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「あなたが1カ月間、当社のプロジェクトに100%コミットして働いたら、報酬はいくらですか?」
突然こんな質問をされたら、あなたは迷うことなく答えられるでしょうか。
会社員として給与をもらう形態で働いていると、自分にいくらの価値があるのか、そもそも自分は毎月いくらあれば幸せに生きていけるのかを考える機会は少ないかもしれません。
2018年2月15日(木)、虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された、at Will Work「働き方を考えるカンファレンス2018」は、「働くを定義∞する」をテーマに、“人”と“企業”と“働き方”、それぞれの今と未来を参加者で学び、考えるカンファレンス。
「働き方・企業と人」「人×テクノロジー」「マネジメント」「エンゲージメント」「地域・コミュニティ」「仕事の価値を考える」「働き方の多様化を支える文化」「教育・“働く”の未来」という8つのテーマで、さまざまなゲストスピーカーによるトークセッションが行われました。
その中のひとつ、「仕事の価値を考える」では、Enhance Incorporated Founder and CEOの水口哲也氏と、株式会社お金のデザイン取締役COOの北澤直氏がゲストスピーカーとなり、これからの社会にあった会社のあり方と、そこで求められる人材についてのトークが繰り広げられました。
おふたりの話をもとに、「会社」と「社員」の関係性が今後どう変化していくのか、次世代のエンプロイー・リレーションズ(※)のヒントを紐解きます。
※エンプロイー・リレーションズ(Employee Relations) …… 企業が従業員と良好な関係を構築するため、企業内で行うPR(Public Relations=パブリック・リレーションズ)のこと。
Profile
水口 哲也さん Tetsuya Mizuguchi
米国法人 Enhance Incorporated, CEO 慶應義塾大学大学院(Keio Media Design)特任教授
共感覚的アプローチでエンタテインメントやアートの創作活動を続けている。文化庁メディア芸術祭特別賞(2002)、Ars Electoronicaインタラクティブアート部門名誉賞(2002)、2016年にはVR作品「Rez Infinite」が米国 The Game Award Best VR賞(2016)を受賞。2006年には全米プロデューサー協会(PGA) とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)に選出。
北澤 直さん Nao Kitazawa
株式会社お金のデザイン 取締役 COO
慶応義塾大学法学部卒業 ペンシルバニア大学大学院修了(LL.M)モルガン・スタンレー証券に投資銀行員として6年間在籍し、 不動産部門の成長に貢献。それ以前は弁護士として6年間、 日本とNYにて金融・不動産関連の法律業務を手がける。 弁護士(日本法(第一東京弁護士会)NY州法) メディア出演多数。共著に「ロボアドバイザーの資産運用革命」(金融財政事情研究会) 一般社団法人FinTech協会理事。
引用元:「働き方を考えるカンファレンス2018」(一般社団法人 at Will Work)
社員ゼロでも、会社は成り立つのか?
弁護士や投資銀行員として個人の価値を高めながら仕事をしてきた北澤直さんは、2014年に株式会社お金のデザインのCOOに就任。さまざまな職種をマネジメントするうちに、「すべての仕事の価値は一元的に計れるのか?」ということを悩むようになったそうです。
KPI(重要業績評価指標)やOKR(目標と主要な成果をリンクさせた管理手法)などの指標はあるものの、すべての職種を定量的に計るのは難しい……。そんな時、水口さんが教えてくれた解決策が、社員ゼロの会社経営でした。
「なぜ社員ゼロなんですか? 会社として成り立つんですか?」
北澤さんの驚きと疑問をきっかけに、このトークセッションは生まれました。
社員ゼロで会社を経営するのは、水口哲也さん。
株式会社セガホールディングスで27年間ゲームクリエイターとして働いた後、2度起業。
現在はアメリカでEnhance Incorporatedを創業し、VR(仮想現実)からモバイルまで、エンタテインメント体験を共感覚的にエンハンス(拡張)することを目指した事業展開をしています。
「クリエイティブな仕事をするためには、会社員であることよりも、一人ひとりがいかにクリエイティブでいられるかが重要です」(水口さん)
その考えのもと水口さんは、会社員という形態は採用せずに、「アライアンス」というキーワードを取り入れ、スタッフ一人ひとりが個人事業主もしくは個人法人のクリエイターとしてプロジェクトにコミットする形をとっています。
そもそも水口さんが社員ゼロの会社経営に至ったのは、かつて起業した会社でマネジメントの難しさに直面したからでした。
「社員としてクリエイターを抱えると、10人のうち1人でも頑張らない人間が出てきた時に、残りの9人がそのマイナスな方向に引っ張られてしまいます。
リーマンショックでアメリカの取引先の仕事が軒並みキャンセルになった時は、社員を食べさせていくために、やりたいクリエイティブな仕事ではなく、食い扶持を稼ぐ仕事をしないといけない状況になり、会社全体として無理をしてしまいました」(水口さん)
水口さんは、ヘルシーに働けないのであれば、社員を採用するのを辞めてしまおうと決意。その代わり、関わるクリエイターがずっと会社に関わりたくなる仕組みをつくることにしました。
あなたの100%の価値はおいくらですか?
みんながずっと関わりたくなる会社とは、どんな姿だろう?
水口さんが出した答えの一つが、先ほどご紹介した「アライアンス」というキーワードのもと、個人事業主もしくは個人法人のクリエイターとしてプロジェクトに関わること。そしてスタッフ自ら、自分の価値を決めることでした。
「一緒にプロジェクトをすることになったら、まず『あなたの100%は、おいくらですか?』と聞くんです。するとほとんどの人は返答に困ります。
家族を養う分、自分が幸せに居るために必要な分、自分への投資などを考慮して、『僕は1カ月にこの金額があれば幸せにやっていける』という答えをもらいます」(水口さん)
会社の給料や相場をもとに自分の価値について考えることに慣れてきた人にとって、突然自分の提供できる価値に値段をつけるのは難しいことです。
しかしこのプロセスにこそ、幸せに生きるために必要なことが含まれていると水口さんは考えます。
また今まで会社が代行していた保険や税金を自分ですることで、本当の自分の価値に気づくきっかけになったり、働き方の選択肢が出てきたりするといいます。
「自分の価値を正確に把握すると、100%のうちどのプロジェクトに何%使うかを決めることができます。週5日働いて100%使うのか、週1日は他の仕事に充てるのか。いろいろな働き方の選択肢が生まれます」(水口さん)
自分で値段や働き方を決めて責任を持って働くとなると、セルフマネジメントする必要性が出てきます。するとマネージャーは必要ありません。
さらにこの仕組みは、少数精鋭の集団だけではなく、100人を越える大きな集団にも適用できると考えています。
「プロジェクトに紐づいて人が移動していくモデルを採用すれば、可能です。ハリウッドもこのモデルで、監督、プロデューサー、俳優、カメラマンとほとんど社員はいないですよね。会社で進めるプロジェクトは短期から長期がありますが、プロジェクトの集合体と見なすこともできます。誰がどこにどれだけ貢献しているのか、数値化できればと試行錯誤しています」(水口さん)
ブロックチェーンのようなテクノロジーが生まれている現在、個々の貢献度やかかった経費などをもとに利益を分配する仕組みは、遠くない未来に実現できそう。水口さんの会社ではテクノロジーも取り入れながら、仕事の価値を見える化しようとしています。
必要とされる人材になるために大切な3つのこと
これからの時代、会社員としていかに通用するかではなく、プロジェクトが立ち上がる時に呼んでもらえるかということが重要視されそうです。
最後にそのために必要な3つのポイントを共有して、トークセッションは終了しました。
「TEDトークの中で、ある作家がプロジェクトが成功するために必要なポイントとして、(1)自主性、(2)専門性、(3)目的を挙げています。つまりマネジメントをしなくてもうまくいく組織というのは、関わる人が自分でこうしたいというビジョンとそれに向かう気持ちをもち、ビジョンを実現する専門性がある状態のこと。この環境をつくるのが“アライアンス”で、社員ゼロの会社経営を可能にしています」(水口さん)
水口さんが実践されているような「社員ゼロ経営」の会社が増えていけば、自ずと「会社と従業員」の関係性も変わっていくでしょう。
変化した先の社会を生き抜くためには、個々が(1)自主性、(2)専門性、(3)目的を意識することが必要となる。
そうした軸があれば、自分を見失うこともなくなるでしょうし、組織に関係なく、どこにいても自分の力を最大限に発揮できるはず——。そんなことを感じたトークセッションでした。
改めて自分自身に問いかけ、考えてみてください。そう遠くない先に訪れるであろう、将来に備えて。
「あなた自身の、“1ヶ月間の報酬”はいくらですか?」
第2回「働き方を考えるカンファレンス2018」(主催:一般社団法人 at Will Work)
~行政・企業・研究者、フリーランスから大学生まで 日本最大級の働き方討論会~
https://www.atwill.work/conference2018/