グローバルで社員との関係構築を進める2社から学ぶ、越境型社内広報 ――イベントレポート#23
INDEX
グローバルな事業を展開するときに考えなければならないのが、外国人従業員との関係構築です。コミュニケーション対象の拡大に伴い、社内広報の在り方も「越境型」を意識したものに変化させていく必要があります。
今回PR Table Communityでは、『「企業はグローバルでどう関係構築する?」越境型社内広報のリアル。』と題したイベントを開催しました。
従業員の6〜7割が海外人材であり、それぞれ独自の社内広報スタイルを確立している資生堂とオムロンの2社を招き、越境型社内広報のリアルに迫りました。
▼Speakers
丸山 鉄臣 さん
株式会社資生堂
グローバル広報部 社内・デジタル広報グループ
2007年㈱資生堂入社。営業、コンシューマーセンターを経て、2017年1月からグローバル広報部にてインターナルコミュニケーションを担当。 国内外の全社員に向け経営方針や世界中の社内ニュースを発信するイントラサイトを運営。経営層からのメッセージ浸透、各種イベントなどのコンテンツ企画・発信。インターナルコミュニケーションを通じて、経営戦略のひとつであるPEOPLE FIRSTの実現に向けて推進中。
佐藤 雅之 さん
オムロン株式会社
グローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部
デジタルコミュニケーション部
大学卒業後、日本コカ・コーラ(株)で10年以上にわたり、ジョージア・アクエリアス・爽健美茶等複数のブランドマーケティングを担当。 2014年オムロン(株)入社。現在コーポレートのデジタルデジタルコミュニケーション部にて、グローバルベースでのコーポレートブランドの最適な社内外コミュニケーションの可能性を追求。
▼Moderator
古賀 圭一郎
株式会社PR Table コンサルタント
青山学院大学文学部・英米文学科を卒業後、大手企業に特化した組織活性化・ブランディング支援の日本ビジネスアートに新卒入社。グローバル社内広報を専門に大手企業を多数支援。2018年7月、株式会社PR Tableにコンサルタントとしてジョイン。元通訳・翻訳家。
※登壇者の肩書き・プロフィールはイベント当時(2020年1月)のものです。
社内広報専用プラットフォームを構築し、コミュニケーションを促進する資生堂
古賀圭一郎(以下、古賀):資生堂の越境型社内広報はどのように行われていますか?
丸山鉄臣さん(以下、丸山):私が所属しているグローバル広報部には3つのグループがあり、そのうちのひとつがインターナルコミュニケーションを担当しております。
資生堂は現在、中長期戦略「VISION 2020」に取り組んでいます。 ありたい姿である「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指し、さまざまな改革を実行してきました。
「VISION 2020」を発表した2014年12月、2020年の目標は売上高1兆円超、営業利益1,000億円超でした。 しかし、2017年には売上高1兆円を3年前倒しで達成、2018年には営業利益1,000億円を2年前倒しで達成しました。2018年の海外売上比率は約58%と日本を上回り、従業員の約半数が海外人材になると同時に、グローバルでのインターナルコミュニケーションを強化しています。
古賀:海外売上比率が高くなればなるほどグローバルな従業員も増え、コミュニケーション対象が日本人だけでなく世界規模になっていったということなのですね。
丸山:その通りです。それに伴って、現在はインターナルコミュニケーション戦略をデジタルシフトして、スピードアップしています。
1959〜1993年は、国内社内報誌がありました。その後、1993年から海外社内報が創刊し、国内・海外それぞれで展開していましたが、2009年に国内外共通コンテンツに、そして2言語で2015年まで展開しました。そして後、2016年からデジタルシフトし、現在に至るまで運用されているのが、グローバル統一インターナルプラットフォーム「WITH(Worldwide Internal Topic Home)」です。
WITHには、トップメッセージや経営情報、そして世界中のニュース全般など幅広いコンテンツを掲載しています。社員はコンテンツに「いいね」がつけられます。
社員も様々な役職・職域、さらには多様な国・地域の社員がいるため、ターゲットに合わせた情報発信を大切にし、グローバルで社員をエンゲージメントするために運用しています。
見せ方次第で、社内外で通用するコンテンツを発信するオムロン
古賀:続いて、オムロンの越境型社内広報についてお聞かせいただけますか?
佐藤雅之さん(以下、佐藤):私は現在、コーポレートコミュニケーション領域のデジタルコミュニケーション部に所属しています。グローバルベースで社内外コミュニケーションを広げていこうと、オウンドメディアセントリックという戦略のもとメディア運営を行っています。
オムロンも約6割と海外売上比率が高い状況です。資生堂さんと同様に、グローバル統一のインターナルプラットフォーム「OMRON Global Hub」を2018年に立ち上げています。
企業が向かう大きな方向性やビジョンを、グローバル全社員にしっかり伝えていくことは、社内広報の大きなミッションです。一方で、世界中のビジネスや機能部門の社員が取り組んでいる現場での活動を多くの社員に知ってもらい、エリアやビジネスの垣根を越えた共感や共鳴、コラボレーションしていくようなハイブリッド型の社内コミュニケーションが今後求められる在り方だとも感じています。
古賀:社内広報が部門間やリージョン間の連携を取り持つポジションを担うということですね。では、メディアで発信するコンテンツはどのように区別していますか?
佐藤:基本的に社内外共通のコンテンツを発信するという方針で運営しています。もちろんコンテンツによっては、ウェブサイトと社内ポータルサイトでの見せ方等は区別していますが、コアとなる内容は同じです。
皆さんの企業でも、コンテンツの作り方、見せ方を工夫することで、社内だけに閉じられていた情報も、社外にも発信できる可能性は十分にあると思います。たとえば、「取引先とこんな取り組みをした」というストーリーをインターナルで共有したら、具体的な取引先名は出せないにしても、企業理念を実践する社員の地道な努力に焦点をあてることで、魅力的な社外コンテンツにもなるかと思います。そうすることで、人的リソースが少ない中でも効率的な発信体制にすることは可能なのではないでしょうか。
限られたリソースやキーパーソンを生かしたコンテンツづくり
古賀:言語や文化が違い、地理的に離れている条件下で、グローバルな社内広報をするためのリソースをどのように確保していますか?
佐藤:オムロンでは、各地域の担当者と連携しつつ、彼ら自身にコンテンツ制作を担ってもらうこともあります。
大事なのは、お互いに共通のカレンダーをもってコンテンツ制作に取り組むことです。1年52週単位で計画を立て、それをグローバルに共有することで、限られたリソースでも効率的な運用を心がけています。
丸山:資生堂ではヘッドクォーターと各地域6つ、計7つをコミュニケーション対象としていますが、基本的に現地のPR担当がスピード重視でコンテンツを制作しています。そのなかで、日本に共有すべき事例があれば、翻訳して国内で展開することもあります。
ただし、エグゼクティブ関連やリージョンを横断するコンテンツは、ある程度ヘッドクォーターのハンドリングしながら発信しています。
古賀:グローバルな社内広報におけるキーパーソンとして、どのような方が思い浮かびますか?
丸山:2015年、CEOに就任した魚谷雅彦はVISION2020にもかかげているPEOPLE FIRSTという考え方のもと、現場の社員と地道に対話を重ね、信頼関係を構築しています。会社でかかげるOne Shiseidoを実現すべく、CEO自らが世界中の社員を巻き込もうとする熱意は、越境型社内広報の鍵を握ります。
佐藤:資生堂さんと同様にCEOを中心にしたマネジメントはとても重要だと思います。一方、多様性をもたらし、ビジョンやカルチャーを共に育める仲間も重要なのではと思います。
私の上司は中国籍の方で、多様性を重んじつつ常にチャレンジ精神を持ち続け、それを遂行するパワーやスピードを持った方です。
また私の所属する本部のトップも、大手グローバル企業を経験しているため、グローバルマインドやデジタル知識にも精通し、私たちの活動をしっかりサポートしてくれています。
こうしたキーパーソンが社内広報に与えている影響は大きいのではと個人的には思いますね。
ですので、社内広報だからといって、会社のことをよく知るプロパー社員が担当じゃないといけないというわけではないんだと思います。デジタルメディアの専門性や社外からの知見ももっと積極的に取り入れる意識を持つことも、よりよい社内広報にもつながるのではないでしょうか。
インターナルコミュニケーションこそが会社の成長を促す肝になる
グローバルな事業展開には、海外人材を巻き込んだコミュニケーションの実践が必要不可欠です。国内外を切り分けることなく社内広報を促進させるためには、少ないリソースの活用やビジョンの共有に対する工夫や意識の持ち方が鍵を握るでしょう。
今回「社内広報のゴールは企業のゴール」という言葉が語られましたが、グローバルなコミュニケーションを促進することは、企業全体の事業成長や社員のエンゲージメント向上に直結することにつながります。
今回のイベントが、グローバル展開を目指す企業が取り組むべき越境型社内広報の在り方について考える一助となれば幸いです。(編集部)