Column

お役立ちコラム

2025.12.26

採用3.0、対話の時代へ──ロート製薬の「Entry Meet採用」が示す、採用市場の本質的転換

執筆:talentbook株式会社 共同代表取締役 大堀航


事業内容 

ITサービス事業、社会インフラ事業

従業員数

単独22,036名(2023年3月末現在)連結118,527名(2023年3月末現在)

ロート製薬が書類選考を廃止、15分対話から始まる「Entry Meet採用」とは

 

2025年12月15日、ロート製薬が発表した新卒採用の方針転換が、採用市場に大きな波紋を広げています。2027年4月入社の新卒採用から、エントリーシートによる書類選考を廃止し、人事担当者との15分間の対話を採用プロセスの第一ステップとする「Entry Meet採用」を導入するというのです。

▼「Entry Meet採用」公式サイト
https://entrymeet.rohto.co.jp/

生成AIの普及により、エントリーシートの内容が均質化し、学生一人ひとりの個性や価値観を把握することが難しくなっている。それがロート製薬が掲げた廃止の理由です。しかし、この決断の背景にあるのは、単なる選考手法の変更ではありません。

「効率が良いとは言えません。でも、効率だけでは出会えない"ご縁"があると信じています」

ロート製薬の採用担当者が語っているこの言葉には、採用活動における本質的な問いかけが込められています。AI面接という選択肢も一般化しつつある中で、あえて「率の悪い方法」を選ぶ。その覚悟の先に見えるのは、採用市場全体が直面している大きな転換点です。

 

採用1.0から3.0へ。市場が辿ってきた変遷

 

ロート製薬の決断を理解するためには、採用市場がどのような変遷を辿ってきたかを振り返る必要があります。

採用1.0:人事主導・効率重視の時代
かつての採用活動は、人事部門が主導し、画一的な選考プロセスで大量の学生を処理する「効率」と「公平性」が最優先される時代でした。就職ナビサイトが台頭し、エントリーシートによる書類選考が当たり前となり、企業が学生を選ぶという一方通行の構造が確立されました。

採用2.0:現場巻き込み・惹きつけの時代
売り手市場の進行とともに、企業は「いかに学生を惹きつけるか」という課題に直面します。現場社員を巻き込んだインターンシップ、スカウト型採用、SNSでの情報発信など、学生との接点を増やす施策が重視されるようになりました。しかし、その多くは依然として企業主語での「惹きつけ」であり、学生との相互理解には至っていませんでした。

採用3.0:全社巻き込み・対話と共感の時代
そして今、私たちは採用3.0の時代に入りつつあります。この時代のキーワードは「対話」と「共感」です。企業と学生が対等な関係で向き合い、互いの価値観やビジョンを確かめ合う。採用は人事部門だけの仕事ではなく、全社員が関わる「全社ゴト」となり、一人ひとりの社員の働き方やキャリアそのものが、採用力となる時代です。

ロート製薬の「Entry Meet採用」は、まさにこの採用3.0時代を象徴する取り組みと言えるでしょう。

 

なぜ今「対話」が最重要になったのか

 

では、なぜ今になって「対話」が最重要になったのでしょうか。その背景には、皮肉にも採用活動の効率化がもたらした問題があります。

生成AIで均質化するエントリーシート
ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、エントリーシートの文章は驚くほど洗練されたものになりました。文法的に正しく、論理構成も整い、企業が求める要素を的確に盛り込んだ文章。しかし、その完璧さゆえに、学生一人ひとりの個性や本質的な想いは見えにくくなっています。

学生側の負担増加という逆説
Webで気軽にエントリーができるからこそ、企業は多くのエントリーシートを受け取り、形式的な基準で評価せざるを得ない。逆に、学生は少しでも多く書類選考を通過できるよう、たくさんのエントリーシートを「コスパよく」書かなければならない。この構造は、誰も望んでいなかった負のスパイラルを生み出しています。

相互理解の希薄化
応募の手軽さが高まるほどエントリー数は増えますが、一方で企業は効率的な選考手法を追求することになります。学生も多くの企業に応募せざるを得ない状況となり、短期間で多数の選考に臨む構造上、十分な企業理解が難しくなる。結果として、入社後のミスマッチにつながりやすくなっているのです。

「就職活動が"効率"や"対策"に寄りすぎていくことで、学生のみなさんの負担がむしろ増えているのではないか」

ロート製薬の採用担当者が感じていたこのモヤモヤは、採用市場全体が抱える本質的な課題を言い当てています。

 

ロート製薬の決断が意味すること ―「試験」ではなく「選ぶ時間」へ

 

ロート製薬の「Entry Meet採用」は、こうした課題への明確なアンサーです。

全国8拠点で、15分間の対話を実施する。応募は先着順となり、人数が大幅に超過した場合は追加の枠設置も検討する。この取り組みには、会える人数に限りがあることを承知の上で、それでも直接会って対話することの価値を信じるという強い意志が表れています。

「就職活動は『受かるための試験』ではなく、自分が価値を生み出せる場所を選ぶ時間だと考えているからです」

この言葉は、採用活動の本質を捉えています。企業が学生を一方的に評価するのではなく、学生もまた企業を選ぶ。互いが互いを理解し、納得して前に進む。そのためには、文字では感じ取れないものこそが、働く上で本質的に大切なのです。

実は、ロート製薬がこうした姿勢を貫いてきたのは今に始まったことではありません。2013年には「とりあえずシューカツ・とりあえず学生集める」といった「とりあえずやめます!宣言」を行い、就職情報サイトからのネット募集をやめて電話受付に変更。2014年からは全国約30の大学に社員が出向き、直接会った学生からエントリーシートを受け付ける採用に変更してきました。

12年にわたる試行錯誤の末にたどり着いた「まず会うことに戻す」という決断。それは、採用活動の原点回帰でありながら、同時に未来への大胆な提案でもあります。

 

採用3.0時代に求められる「対話と共感の設計」

ロート製薬の取り組みが示しているのは、単に「会えばいい」ということではありません。対話と共感は、採用プロセス全体を通じて一貫して設計されるべきものです。

対話は「点」ではなく「線」で設計する
採用活動における学生との接点は、認知、興味、応募、選考、内定、入社前、そして入社後と、長い期間にわたって続きます。その一つひとつの接点で、どのような対話が生まれるか。どのような共感が育まれるか。それを戦略的に設計することが、採用3.0時代には求められます。

ロールモデルとの出会いが「共感」を生む
学生が企業を理解し、共感するために最も効果的なのは、「ロールモデル」との出会いです。自分と似た価値観を持ち、自分が目指したいキャリアを歩んでいる先輩社員。その人のリアルなストーリーを知ることで、学生は初めて「ここで働く自分」を具体的にイメージできるようになります。

アイ・ケイ・ケイホールディングスは、この考え方を体現している企業です。同社は「マイナビ・日経 2026年卒大学生就職企業人気ランキング調査(九州・沖縄)」で3年連続第1位を獲得していますが、その背景には徹底した「ロールモデル採用」の実践があります。

同社が実施している「IKK EXPO」というイベントでは、エース社員30名以上が登壇し、学生が事前に会いたいロールモデル社員を選んで対話できる仕組みを構築。イベント前に記事を送付して期待を醸成し、イベント後には全ロールモデル社員の記事を配信して共感を再燃させる。そしてエントリーシート提出後には、学生のガクチカや志望理由を参考に、最適な面接官やリクルーターをアサインする。

このように、対話の「前」「最中」「後」すべてのフェーズで一貫した体験を設計することで、学生の熱量は「維持」ではなく「加速」していくのです。 

▼アイ・ケイ・ケイホールディングス様の取り組みについてはこちらの記事参照
 社員の"らしさ"をどう伝える? 就職人気ランキング1位の企業が実践するロールモデル採用戦略

 

talentbookが考える「対話を支える仕組み」

 

私たちtalentbookは、こうした「対話と共感の設計」を、テクノロジーの力で支援しています。

全社員を「ロールモデル」として可視化する
対話の質を高めるためには、学生が事前に「誰と話したいか」を明確にイメージできることが重要です。そのために必要なのが、多様な社員のキャリアストーリーを可視化することです。限られた「スター社員」だけでなく、様々な職種、年次、バックグラウンドを持つ社員のリアルな働き方を発信することで、学生は自分に近いロールモデルを見つけることができます。

AIで量産しながらも、一人ひとりのリアルを届ける
「でも、そんなに多くの社員インタビューを制作するのは大変では?」そう思われるかもしれません。従来、1本のインタビュー記事を作成するには、取材調整、取材実施、ライティング、校正と、1ヶ月以上の時間がかかっていました。

私たちはAIを活用した社員インタビュー生成ツールを提供することで、この制作期間を数日に短縮。JCOMや横浜銀行などの企業では、リモート×スキマ時間で効率的にロールモデル記事を量産し、継続的な発信を実現しています。横浜銀行では、記事公開までの期間を最大2ヶ月短縮し、発信頻度の向上により、エントリーシート提出数が21%増加するという成果も出ています。

重要なのは、AIを使いながらも、一人ひとりのリアルな言葉、本質的な価値観、キャリアの文脈をしっかりと捉えることです。効率化は手段であり、目的は「学生が共感できるロールモデルとの出会い」を創出することにあります。

対話の「前」「最中」「後」すべてで活用できるコンテンツ基盤
制作したロールモデル記事は、採用プロセス全体で活用できます。

  • 認知段階:SNSや採用サイトで多様な社員を紹介し、幅広い学生との出会いの入口を創出
  • 興味・応募段階:ロールモデル診断などで、学生一人ひとりに合った社員を提案
  • 選考段階:説明会では学生の関心に合わせて関連記事を紹介、面接では配属先の先輩社員の記事を共有
  • 内定段階:近い年次の先輩記事を届けることで不安を解消

このように、一貫したコンテンツ基盤があることで、学生は採用プロセス全体を通じて「会う前に知る」「会った後に深める」という体験を得ることができます。そして、その一つひとつの接点が、企業への理解と共感を深めていくのです。

 

対話の時代、その先にあるもの

ロート製薬の「Entry Meet採用」は、採用の原点回帰でありながら、同時に未来への提案です。

AI技術がさらに進化し、面接すらAIが代行できる時代が来るかもしれません。しかし、だからこそ人と人が直接向き合う時間の価値は、むしろ高まっていくのではないでしょうか。

対話がもたらすのは、辞退率改善や採用効率の向上だけではありません。企業文化の変革であり、働く人一人ひとりの幸福度の向上であり、そして社会全体のキャリア観の進化です。

「一人のキャリアが、誰かの人生を動かす」

これは私たちtalentbookが掲げる信念ですが、採用3.0時代は、この連鎖が企業の枠を超えて広がっていく時代でもあります。ある企業で働く人のキャリアストーリーが、就職活動中の学生の背中を押す。その学生がまた入社後に成長し、次の誰かのロールモデルになる。そうした循環が生まれることで、社会全体がより良い方向に進んでいく。

ロート製薬の決断は、その第一歩です。そして今、すべての企業が「対話の設計」に向き合う時が来ています。


こちらの記事もチェック