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「広報の仕事は何か」ではなく「自分はいま何をすべきか?」を問う——藤本あゆみさんインタビュー

INDEX

14年にわたって営業・マーケティング領域で活躍した後、未経験でスタートアップの広報担当へ転身。そんなキャリアを選択してきた、ひとりの女性がいます。

藤本あゆみさん。PR Tableがはじめて取材した2016年末、藤本さんはみずから立ち上げた一般社団法人at Will Workの活動に取り組むと同時に、株式会社お金のデザインのPRマネージャーとして活躍されている真っ只中でした。

あれから1年。藤本さんが次のステージとして選んだのは、アクセラレーションプログラムを軸に、世界中でスタートアップ支援を行なっているPlug and Play株式会社。

2017年11月から日本での事業展開をスタートしたばかりのグローバル企業で、マーケティングと広報、ふたつの役割を担うことになったそうです。

「これからもっと、広報の仕事を深めていきたいと思っています」ーーかつての取材の中で、そう語ってくれていた藤本さん。

今回は、いま藤本さんがとらえている「広報」の仕事について、あらためてお話をおうかがいすることにしました。(※所属・職位は、インタビュー当時/20184月)

広報の仕事について語ってくれた藤本あゆみさん(Plug and Play株式会社)


Profile

藤本あゆみさん Ayumi Fujimoto
大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職を経て、入社3年目に、当時唯一の女性マネージャーに最年少で就任。2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て、営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPRマネージャーとしての仕事を経て、2018年3月、Plug and Play株式会社でマーケティング/コミュニケーションディレクターとしての新しいキャリアをスタート。


「自分には縁がないと思っていた」広報担当者としての2年間

1年ぶりにお話をうかがいます! 今度のお仕事は「広報」と「マーケティング」、両方兼ねているのですね。

藤本さん(以下、敬称略): はい。やはり広報とマーケティングは切っても切り離せないものだと思って。

それは2年間、スタートアップで広報を経験して感じていらっしゃることですか?

藤本:そうですね。

今日はそのあたり、詳しくおうかがいしたいです。改めて振り返ると、藤本さんが「お金のデザイン」に入社されたのが2016年3月、広報を担当されることになったのがその年の7月からですね。

藤本:はい、そうです。当時のお金のデザインは社員約30名、マーケティングをCMOがひとりで統括している組織でした。広報担当者がおらず、私がその役割を担うことになったんです。……とはいっても、広報経験はなかったのですが。

そのとき、藤本さんは「広報」という仕事についてどんな認識を持っていましたか?

藤本:正直にいうと、自分には縁のない仕事だと思っていました。私は長く営業として働いてきたので、例えばマーケティングなら、自分のキャリアの延長戦上にあると認識していて。

でも「広報」はまったくジャンルが違うと。良くも悪くも、これまで出会ってきた広報担当者は「広報一筋!」の方が多く、私とはタイプが違っていたのも大きかったです。

広報の仕事について語ってくれた藤本あゆみさん(Plug and Play株式会社)

なるほど。未経験の状態でスタートして、広報の役割をどのようにとらえていかれたのでしょうか。

藤本:実は最初、いろいろな人に聞いて回ったんですよ。「広報の仕事って何ですか?」って。そうしたら、みごとにみんな回答がバラバラで(笑)

考え方や手法は企業や人によって違う。自分のやり方でいいんだなと思いました。だからまずは、職種を抜きにして「私はいま、何をすべきか」を考えたんです。

当時の私に求められていた役割は、お金のデザインが提供しているサービス「THEO(テオ)」の存在を世の中に広めていくこと。このサービスを大勢の人に好きになってもらうためには、どうしたらいいか——。

そうとらえてみると、アプローチの仕方や手法、対象とする領域は異なるものの、根本的な考え方は営業のプランニングと同じなんですよね。つまるところ、目指すゴールから逆算して今、何をするか。Googleの目標管理の仕組みである「OKR」(※)にもすごく似ています。

だから最終的に、営業も広報も仕事としてはあまり変わらないんじゃないか、と。違いがあるとしたら、どこに自分がプライドを持つかだけ、かな。

プライド、ですか?

藤本:そう。営業としてのプライドが「自分がこの商談を決めて、会社のビジネスを支える」という部分にあるなら、広報は「しかるべき人たちに、会社やサービスの情報をきっちり届ける」のがプライド。それだけの違いだと思います。

———-

※OKR:「Objective and Key Result(目標と主な成果)」のこと。Googleをはじめとする多くのグローバル企業にて、導入が進んでいる目標管理手法のひとつ。

広報の仕事について語ってくれた藤本あゆみさん(Plug and Play株式会社)

自社サービスだけではなく、市場全体が見えているか?

営業やマーケティングのご経験を生かして広報の仕事に取り組む一方で、広報ならではの難しさを感じたことはありましたか。

藤本:「THEO」はスタートアップ発の新しい金融サービスだったため、うちが単体でメディアに取り上げられられればOK、という状況だけではないと思っていました。そもそも、市場そのものが成熟していない。それがまず、第一のハードルでしたね。

市場に対する啓蒙が必要で、そのためには持続的に業界全体にインパクトを与えていかなければならない。でもそれは、到底1社だけの力では達成できません。

そこで2017年7月に、大手企業も含めた同業の会社13社を巻き込んで、広報主導のメディアレクを実施したんです。結果的に業界全体のトレンドとして、メディアにも多く取り上げていただきました。

本当の意味でサービスの認知を獲得していくためには、現状のマーケットでシェアを奪い合うだけではなく、ときには業界全体が一丸となって新しい価値を作り、市場広げていく必要があります。

そうした全体的な動きの中で、いかに自分たちのサービスに着目してもらうか……。当時「THEO」は業界1位のサービスではなかったので、そのあたりのさじ加減はなかなか難しかったですけどね。

広報の仕事について語ってくれた藤本あゆみさん(Plug and Play株式会社)

自社サービスの広報だけではなく、「業界全体の広報」が必要。それも、「サービスを世に広めるためにどうしたらいいか」という問いから逆算した戦略のひとつなのですね。

藤本:そう。よく他社の方から、「どうすればそんなにメディアに取り上げられるんですか?」と質問を受けていたのですが……。革新的なサービスで新しい価値をつくり、業界の地殻変動を起こしていきたいなら、自社サービスだけを見ていてはダメだと思います。

広報の成果指標に求められるのはクリエイティビティ

藤本さんのように、広報の本質的な役割をとらえ、実際に行動し、成果につなげる——それがなかなかできていないPRパーソン、多いような気がします。

藤本:率直にいうと、広報担当者の中には、自分の会社の事業戦略や方向性をきちんと知らない人も結構いますよね。

プロダクトやサービスをただ売り込むのではなく、「会社としての戦略がこう」、だから「この人たちにこういう情報を届けるべき」というのがセットになっていないと。

例えばメディアリレーションひとつとっても、メディアに何件電話をかけたか、それがどのくらい掲載につながったのか、それをひたすらトラッキングしている……というような話を聞くこともありますが、はっきりいってムダだと思います。

事業戦略にもとづいて、「どの媒体に、どんな風に掲載されたら会社として理想的なのか」というゴールのイメージを、経営側と広報がしっかり共有しておかないと。

もちろんメディア掲載以外でも、会社として「どんな状態になっていたら成功か」という未来図が明確に描けているかどうかが重要ですよね。

確かにそうですね。ただ経営陣と広報担当者との間で、十分な意思疎通がはかれていないことが課題になっているケースも、よくあると聞きます。

藤本:そこは、わかり合えるまで徹底的に話し合うしかないですよね。さらにいえば、自分の仕事や役割のことは、自分自身で定義し、自分の言葉で証明するしかないと思います。

経営者の視点と広報の視点、それぞれまったく異なるのは当たり前。だからこそお互いが歩み寄って、コミュニケーションを深めるしかないんです。

広報の仕事について語ってくれた藤本あゆみさん(Plug and Play株式会社)

耳の痛いお話です……。広報の成果測定、KPIの課題にもつながる気がします。

藤本:そうですね。企業経営も、ひいては広報もそうですが、「何が正解か」なんて誰もわからない。成果を測れる完璧なものさしがあるなら、もう、とっくにみんな使っているはずですから。

例えば私がGoogleで営業をしていたときは、「顧客からどのくらい個人の携帯電話に連絡がくるか」が成果指標のひとつになっていました。ポイントは、「個人の携帯に」というところ。営業担当として顧客から信頼を得ていれば、個人宛に連絡や相談がくるはず、という仮説のもとに設けられた指標です。

お金のデザインでは、広報単体ではなく、マーケティングと連携したKPIを設定していました。広報としてどこにどんなアプローチをして、結果的にどうなったのか。ユーザー数の増加に結びつかなかったのはなぜか——そうした仮説検証そのものが、活動の軸になっていましたね。

「自分たちはどこに向かうべきか」を握り合ったうえで、試行錯誤を繰り返す。そうした前提があれば、何でも指標になるんですよ。そのクリエイティビティが大切だと思います。

プロダクトの広報から、新たなビジネスの広報へ

2年間の広報経験を経て、2018年3月からPlug and Play株式会社に転職されたわけですが、なぜ、次のステップに進もうと思われたのですか?

藤本:「THEO」はプロダクトとして、ひとつのフェーズを超えたかなと。そこで次は特定のプロダクトではなく、もう少し違うビジネスの広報に関わってみたいと思うようになったんです。

営業ではなく、再び広報で。

藤本:はい。何よりこの2年で取り組んできた、広報の仕事がすごく面白かったんですよね。営業も決してキライではないのですが(笑) さらに、広報の可能性を広げていきたいなと。

Plug and Playに移る決め手になったのは、どんな部分ですか。

藤本:ひとつは広報とマーケティング、両方ができること。お金のデザインではCMOと一緒にKPIを追っていたので、私の中で、広報とマーケティングの垣根はないんです。目指すゴールは同じですから。

今度は特定のプロダクトではなく、会社そのもののブランド価値を創出し、日本社会の中に浸透させていくことがミッションです。私にとっては、とても大きなチャレンジになります。

そしてもうひとつは、自社の広報・マーケティングだけではなく、支援先となる数々のスタートアップ企業に関わっていけること。

日本にも面白い取り組みをしているスタートアップはたくさんありますが、初期の頃から自社で広報・マーケティング専任の担当者を雇う余裕がない会社がほとんどです。

それだけの理由で、事業が知られていない。メディアからも認知されていない。すごくもったいないですよね。これは、私のもうひとつの活動、一般社団法人at Will Workでの取り組みを通しても痛感させられました。

これからPlug and Playの事業を通じて、多くのスタートアップ企業の広報に携わっていきたいと考えています。

広報の仕事について語ってくれた藤本あゆみさん(Plug and Play株式会社)

Public Relationsは広報担当だけが担うものではない

最後に、今後の目標などがありましたら教えてください。

藤本:ないです。

……例えば、5年後にどうなっていたいかというイメージとか。

藤本:全然ないです(笑)

そうなんですね。すごく意外です……!

藤本:時間がたつにつれて自分自身はどんどん変化しますから、目標を立てたところで、意味がないと思っているんですよね。

もちろん、目標がないと走れないという人もいると思います。でも私は目標を決めてしまうと、リミットが生まれて窮屈になってしまう気がして。

だから、あえていうなら“変化し続けること”が人生の目標なのかもしれません。

この2年間の経験は、藤本さんご自身にどんな“変化”をもたらしたのでしょうか。

藤本:広報の仕事にコミットしたことで、逆にPR(Public Relations)は広報担当者だけが担うものではないよね、という意識がかなり強くなりました。

例えば営業のための資料ひとつとっても、その会社の姿勢をあらわす大切なツールですよね。制作するときは、ベースとなるPublic Relationsの考え方が必要です。

さらにいえば社員は全員、わずか一歩でも会社の外に出た瞬間に、「会社の広報」と同じ立場になります。社員一人ひとりが、会社のブランドを作っているんですよね。だからPublic Relationsは本来、「全社員が担うもの」なのだ、と。

会社がどの方向に向かって走っているのか、そのためにどんな行動をとればいいのか——それを整理し、全員に伝えていく。広報担当者の役割は、そのための“武器”をつくっていくことなのではないかと思っています。

職種や手法ありきではなく、全員で目指すゴールを見据えて

私たちはついつい、職種ありき、限定的な手法ありきで、自分の仕事をとらえてしまいがちです。でも本来は、営業も、マーケティングも、そして広報も、ひとつの会社の中で目指すゴールは同じはず。違いは、どの部分にプライドを持つかだけ——。

多様なご経験をされてきたからこその藤本さんの視点に、ハッと気づかされることがたくさんありました。

「自分たちはどこへ向かうべきなのか?」を問い直し、そのうえで自分自身の役割を定義して試行錯誤を繰り返す。Public Relationsの実践は、そうした地道な一歩からはじまるのだと、改めて強く感じました。