちのエネルギーと地に足のついた施策の実践が基盤となって、これから先、どんな成果につながっていくのでしょうか。

 

コミュニティ・リレーションズの深化が、個人の幸福度を増していく

今回のイベントで登壇した5つの企業のように、どんな場所でどんな事業を展開していくにしても、今後、地元に住む人たちとの関わりや行政・自治体との連携を通した地域貢献は、企業活動のひとつとしてますます重要な要素になっていくでしょう。

「地域に関わりはじめたことで、人生が3倍くらい楽しくなりました」——今回のイベントでとても印象的だった、面白法人カヤック 柳澤氏のコメントです。企業自身がコミュニティ・リレーションズを追求していくことが、自ずと「個々人の幸福」にもつながっていくのではないでしょうか。