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2025.10.16

サイバーエージェント流「ロールモデル」を活用した新卒採用戦略

- サイバーエージェント曽山哲人氏 × talentbook大堀航 対談 -

事業内容 

ITサービス事業、社会インフラ事業

従業員数

単独22,036名(2023年3月末現在)連結118,527名(2023年3月末現在)

新卒採用市場は年々厳しさを増しています。求人倍率は上昇を続け、内定辞退率も過去最高水準に達する企業が続出する中、採用担当者は「選ばれる企業」になるための新たな打ち手を模索しています。

こうした状況下で、注目を集めているのが「ロールモデル」を軸にした採用戦略です。学生が企業を選ぶ最終的な決め手は、業界や職種以上に「人」であることが多くある一方で、多くの企業はロールモデルの重要性を理解しながらも、効果的な活用方法を見出せていないのが現状です。

本対談では、25年以上にわたり新卒採用の最前線に立ち続け、数々の優秀な人材を輩出してきたサイバーエージェントの常務執行役員CHO 曽山哲人氏を迎えました。売り手市場が続く中でも高い採用力を維持する同社の実践知と、新卒採用におけるロールモデル活用の本質に迫ります。

 

学生が求めているのは等身大の「ロールモデル」

大堀:まずは、新卒採用における「ロールモデル」の定義について、曽山さんのお考えをお聞かせいただけますか。

曽山:学生が就活で会社を決める時、大きくは業界と職種と人で決めるんです。その中でも「この人で決めました」という言葉がロールモデルですね。「ロールモデルを探しています」「私に合うロールモデルがいたから」のように、学生の方はすごく使う言葉で、とても重要なポイントですが、企業側は意外に気づいていないことが多いです。

大堀:我々も学生を対象に定期的に調査をしていますが、まさにそうですね。実際に就職を決めた26卒の新卒の方々に向けた調査によると、約66%の学生が「ロールモデルの有無が意思決定に影響を与える」と回答しています。一方で、企業側の情報開示はまだまだ進んでいない。企業と学生でロールモデルへの認識ギャップがあると感じますね。

曽山:そうですね。企業の経営陣からは「ロールモデル」という言葉はあまり出ませんが、若手社員から「私のロールモデルはこういう先輩です」という形で聞くことが多いです。もちろん「ロールモデルはいません」という時もある。それを企業側が理解して情報を開示できると社員と学生がマッチングしやすくなって、採用にも定着にもプラスに働きます。

大堀:確かに「ロールモデル」という言葉は多用されるものの、曖昧になっている印象があります。我々のプラットフォームでも、企業側は「優秀な社員」を前面に出したがるんですが、学生が求めているのはもっと等身大の先輩だったりしますね。

「10人以上」の先輩との出会いが内定承諾を決める

 

曽山:やはり入社前に複数人の先輩と会えば会うほど、その会社のイメージがわかるし、共感できる人が増えれば増えるほど安心感は高まります。サイバーエージェントでは、最終面接で「何人ぐらいの社員と会った?」と聞くと、10人以上会ったと答える学生が結構多いんですよね。

ちょっとだけ話した人、しっかり会って話した人など「会った」の深さは当然バラバラだと思いますが、学生が10人ぐらい話したという感覚を持っていると「会社のことを結構見てくれてるから、安心だな」と感じます。

大堀:10人は結構多いですね。一般的な企業だと、せいぜい面接官の数名程度だと思うんですが、どのように設計されているんですか?

 

  

曽山:サイバーエージェントの場合は、例えば選考の過程にグループワークがあったり、インターンシップでは社員の近くで仕事をする場合もあります。面接も5、6回ほどあって、さまざまな社員に会う中で「この人とは合いそうだな」と感じることが増えてくるんです。

また採用活動において効果が大きいのはホームページでの発信ですね。基本的には社員がやっている仕事をベースにしたインタビュー記事を公開しています。まさにtalentbookがやっていることですよね。単に人を紹介するだけじゃなくて、その人がやってる業務は何なのか、つまり職種にしっかりフォーカスを当てる。あとは働いている業界についても掘り下げる。人を起点に職種と業界が見えてくると発信が立体的になります。

大堀:なるほど。我々もコンテンツ制作では、その人の仕事の魅力を前面に出すことを心がけています。単なる人物紹介ではなく、仕事を通じた社会貢献や成長ストーリーが重要ですね。記事のタイトルも工夫されているんですか?

曽山:サイバーエージェントの場合、紹介された社員についても書きますが、記事のタイトルはどちらかというと、携わっている業務や、社会に対するインパクトなどをメインに出しているような感じですね。

大堀:それは学生にとっても分かりやすくて良いですね。我々のプラットフォームでも、職種名よりも「どんな価値を社会に提供しているか」を前面に出したコンテンツの方が、学生の反応が良いです。

 

優秀な新人ほど陥りやすい「偽善的責任感」の罠

 

大堀:入社後の成長において、ロールモデルの有無はどのような影響を与えますか?

曽山:ロールモデルという言葉を使っているかはさておき、実際にメンター的に相談ができる先輩がいるかどうかは非常に大きなポイントだと思っています。基本的に上司と部下だけの関係性になると、業務がうまくいかないときにきつい状況になるからです。

個人的におすすめしているのは3人ぐらいメンターがいる状態です。3人くらい直接の上司じゃない人に相談ができると、そのメンターが結果的には親近感が湧くロールモデルになる可能性があります。

大堀:3人というのは具体的でいいですね。積極的に先輩に相談する社員の方が結果的に成果を出しやすい印象があります。一方で、一人で頑張ろうとする若手も多いですよね。

曽山:そうなんです。基本的に成長する人と成長しない人の差って、選択肢の差なんですよね。うまく成長している人、すごく成長する人は、自分のやり方プラス、イケてる先輩のやり方をいくつも盗み、その中で一番結果が出そうなものをやるんです。

真面目に自分一人でやろうとしてしまうことを僕は「偽善的責任感」と言っています。人に聞いてはいけない、自分でやらなければという沼にハマっている人は完璧を求めすぎてしまっているんですよ。。

大堀:「偽善的責任感」、すごくわかります。確かに優秀な新人ほど、一人で解決しようとする傾向があるのかもしれません。

曽山:その差はすごく大きいですね。ロールモデルの差が選択肢の差になる。それは自分のメンタルとか不調を減らすという点と、業績を上げるという両方の選択肢が増やせるという点で極めて重要だと思います。ロールモデルがいると、その人を真似したいという意欲が高くなるので、学習速度も非常に高いです。 

採用担当者が絶対に聞き続けるべき「生声」

 

大堀:新卒の採用活動において、採用担当の方が一番意識すべきポイントは何でしょうか?

曽山:とにかく学生の「生声」ですよ。ある年にうまくいった採用のやり方だけを続けてしまうとダメだということです。

学生の生声は必ず変化していて、毎年、社会環境も学生の状況も確実に変わっている。まず採用マーケットがどんどん厳しくなっているのに、これまでうまくいった手法を続ける時点でリスクがありますし、学生が変わっているのにその声に合わせていないのも大きな問題です。

大堀:確かに我々も感じています。特にコロナ禍以降、学生の価値観や就活の進め方が大きく変わっていますよね。リモート面接が当たり前になったり、企業選びの軸も変化している印象があります。

 

 

曽山:そうですね。僕が新卒採用を始めてから25年になりますが、経済環境もキャリアに対する考え方も本当に変わっています。25年前は学生が起業してベンチャーを立ち上げるということは、ほぼなかった。今では結構多いですし、学生の企業に対する見方も変わっている。

学生の声を聞いていけば、何が変わっているのか、なぜ自社に決めてくれたのか、といった傾向が見えてきます。それは求職者としての学生も、内定を決めてくれた学生の声も同じです。どの会社も内定承諾率が悪化する傾向にあるので、内定している学生の生声も拾わないといけない。

大堀:生声を戦略に反映させる組織体制も重要ですよね。現場の採用担当者は学生の声を聞いているけれど、それが経営層や採用戦略に反映されないケースも多そうです。

曽山:まさにそこです。担当者は生声を聞いている、でもそれが幹部に伝わっていて、人事戦略に入っているかというと、少し疑問に感じていて、それが一番意識しないといけない課題だと思っています。

 

AIが実現するフェアなマッチング──ロールモデル診断の可能性

 

大堀:10月にリリースした「ロールモデル診断」機能について、ご期待をお聞かせください。

曽山:ロールモデル診断が素晴らしいと思うのは、選択肢をもって広い視野で学生とマッチする社員が選べること。しかもAIという技術によって、フェアに判断ができるというのは、非常に魅力的だなと思いました。

人事側が学生に診断してもらって、例えば3人候補の社員が提案されたら、人事にとっては「確かにこの人のことは自分の頭になかったな」と感じることもあると思います。人事側が気づかない良い出会いというのを見つけてくれるのは素晴らしいです。

大堀:まさにそこを解決したくて開発しました。人事の方って、どうしても自分の知っている範囲や関係性の良い社員に偏りがちですよね。

また学生側のメリットも大きいと考えています。従来だと、どの先輩と話せるかは企業側の判断に委ねられていましたが、診断によって自分に合う可能性の高い先輩が可視化される安心感があります。

曽山:そうですね。学生からすると、診断した後におすすめの社員が提示されるわけなので、「あ、自分にはこの会社にこれだけ合う人がいるんだ」と思えるのは、安心感につながると思います。

大堀:ありがとうございます。今日の対談を通じて改めて感じたのは、ロールモデルは単なる採用手法ではなく、学生と企業の本質的なマッチングを実現するための核心だということです。

曽山さんがおっしゃった「ロールモデルの差は選択肢の差」という言葉は、採用だけでなく入社後の成長にも直結します。talentbookとしても、このロールモデル診断機能を通じて、企業の採用担当者が気づいていなかった「良い出会い」を生み出し、学生にとっても企業にとっても、本当に納得できるマッチングを実現していきたいと思います。

 

▼曽山さんへのインタビューの様子は動画でも公開中!

曽山哲人(そやまてつひと)氏
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO。新卒採用から人材育成まで幅広く人事領域を統括。25年以上の採用経験を持つ。

大堀 航(おおほり こう)
talentbook株式会社 共同代表取締役。「一人のキャリアが、誰かの人生を動かす。」を信念に、社員のロールモデルを発信する採用プラットフォーム「talentbook」を運営。

https://www.talent-book.jp/talentbook/stories/58604


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