#21 「氾濫するPR」特集担当と語る、PR市場とメディアのこれから─ ゲスト:週刊東洋経済・長瀧菜摘さん
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聴く「PR TALK」は、PRを実践するさまざまなゲストとテーブルを囲み、膝を突き合わせて「もっとPRの話をしよう」という趣旨の番組です。
久しぶりの放送となった今回ですが、すっかり季節は春となり、もしかすると新年度から広報・PRのお仕事をはじめた方もいるかもしれません。
今回は、そんな社会の動きを捉えて動くPRパーソンがマストでウォッチしておくべき経済メディアのひとつ「週刊東洋経済」で記者・編集者を務める長瀧菜摘さん(@nachannagataki)にゲストにお越しいただきました。
長瀧さんといえば、5年以上続く「すごいベンチャー100」特集に長年携わり、また2022年末にPR業界で大変話題にもなった「氾濫するPR」特集を担当された記者・編集者でもあります。
ビジネス経済誌が、なぜ「PR」をテーマにした特集を実施するに至ったのか。実際の読者からの反響はどうだったのか?さらに長瀧さんが現在注目している業界やテーマまで、PRに携わる皆さまが気になるであろう質問をたっぷりとお伺いすることができた贅沢な時間でした。
今回も、記事と音声でぜひお楽しみくださいませ!
ゲストプロフィール
長瀧 菜摘さん
週刊東洋経済 記者・編集者
1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、ドラッグストア、建設機械、楽器などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を担当。アマゾン、フェイスブック、楽天、LINE、メルカリなど、国内外の企業を幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者時代から数えて5年ほど参画。
▼音声で聴く方はこちら
聞き手:PR Table 久保圭太・大堀航
語り手:東洋経済 長瀧菜摘さん
なぜ「PR」をテーマに特集を組もうと思ったのか
PR Table久保(以下、久保):昨年11月頃、週刊東洋経済さんの「氾濫するPR」特集がPR界隈でもとても話題になりましたが、こちらを担当されたのが長瀧さんということで、ぜひ今日は一緒にこの特集の裏側などもお伺いしていければと思います。
今回、大きなテーマとして「情報流通の主導者が替わった」という文脈で書かれていたと思いますが、そもそもどういうきっかけでこの特集をやろうとなったのでしょうか。
週刊東洋経済 長瀧さん(以下、長瀧):この特集は森田という後輩記者と二人のチームで作っているんですが、普段の会話でブレストのように毎日企画の話をしていたんですよね。あるとき彼が、「長瀧さん、ニュースというのは一体なんなんですかね。」と禅問答のようなことを言い出したんです。
Twitterなどで流れてくる記事のリンクに飛ぶと、新聞や東洋経済の記事のこともあれば、どこかのベンチャーの社長が自分で書いているnoteだったり、プレスリリースのときもある。私たちはメディアで働いているので、パブリッシャーがどこか、いつ配信された記事か、などすごく気にして見る癖がついていると思うんですけど、一般の方からすると全部同じテンションで読んでいると思うんですよね。
つまり情報を得る手段としてフォーマットも似ていて、全部同じように見えているならば、そもそもニュースって何だろう、という問いから「ニュースというものが変わってきた」という特集をつくりたい、となりました。
ただ言いたいことはわかったけど、タイトルとしてどうなんだろうと思い、二人で考えていったときに「PR」という概念を横軸で通せるんじゃないか、ということに気づいたんです。
企画をつくり、メディアに取り上げてくださいというのがこれまでのPRの仕事だったかもしれないけど、今はそれだけが手段ではなく、SNSやオウンドメディアで発信してもいい、動画でもテキストでも、こういう音声でもいいしイベントでもいい。そういうものが広がっているし、原動力を突き詰めたときに「PR」を立てた特集だったら、これから生活者としっかり繋がっていきたいという企業にも刺さるんじゃないかと思って、決まりました。
久保:そういう背景だったんですね。これまであまり経済誌で「PR」をテーマにした特集は例がなかったですよね。
長瀧:それこそ電博など広告業を扱った特集はあったんですけど、あまり参考にできるものが他社にもなくて大変でしたね。
久保:オズマピーアール出身の経営者として、航さんはこの特集をどうご覧になりましたか?
PR Table 大堀 航(以下、航):マーケット的な数字や伸び代の話もそうだし、PR会社それぞれの特徴などをここまで調べ上げられている雑誌はこれまでなかったので、PR業界の人は全員見たほうがいい特集になっているなと感じましたね。
久保:満足度を聞いてランキングを公開する、とか攻めた企画ですよね。
長瀧:今までいろんなアンケートやってきましたけど、これまでで一番書いてる方の熱量が高いアンケートでしたね(笑)自由記述のところとか、山ほど書いていただいて。それだけみなさん思うところがあるんだろうな、と。
“ひとり広報”がPRの重要性を語るための武器にしてほしい
久保:読者からもさまざまな反応があったと思いますが、この特集でこだわった部分や、狙った読後感はどういうものだったのでしょうか。
長瀧:“メディア”の話をパート3で書いてるんですが、編集会議では、メディアの衰退話が前にあったほうがいいんじゃないかという意見もあったんです。ただ私は「絶対、PRが前の方がいい」と言って押し通したんですよね。
メディアを前にしたほうがもしかしたら売れたのかもしれませんが、それでもPRを前に持っていきたかったのは、勢いのあるPRと、なくなったメディアだと、読者はもちろん勢いある方を読みたいでしょう、ということ。そしてメディアの衰退話というのは何年も言われていることで、あまり新鮮味がない、というのがありました。編集部の中でも「PRでほんとに売れるのか?」という温度感ではありましたけど、思い切って新しい産業を主役にしてチャレンジしたのはこだわった部分でしたね。
あと読後感として大きく狙ったのは、中小企業の方とかで“ひとり広報”が増えてきていると思うんです。リソースが足りないのに、あれもこれもやれと言われて、経営者に無茶ぶりされる方もいっぱいいると聞いています。なのでこの特集を社長に持っていって、これを読んだら大変だってわかるでしょと。PRなめたらうちの会社埋もれちゃいますよ、だから人を増やしてください。とかそんな風に使ってもらえたらいいなというのは考えていました。なので、経営者に刺さりそうなインタビュー記事も載せる構成にしたりしましたね。
久保:実際、やってみて狙い通りの反応はありましたか?
長瀧:そうですね、実際にそういう風に使ったという反応を見つけて、すごい嬉しかったですね!
航:僕は、“6兆円の広告市場へとPRが染み出している”っていうのが、マーケットとしてすごいポイントだなと思っていて。PR会社ってふつうに暮らしていると得体の知れない事業じゃないですか。定義しきれないからこそ、いろんな市場に染み出せるというか。今、当社PR Tableでいうと、HR領域にもPRが必要になってきているよね、というニーズにアプローチしています。なので特集を通じて、そうしたPRの可能性を言及してくれていたのは、PR業界出身の起業家としてもすごく嬉しかったし、背中を押してもらったような気がしましたね。
久保:長瀧さんは普段からPRパーソンとも接していると思いますが、特集をつくって改めて気づいたことなどはありましたか?
長瀧:ひるがえってメディアや出版社を考えたときに、情報を伝えるというのは同じはずなのに、旧来メディアはそこをイノベーションすることをサボってきたなというのは感じましたね。だからパート3で書いたように衰退していくわけです。PR側に移っていく人たちの言い分も、このまま旧来メディア側にいたらいつか伝えられなくなるから、ちゃんと敏感な場所に身を置きたいという方が結構多くて。
私自身はすぐにそういうキャリアを考えることはないですが、今の会社とか出版業界にいるのであれば、媒体の形だったり今までのルートにこだわらずに、きちんとどうやったら伝わるのかの試行錯誤をもっともっとしていかなければならないと思っています。PR会社の人たちはそういうことを山ほどしているので、負けてられないなと感じましたね。
久保:この特集を通じて新たな気づきを得たPRパーソンも多かったと思いますし、PR業を営む僕らの要望としては、ぜひこういう特集はまたやってほしいなと思っております。
「すごいベンチャー100」企画・選出の裏側
久保:長瀧さんは「すごいベンチャー100」特集も4年ほど担当されています。こちらも企画や実施の苦労があると思うんですが、現在はどういう携わり方をしているのでしょう。
長瀧:最初の頃はIT・ネットの業界担当記者をやっていたので、編集部は別にありましたが、今はメインの企画・進行を担当しています。どういう風に選出していくのかを決めたり、100社以外のコンテンツづくり、細かい戦略をどうするかまで手広くやっています。
久保:毎年いろんな基準があると思うんですが、ノミネート企業の選出の観点はどういう風に決められていくんですか。
長瀧:よく聞かれるんですが特に隠してはいなくて、雑誌に書いている部分もあります。
例外もあるのであくまで目安ですが、まず“ベンチャー”とつけているので、一応設立10年以内くらいの会社で、ある程度大きな額を外部から資本調達していること。これは第三者の評価ということに直結するかなと。あとは日本に関わって、ビジネスをしている会社。海外まで含めてしまうと無限大にベンチャーがあるのでそこは範囲をある程度絞りたいというのと、読者ニーズとして出資や協業というビジネス観点で見ていらっしゃる方もいるので、日本の読者に届けるという視点で選んでいます。
そういうベースの条件はありつつ、まずはそれに合致しそうな企業をリストアップしていくとその年の傾向がやっぱり見えてきます。去年あまりこういうベンチャーはなかったのに倍くらい増えてるね、とか、これまで一回も見たことないカテゴリが急に出てきたね、とか。それはやっぱりトレンドだと思うので、そういう場合はしっかりページをおさえていく。そして最後は泣く泣く削りながら100社を選定していく感じです。
久保:元々お付き合いのある企業以外にもリストアップされるんですよね。
長瀧:そうですね。VCさんやベンチャー経営者にヒアリングしますし、自分でイベントとかに出かけていって直接お話したり、さまざまなルートで探します。
久保:これを聴いている方にも選出されたいっていう方も多いと思うんですが、ここに載るための対策をあえて言うとしたら何かあったりしますか?(笑)
長瀧:すごいテクニカルな話になるかもしれないんですけど、ありがたいことに毎日すごい数の連絡を個人にも会社にもいただいていまして。ただ1社1社個別にお会いするのって時間の制約上難しくて、いつも申し訳ないなって思いながらお返事できないことがあるんです。やっぱり一気に会える機会はすごく大事にしているので、イベントとかまとめてご紹介いただくような機会とかは動きやすいかもしれないと思いますね。
久保:その中で引っかかるものや注目したいって思える企業を見つけるんですね。ちなみに、今注目されている業界とかテーマはありますか?
長瀧:昨年リストアップしてみて思ったのは、ひとつはESG関連ですね。これまでもそういう会社はあったと思うんですが、カテゴリとして世間に認識され始めたことで、名乗るベンチャーも増えましたし、そこのソリューションを提供する企業も去年よりも今年の方が増えている気がします。カーボンクレジットとかの領域になると金融も絡んできたり、すごく深みが出てきたなと思うのでその領域は引き続き注目しています。
足元で言うと、ChatGPTも出てきているAIの領域はふたたび脚光を浴びているし、もっと盛り上がってくるかなと。AIベンチャーはすごくディープなところを研究開発している企業から、古今東西いろんなフェーズの会社があります。生成AIが一般化してきたら、そこにベンチャーがどういう風に絡んでいくのか、驚くようなソリューションがあるかもしれないし、すごくワクワクしますね。
久保:東洋経済でも最近「ChatGPT」特集されてましたもんね。他のメディアでもどんどん増えそうですね。
長瀧:おかげさまで売れておりまして(笑)うれしい限りです。
読者の声でアップデート。これからのメディアの在り方とは
久保:広報・PRの方から連絡いただくことも多いと思いますが、どういう情報提供やコミュニケーションがあるとありがたいですか?
長瀧:結構困るなと思うのが「最近どういう情報に興味お持ちですか?」という質問ですね。特にメールベースとかだとそれを全部打っている時間はなかなか取れないので、答えるのが面倒な質問だなというのはあります。連絡いただけるのはありがたいんですけどね。
逆に、こちらが書いている記事や特集をいっぱい研究してくださっているなという方だと、たとえば「長瀧さんはこのニュースで記事を作りたいだろうから、ちょうどいい人を紹介します」と言ってくださったりするのはすごいありがたいなと思います。今日も特集を読んだと言っていただけましたが、そういう風に媒体研究をたくさんしてくださっていると感じると嬉しいですよね。
久保:毎日信じられないくらいご連絡いただいていると思うので、提案ベースで連絡がほしいということですよね。では最後になりますが、今後やっていきたいことや長瀧さんの展望などあればぜひお聞かせください!
長瀧:そうですね。「すごいベンチャー100」も毎年同じタイトルでやってますが、実は中身はかなりマイナーチェンジをしていて、時流にあわせて考えながらやっています。
一昨年は女性起業家っていうカテゴリをつくったんですが、昨年はそれをやめて、当たり前の存在としてもっと誌面に溶け込むように変えてみたり。社長の年齢を載せていたのをやめたり、特集において伝えたいことの本質を考えるように心がけています。そういうことを外から指摘されて気づくことも多いんですよね。
デジタルでも雑誌でも共通ですが、流動的にどんどん進化していきたいなと思っていますので、「ここってどういう背景でこういう風につくってるんですか」とか「もっとこうしたら時代に合うんじゃないでしょうか」など、そういう声はいろんな方にいただきたいですし、これを聴いている方でもぜひお声を聞かせていただけるとすごく嬉しいなと思います。
久保:メディアも社会の流れにあわせてアップデートしていくということですよね。では航さん、最後に本日お話してみていかがでしたでしょうか?
航:東洋経済さんというと敷居が高いような印象を持っていたんですが、今日長瀧さんとお話してみて、すごく柔軟に社会の声を取り入れて特集も作られているというスタンスを知れたのでとてもポジティブな気持ちです。
そして「氾濫するPR」特集は、PRの市場やプレイヤー、働く人のキャリアがかなり深ぼられていて、PR業界がお墨付きをいただけたような、ビジネスとしての権威づけがされたようなエポックメイキングな特集だったなと思っています。ぜひ引き続き定点観測をしていって欲しいなと思っています!
長瀧:どんどん変わっていくんだろうなと思いながら取材していたので、私もずっと見ていきたいと思っています。
久保:今後の特集も楽しみにしております!本日はありがとうございました!
▼PRパーソン必読の特集誌面はこちら。ぜひこれを機にまだ読んでない方も、読んだ方もご一読ください!
関連情報
■長瀧さんの著者ページ
https://toyokeizai.net/list/author/%E9%95%B7%E7%80%A7+%E8%8F%9C%E6%91%98
■長瀧さんのTwitter
https://twitter.com/nachannagataki
■週刊東洋経済/編集部のTwitter
https://twitter.com/w_toyokeizai
パーソナリティーのご紹介
大堀 航
株式会社PR Table 共同代表取締役
2008年、大手総合PR会社のオズマピーアールに入社し、IT企業を中心に広報戦略立案・実行業務に従事。2012年、レアジョブに入社し、広報責任者として2014年6月に東証マザーズ上場に貢献。2014年12月、弟の大堀海とPR Tableを創業する。有名ベンチャーキャピタルより累計11億円強の資金調達を完了。企業の採用課題を解決するデジタルPRソリューション「talentbook」を通じて、これまで累計1,000社以上の大企業・成長企業の情報発信を支援している。
久保 圭太
株式会社PR Table PR室 室長 /Evangelist
北海道札幌出身。二児の父。 PRSJ認定PRプランナー。 ITベンチャー企業にて広告企画営業、人事戦略、PRの責任者を経て、2018年よりPR Tableに参画。 カンファレンス企画や自社オウンドメディア運営を統括し、Public Relationsの探究活動を行う。その後、PRコンサルタントとして顧客向けのオウンドコンテンツ企画・活用支援に従事。2020年よりCS組織の立ち上げを経て現職。