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エンパワーメントするのは、「個」の才能が生み出すバーチャルタレント──カバー株式会社・谷郷元昭さん

INDEX

SNSや動画メディア、ストリーミングサービスなど、個が世界に発信できるツールが次々と生まれ、表現手法も多彩になってきています。

そんな中、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営し、最先端のテクノロジーを活用して新しいバーチャルタレントの文化を生みだそうとしているのがカバー株式会社です。

バーチャルタレントたちは、どのように発信を行い、ファンを魅了しているのでしょうか。代表の谷郷元昭さんに、バーチャルタレントによって描き出される「個」の才能と、それに対する企業としての向き合い方についてうかがいました。


Profile

谷郷 元昭  Motoaki Tanigo
カバー株式会社 代表取締役社長CEO

慶應義塾大学理工学部を卒業後、イマジニア株式会社で株式会社サンリオと提携したゲームのプロデュースを担当後、テレビ局や出版社と提携した携帯公式サイトを運営する事業を統括。化粧品口コミサイト@cosme運営の株式会社アイスタイルでのEC事業立ち上げ、モバイル広告企業、株式会社インタースパイア(現ユナイテッド)の創業に参画後、株式会社サンゼロミニッツを創業し、日本初のGPS対応スマートフォンアプリ「30min.」を主軸としたO2O事業を展開し、株式会社イードへ売却。

※肩書き・プロフィールはインタビュー当時(2020年3月)のものです。


バーチャルタレントをひとりの「個」と捉え、活動を支援する

─ 国内でも海外でも人気のバーチャルタレントを擁するカバー社ですが、どんなスタンスでバーチャルタレントの事業に取り組んでいるのでしょうか。

谷郷元昭さん(以下、谷郷):バーチャルタレントというと架空のキャラクターのように感じられる人もいるかもしれませんが、ホロライブプロダクションに所属しているバーチャルタレントは、リアルな「一人の人物」です。そんな彼女たちをマネジメントするにあたり軸に据えているのは、私たちはあくまで「個」をエンパワーメントする存在であるということです。

バーチャルタレント事業を展開している会社には、タレントそのものを企業がプロデュースする、企業主体型のビジネスモデルもあります。一方私たちが運営するバーチャルタレント事務所「ホロライブプロダクション」に所属しているのは、ゲーム実況や「歌ってみた」など、自分の好きなことを発信してVTuberとして活動している配信者たちです。

私たちは所属のバーチャルタレント向けにキャラクターを制作し、配信のためアプリなどのツールを提供、活動のマネジメントを行っています。個々の活動を私たちが支援するというスタンスですね。イメージとしては、ヒカキンさんをはじめ多くのYouTuberが所属する事務所「UUUM」のバーチャルタレント版といったところです。

配信者の皆さんはそれぞれ、追求しているジャンルでは超一級のスキルを持っています。私たちが提供するキャラクターやアプリを活用して、しかるべきプラットフォームで配信されることによって、さらに大きな人気を得ることができるんです。

─ あくまで個の活動を支援するスタンスを貫いているのは、どんな思いからでしょうか。

谷郷:もともとバーチャルタレント市場の成長は企業主導型が支えていた部分が大きいのですが、それは始めるにあたってかかるコストが大きかったからです。配信するためには3Dアバターを作り、モーションキャプチャの設備を整え、動画編集もしなければなりません。ある程度体力のある企業でないと、なかなかそこまでの初期投資はできなかったんです。しかし徐々に裾野が広がる中で、私たちも含め、個人の配信者に対してAR・VRの技術や配信システムを提供できるようになってきたわけです。

私はカバーを創業する前からずっと、UGC(User Generated Contents)に根ざしたビジネスに関わってきました。従来型のコンテンツの作り方は、ひとつの企業やプロジェクトチームの中にプロデューサー、ディレクター、クリエイターがいて企画進行していく、という画一的な流れでした。ところがインターネット時代の到来により、ブログやクチコミなど、個人の発信ツールが開発された先に、次々とコンテンツが生まれてくるようになったのです。

私は昔から新海誠さんのファンなんですが、彼の作品はいわば「同人の極み」だと捉えています。もともと自分が描きたい世界を一人で作りはじめ、それが世界的な注目を浴びるようになった。企業が作る画一的なものではなく、個から生まれてくる、予想だにしない面白さ─それがインターネットの本質だと私は信じているんです。

動画やライブ配信はUGCそのもの。発信したいという強い想いがあってこそ成り立つビジネスです。あくまで主体は個人の活動であり、私たちは二人三脚でその活動を支えるベースを提供しているという姿勢です。

自分に近しい「共感できる存在」としてのバーチャルタレント

─ しっかり「個」の活動を支えようというホロライブプロダクションですが、どんな個性をもつタレントさんが集まっているのでしょうか。

谷郷:日本全国にとどまらず、中国在住の方やアメリカ留学中の方など、タレントの活動範囲はグローバルです。それぞれに当社のタレントマネージャーがつき、仕事の調整や相談を必要に応じて行っています。

バーチャルタレントとして活躍しているのは主に、もともと声優志望だったり、ゲームが好きだったりする方々ですね。やはりアニメやゲームといった二次元の世界に絡んだところで突出した才能を持つ人は、バーチャルタレントという表現方法とは相性がいいと思います。

例えば一つのゲームを本当に愛していてやりこんでいるバーチャルタレントに対して、「共通の趣味があるから心が通じる、応援したい」という発想でファンが増えていきます。憧れより共感。バーチャルタレントだけでなく、今のインフルエンサーの人気の核はそこにありますよね。

─ なるほど、ファンにとって「自分に近い」と思ってもらえるかどうかが人気のカギになるんですね。その世界観を守るために気をつけていることはありますか?

谷郷:ホロライブプロダクションに所属しているバーチャルタレントには必ずオリジナルのキャラクターがあります。人格は一つだけで、たとえばタレントが引退するときにはそのキャラクターも引退。他の誰かに引き継がれることはありません。バーチャルではありますが、リアルな「個」がそこには存在しているんです。また、他社では例を見ないのですが、私たちはキャラクターデザインも、SNSなどで人気のある個人の方に発注しているんです。

─ いわゆる「人気絵師さん」ですね。

谷郷:もともとホロライブのタレントのファンで、応援イラストを描いてくれていた方にお願いすることもあります。この世界観を愛してくれているクリエイターに描いてもらったキャラクターが、個人のタレントとして息を吹き込まれ、活動を始めるんです。

そしてデザインをしたクリエイターのお名前は、タレントのプロフィール欄に載せるようにしています。こうしてバーチャルタレントとキャラクターを創るクリエイター、ファンの皆さんが一体となった協力関係が形成されて、愛着はより強固なものになっていく。その状態をいかにつくれるかに力を注いでいます。

目指すのは、芸能事務所と所属タレントのような関係構築

─ 「個をエンパワーメントする」という理念を社内でも共有して事業を進めていくにあたり、意識していることはありますか?

谷郷:スタッフたち自身がバーチャルタレントのファンといいますか、この世界観をこよなく愛している人間ばかりなので……。別に、私についていこうというスタンスではなく、「みんながもっと驚くようなことを実現して、バーチャルタレントたちを世界に打ち出していこう」という内発的なモチベーションでがんばってくれています。ですから私は、経営者として方向性は示さなければならないのは当然ですが、彼らの意欲を押さえつけるようなことだけはしないように意識しています。

─ ある種特殊な存在であるバーチャルタレントに対するコミュニケーションにおいて、マネジメント組織として気をつけていることはありますか?

谷郷:バーチャルタレントの皆さんは感受性が強いからこそ、ファンに喜んでもらえるようなパフォーマンスができるのだと思います。その分傷つきやすい側面もありますから、その都度その都度、真摯にケアしていかなければならないと考えています。

マネージメントする対象がバーチャルタレントではありますが、芸能事務所が所属タレントのキャリアについても長くフォローするような関係を、私たちも築けたらいいなと思っています。

「ホロライブ」というのは所属のバーチャルタレントたちをAKBのように結集させたアイドルグループの名前でもあるんですよ。オリジナルのコンテンツを作り、週に1回程度配信を行う「ホロライブ」は、YouTubeチャンネル登録数およそ20万の人気グループなんです。その人気を牽引しているのが、ホロライブプロダクションでトップの人気を誇る白上フブキや湊あくあです。しかし彼女たちの活動の根源は、決してアイドルグループとして活躍するという目的に限られてはいません。


▲バーチャルタレントのアイドルグループ「ホロライブ」公式曲第2弾『夢見る空へ』試聴動画

私たちとしては、あくまでバーチャルタレントの「個」の活動を盛り上げていくという点を意識してマネジメントしていかなければならないと考えています。10年、20年と活躍してきたアイドルが、成熟期にいかに個として活躍の場を広げていくのかというのは、リアルな芸能界でも課題になっていますが、その点はリアルもバーチャルも同じです。

トップ層のバーチャルタレントともなれば、ライブ配信だけでなく、自治体の公式キャラクターを務めたり、世界的な人気を活かしてインバウンドビジネスとコラボしたり、あるいは世界ツアーを行ったりするなど、活動の可能性は広がっていくはず。本人たちの意向も確認しながら、自己実現につながるようなサポートを今後もしていきたいですね。

「個」を尊重しながら、タレントと二人三脚の関係性を築きあげる

今回の取材を通して、谷郷さんご自身がバーチャルタレントを「個」として本当に尊重し、その才能を信じているということが強く伝わってきました。あくまでも個性には踏み込みすぎず、タレント自身が出来ないことをサポートしていくというスタンスが、良い関係性を生み出しているのでしょう。

また、バーチャルタレントへの接し方や気遣いはリアルな人間に対してのものと一緒であり、むしろ感受性が強い分、より繊細なコミュニケーションが求められる──そうしたお話を伺い、最新のテクノロジーを活用したバーチャルコンテンツというイメージを、良い意味で裏切られたような感覚を受けました。

これから先、「個」をエンパワーメントしていくためのテクノロジーやプラットフォームが新たに生まれていったとしても、そのスタンスは変わらず大切であり続けるのかもしれません。(編集部)