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「架空のプレスリリース」でエンドユーザーの反応を確かめる? 大企業の新規事業開発ではどのような関係構築が必要なのかーーディップ進藤圭さん

INDEX

大企業には素晴らしい伝統や歴史、古くからの慣習があるからこそ、チャレンジに二の足を踏んでしまいそうな、見えない大きな壁のイメージがあります……。

そんな大企業のPRパーソンは、さまざまなステークホルダーとどのように関係構築をしながら成果につなげ、見えない壁を乗り越えて活躍しているのでしょうか。

今回はアルバイト・パート求人情報サイト「バイトル」で馴染みの深いディップ株式会社 次世代事業準備室 dip AI. Lab室長の進藤圭さんにお話を伺いました。

進藤さん率いる次世代事業準備室 dip AI. Labでは、AIやRPA(Robotic Process Automation)を活用した新規事業開発が行われています。

大企業の中で新たな事業を生み出していくために、社内外のステークホルダーとどのような関係構築を行なっているのでしょうか。

—–

※ここでの大企業とは「資本金5億円以上、または(前身も含める)数十年の伝統や商材・ブランドを有する」と定義します。


Profile
進藤 圭さん Kei Shinto

ディップ株式会社 次世代事業準備室 dip AI. Lab室長
福岡県出身。大学在学中に2度の起業を経験し、2006年にディップ株式会社に新卒入社。営業やディレクター職を経験し、看護師人材紹介サービス「ナースではたらこ」ほか、複数のサービス立ち上げに参加。現在は、次世代事業準備室にてRPAツールやAI関連サービスに着目した新規事業開発を行なっている。


「0→1」の新規事業。アイデアを形にするステークホルダーとのルーティン

まず、進藤さんの現在の役割、次世代事業準備室 dip AI. Labでの仕事内容について教えてください。

進藤さん(以下、敬称略):一言で言うと新規事業開発担当。ディップという会社の中でAIやRPAの開発を進め「0→1」の事業を生み出すのが私の役割です。過去には看護師人材紹介サービス「ナースではたらこ」など、さまざまなサービスを開発してきました。現在は、RPAやAIといったテクノロジーを使って社内外に新たなサービスを創出することを目指して事業を進めています。

なぜ、「バイトル」など求人情報を中心に扱うディップ内で、RPAやAIを開発することを考えられたのでしょうか。

進藤:RPAやAIの開発を進める背景として人口減に伴う労働力の減少という社会的要因があります。働き手の絶対数が限られているわけですから、新たに人を雇用することは難しくなることが予想されます。そうすると、企業は従業員との関係性を密にして、社員がより活躍できる場所を提供する必要があります。働き方改革等による労働時間の削減やコストカットのなかでも、こうした社員と密にコミュニケーションをとる時間を確保するために、AIやRPAがこれまでの労働力に代替される時代がくると考えました。

私が最初に携わった事業は、「クローラ(Crawler)」というWEB上の情報をデータベース化していくプログラムが中心のサービスでした。この事業を始めるまでは派遣社員の方に手作業で情報を分類してもらっていました。開発を進め、AIの精度が高まっていくと、人が行う作業がどんどん減っていくわけですから、効率化を測ることができ、本当に必要なことに注力できる環境になりました。
それが、RPAやAIとの最初の出会いでした。

進藤さんはディップに新卒入社後、さまざまな「0→1」を進めてきたと伺いました。新しいアイデアを形にするためのルーティンなどはありますか?

進藤:新しいアイデアを考えたら、関連する業界の有識者やメディアの記者の方にインタビューするようにしています。そして、その際に企画書がわりのプレスリリースを持参して説明を行うようにしています。まだアイデア段階であっても、先にサービス化した後を想定したプレスリリースを作ってしまうんです。

まだ、姿・形もなく実態のないプロダクトでも完成イメージを持って「こんなの始める予定なんです」と言って「イイね!」となれば事業として可能性があることが判断できる。プレスリリースに仮説を盛り込み、それを有識者へのインタビューを通じて検証していくプロセスはここ10年、続けていますね。

▲進藤さんがサービスローンチ前に作成したプレスリリース。企画段階で実態は「何もない」状態でも、サービスの内容を具体的に表現するように心がけて作成しているといいます

過去に作られた架空のプレスリリースを拝見すると、幅広い分野の事業に見受けられます。専門的に学ばれていなかったことをサービスとして立ち上げる際の「知識レベルの穴埋め」はどのように意識されていますか。

進藤:新しいアイデアを思いついたら、①詳しい人に聞きにいく、②本を読む、③イベントに行く、④登壇するを徹底しています。

プレスリリースを作るのも、自分自身がどのレベルの知識なのかを確認するプロセスのひとつです。一般的に新規事業はMBAのフレームワークで整理しながら立ち上げられることが多いようですが、企業の中で新規事業を立ち上げる方法はその企業カルチャーや社内承認のプロセスも踏まえて検討した方がいいと思います。例えば、弊社のように営業メンバーが多いカルチャーの中では、小難しいフレームワークを使うよりも、ビジュアルを使って1枚のプレスリリースにした方が単純明快で分かりやすく好まれる。新規事業担当は自社の企業文化をきちんと理解しておく必要がありますね。

まずはユーザーを説得!新規事業立ち上げにおける稟議フローの突破術

新規事業開発では、社内からの賛同も必須かと思います。これまで多くの新規事業開発に携わってこられたかと思いますが、御社のような大企業でどのように稟議を突破されているのでしょうか。

進藤:新規事業において一番最初に説得しなければいけないのは、上司でも経営陣でも株主でもなく、ユーザーです。たとえ社内で評価が高くてもユーザーが使ってくれるとは限りません。しかし、ユーザーが受け入れてくれさえすれば、たとえ社内が難色を示したとしても、説得は簡単なんです。仮説となる架空のプレスリリースを作成し、具体的な仕様を有識者へのインタビューで検証していますが、外部の目を持つ記者さんがそのサービスを面白いと思うかはユーザーの反応を確かめる良い判断材料になるわけです。これまで立ち上げてきた事業も、何十枚も企画書をつくるよりも、LPとプレスリリースを最初に作って説明をしたことで、どのように見えるのかがイメージが湧いて有識者からの反応がよく、うまく立ち上がったサービスでした。

次世代事業推進室は少数精鋭で構成されているとお聞きしました。社内の方からは進藤さんの次世代事業準備室の動向はどのように見られているのでしょうか?ユーザーの好感触を社内に伝えるためにどんな社内広報を行なっているのでしょうか。

進藤:謎の多い組織だと思われていると思いますね。弊社では社内広報の一つの施策として、社内報を発行していますが、私の部署がやっていることをそこで積極的に発信している訳ではありません。社内のメディアよりも新規事業は対外的な第三者視点の入ったメディアを通じて伝わって欲しいと考えています。

まだサービスが完成していないのに焦って社内広報して「使えない!」ってレッテルを貼られるよりも、第三者視点を持った信頼できるメディアを通じて、自社のことを知ってもらう方が社員はしっかり理解してくれると考えています。

ですから、外のメディアに向けた広報活動に力を入れてやっていますね。私がイベントに登壇させてもらったり、記者の方から取材を受けて記事になることが何よりの社内広報なんです。

そのせいか、サービスがローンチしてから社内のメンバーから「そんなことやっていたんですね」って声をかけられることが多いですね。

ありがとうございます。最後に新規事業開発におけるステークホルダーとの関係構築のあり方について、読者へメッセージをお願いします。

進藤: 新規事業開発では、いかに失敗するかが何よりも大事です。そのためには多くの検証を行う必要があり、社内外の有識者との対話で自分自身の仮説を地道に検証していくプロセスが何よりも大事です。こうした信頼できる外部の声をユーザーの声としてしっかり耳を傾け、「削ぎ落とすスキル」がこれからは重要だと考えます。

2019年3月に発表したAI・RPA領域の新事業についても、2年前に作った提案書が形となりました。現在はようやく形になりつつありますが、それまでに200件以上の企画書を作成しています。つまり、200回以上は失敗しているわけなんです。完成形を見ればうまくいっているようにも見えますが、いかに数多くの案を出して、いかに早くアイデアを潰すか、筋の悪いものをいかに削ぎ落とすかが新規事業成功の肝になるはず。特に、若手の方には多くの失敗をして、新たなアイデアを研ぎ澄ますセンスを磨いて欲しいですね。

「0→1」にとことんこだわる、貪欲な事業推進力

「0→1しか興味ないんです。5とか7とかのレベルになってしまうと、自分がやらなくてもいいかなって思ってしまって」
――
取材中、進藤さんは何度も「0→1」を作ることの魅力を語ってくださいました。学生時代に2度の起業を経験され、成功も失敗も味わってきた進藤さんがディップの社内でも「0→1」にこだわるのは、求められる以上にご自身の「好き」を徹底的に磨くことを重視されているからだと感じました。一筋縄ではいかない新規事業でも、進藤さんの「貪欲なまでの推進力」が多くの失敗を乗り越えながらも周囲を巻き込み、推進できるヒントだと考えさせられました。(編集部)