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「再現性」を持って才能と情熱を解き放つ。1on1を通じてヤフーが体現するエンプロイーリレーションズーーヤフー・吉澤幸太さん

INDEX

近年、注目が集まっている「1on1ミーティング」。

“個”と向き合う時間を体系化して作り出すことは、従業員との良好な関係構築=エンプロイーリレーションズとして、重要なアプローチのひとつです。

ヤフー株式会社では、2012年から1on1を導入し、組織の活性化を行っています。その目的とは、個人の「才能と情熱を解き放つ」ことを通して、組織を強くしていくこと。ここまでの大企業が、1on1というある種クローズドな関係構築を「制度」として定着させていったプロセスとは一体どのようなものだったのでしょうか。

1on1の導入に携わり、現在はピープル・デベロップメント統括本部にて組織人事として、採用、組織編成、評価、そして人材開発から労務まで幅広く担当されている吉澤幸太さんに、1on1を通した企業と従業員の関係構築の秘訣と考え方について伺いました。


Profile
吉澤幸太さん Kota Yoshizawa

ヤフー株式会社 ピープル・デベロップメント統括本部カンパニーPD本部

サービス企画職として2005年に入社し、Yahoo!ニュースやYahoo!ブログといったメディアサービスのプロデューサーとして提携事業やコンテンツ調達の仕事に携わる。その後、2012年の経営刷新の中で人事部門に異動し、組織・人材開発を中心とした社内研修の開発と運営に携わる。現在は組織人事としてコーポレート部門の人事業務全般を担当しながら、一方で1on1ミーティングの普及推進を通じて得られた知見を社外でも生かしてもらうべく、企業の垣根を越えたビジネスシーン活性化のサポート活動も行っている。


組織をくつがえすほどの大改革のなかで、ひっそりと始まった1on1

——まずは、ヤフー株式会社で1on1が導入された経緯についてお聞かせください。

吉澤さん(以下、敬称略):2012年5月、前社長就任のタイミングで人材戦略のひとつとして始まったのがきっかけです。当時、我々のビジネスは過渡期を迎えていました。爆発的にスマートフォンが台頭し始め、それまでPCの領域では確固たる地位を築いていたヤフーにとっても、「大きく変化していかなければ勝てなくなるかもしれない」という危機感があったんです。

——その打開策として、1on1を実施された?

吉澤:と言いますか、その当時は執行役員をはじめ、上層部を総入れ替えするというレベルでの大改革が起こったわけです。それほどの危機意識の中ですから、鳴り物入りで「1on1を始めます!」みたいな次元の話じゃないんですよね。正直に言えば、当時のヤフーにとって1on1の導入自体は、そこまで大きな改革ではなかった。「1on1」という呼び名さえ、最初は存在感が薄かったと記憶しています。

——確かに、そのような状況の中では、1on1は取り立てて派手な取り組みとは言えないかもしれませんね。

吉澤:「これから週に一度、1on1をやってください」というのは、そこだけ切り取るとなかなかのインパクトかもしれませんが、それどころではないインパクトがもっと他にたくさんあったので……。そういう状況の中で、例えば「研修をやるから参加してください」という指示が出れば、社員は何があっても参加せざるを得ない。だって、何が通告されるかわからない状況ですから、「聞き漏らしたらまずい」っていう意識があったのでしょう。

——つまり、新体制のなかで始まる新しい取り組みに対しては、「とりあえず参加しておかないとまずいぞ!」っていう、それこそ危機意識みたいなものがあった、と。

吉澤:そうですね。とはいえ、やっぱり最初は「えっ、毎週30分やるの?」っていう驚きや反発はたくさん出てきましたよ。ただ、ビジネスの方針を大きく変えて、「これからヤフーは人財開発企業としてやっていこう」と大きく舵を切り始める中で、「果たして我々自身、社員同士のコミュニケーションはきちんと取れているのか?」という問題意識が浮上したんです。

——具体的にはどういうシーンで、コミュニケーションへの課題が見えてきたのでしょうか。

吉澤:我々の仕事環境下では、さまざまなITツールがコミュニケーション手段として活用されてきました。もちろん自分たちでも開発していますから、それを試すという文化がある。ただでさえそういう環境ですから、どうしてもちょっとしたコミュニケーションに関しては、チャットツールでやりとりすることが多くなりがちです。それが行き過ぎて常態化してしまうと、背中合わせの距離でもチャットになってしまう…。

——昨今のオフィスではよく見られる風景でもありますよね。

吉澤:そのうちに、「事実情報は伝わっているとしても、果たして感情を含めて伝わっているんだっけ」と。特に、「上司と部下とでコミュニケーションが希薄なのではないか」という問題意識が芽生えはじめたわけです。そこで、一旦「縦のラインをきちんと太くしましょう」ということになったんですね。

現場にはいろいろと無理をさせてしまうかもしれないけれど、「もうやることに決めたんだ」と、半ば強引に進めました。単純にコミュニケーションを円滑にするという目的ではなく、「これは、部下を育成するための場づくりでもあるんだ」と説明しましたね。

1on1が浸透しないというカルチャーは、組織として矛盾している

——なるほど。そんな中で始まった1on1ですが、まだ国内で目立ったモデルケースも少なかったですよね。どんな順序で進めていったのですか?

吉澤:私自身も全く知識がなかったんです。あまりに丸腰で始めるのもきついということで、聞くスキルを植えつけるためのコーチング研修を導入することになりました。700人程の管理職を30人ずつセミナールームに集め、朝から晩までコーチングを行うという状態でしたね。それを1日受けたら、もう翌月からは1on1をやってくださいっていう、乱暴といえば乱暴なやり方だったかもしれません。

——半ば強引に始まった1on1がきちんと機能しているかどうかは、どのように評価したのでしょうか。

吉澤:社内のアセスメントです。部下に対して「上司との1on1はどんな具合ですか?」ということを3カ月に一度、アンケートを取ったんです。それを点数化して上司に部下コメントとともにフィードバックする。これが「1on1チェック」です。

上司と部下の感覚って、往々にしてずれているんですよね。上司は一対一で話したつもりでも、部下にとってはついでの立ち話として一方的にしゃべられただけ、みたいなことも起こりうるので。そのフィードバックを元に、足りないところを補うための研修をやり、またアセスメントを行う。この繰り返しでした。

——1on1への評価が、実際に仕事としての評価につながることも?

吉澤:人事としては一切つなげる意図はありませんでしたが、現場では必然的にマネジメントをする上での一つの評価基準にはなっていたと思います。先の組織編成を考える中で、うまく1on1ができないことが遠因となって徐々に別の役割に移っていく、ということは十分にありえました。

——現在では、外部に委託していたコーチング研修は終了しているそうですね。「ヤフー式1on1」として、独自の手法を確立させることができた勝因はなんだったのでしょうか

吉澤:本を出させていただいたこともあって、いろいろな企業の方から聞かれます。同時に、「ヤフーさんだから成功させられたんでしょう」とも言われます。でも、私からすれば「ヤフーってそれほど他と違う会社かな……?」という感じです。もともと持っているカルチャーって、特に影響しないと思うんですよ。

——どういうことでしょうか。

吉澤:「上司と部下が向き合う時間をちゃんと取りましょう」って、そんなに突飛なことではないですよね? それに対して「カルチャーが合わない」と言ってしまうと、「上司と部下が話すということが合わない会社って、どうなの?」ということになってしまう。純粋に、「相手がどう思っているのかを丁寧に擦り合わせる時間を取ろうよ」ということですからね。あと、これもよく聞かれるんですけど、「1on1を続けたことでどんな成果が得られましたか?」という質問。

——確かに、ある意味一番気になるところではありますね。

吉澤:でもね、「1on1をやったからこの案件を受注できた」みたいな、直接的な結果には結びつかないですよね。実は1on1を始めた頃から、離職率がすごく落ちているんです。でも、それが「1on1のおかげです」ということは、とても言い切れないんです。というのも、先ほどお話ししたように、1on1の導入と同時にビジネス自体や会社の方針・体制が大きく形を変えているので、一概に1on1の成果かどうかは測ることができない。

——あえてひとつ、挙げるとするならばどうでしょうか。

吉澤:成果、と言いますか、ここ2年ほどもう1on1チェックはやっていないんですが、それでもほとんどの社員が1on1をやめた様子がないんですよ。

——会社のチェック制度がなくなっても、自主的に続けているということでしょうか。

吉澤:チェック制度がなくなったので、はっきりとしたことは言えないんですが。アセスメントを終了するタイミングで、社員にアンケートをとったんです。「1on1があなたの仕事に役立っていますか、いませんか」というシンプルな質問です。すると、9割が「役に立っている」と回答したんです。それを見て、1on1を通して個々人が、仕事を進めていくための強力なツールを手にしたんだな、ということは実感しましたね。それが、一つの成果と言えるのではないでしょうか。

部下の才能を解き放つために必要なのは、「再現性」である

——お話しを聞いていると、これほど企業にとっても、個人にとっても必要な制度なのに、なぜ日本企業ではあまり根付いていないのだろう、と疑問に感じました。

吉澤:知識が不足しているからではないでしょうか。

——知識、ですか。

吉澤:「誰かに話ができる」という環境が、その人の力を発揮するためにものすごく寄与するんだ、という知識が薄いんだと思います。誰の頭の中にも、うごめいているアイディアというものがあると思います。そのアイディアを、きちんと企画に落とし込めるところまで聞いてくれる相手がいることで、どれほど彼らのパフォーマンス発揮に寄与するのか。それを知らない。

——御社が謳っておられる、「才能と情熱を解き放つ」ということにも繋がるのでしょうか。

吉澤:まさにその部分ですね。1on1は、部下の才能と情熱を解き放つために役立つ方法のひとつです。それに気づかなかった頃は、私も偶然性に頼っていたところがあったんです。「彼、随分と成果を出していてすごいね。何があったの?」となった時に、「たまたま上長と相性が良かったんじゃない?」とか「運が良かったんだね」ということで納得してしまう。ただ、それだと再現性がないわけです。

——確かにそうですね。

吉澤:しかし、ある程度戦略的に成果を上げていかなくてはいけないとなった時に、再現性のある何らかの理屈を編み出していく必要があった。その理屈を当てはめながら、意図的にそういった状態を再現していくことが必要だったんです。たまに、部下と飲みに行った時なんかに、偶発的に「才能を解き放つ」みたいなことが起こるんですよね。そうすると、それが変な成功体験になってしまったりする。でもそれって、実は飲みに行かなくてもできるんです。それが1on1という仕掛けなんです。

——その仕掛けの力を享受して、「うまくいった」と実感する人が循環していくと、どんどんいい方向に繋がっていく感じがしますね。ヤフーとしては、1on1を通して「才能を解き放つ」ことで、この先どんな未来を目指しているのでしょうか。

吉澤:1on1をなんのためにやっているかといえば「人財育成」と答えるんですが、人が育つというのは別に最終ゴールではないですよね。結果業績が上がるというところにつながらなければ意味がない。事業の今後、という話をするならば、パソコンからスマートフォンへ戦場が移りつつあった2012年体制発足時、とにかく我々は競合と戦いながら、「スマホ大陸」に上陸しなくてはならなくなったんです。

——スマホ大陸、ですか。

吉澤:もちろんメタファーですが、PC時代はいわば大きな戦艦で攻めていたのに対し、スマホ大陸を目指す時代になって小さなボートに乗り換えたんです。隊列を組んで戦った時代から、ゲリラ戦に移ったと言えるかもしれません。権限委譲されたボートたちが、各々生き残りをかけてスマホ大陸を目指すイメージです。そして今、なんとか大陸にたどり着いた者たちが、もう一度しっかりつながり合って新しい未来を創ろうと再結成しようとしているところです。一つの大きな力として団結する必要がある、そういうフェーズになったんですね。じゃあその中で、1on1はどうなっていくんだろうと。

——これまで築き上げてきた1on1のシステムが、根底から覆る可能性もあるということでしょうか。

吉澤:コミュニケーションがどう変わっていくかによると思っています。これまでは、個別に縦に線が結ばれていれば良かったけれど、これからは横にもつながっていかなくてはいかない。そのためにはどんなコミュニケーションを取っていくべきなのだろう、と日々考えています。もちろん1on1は引き続き肝になっていくとは思いますが、少しずつ今の戦略に適した形に姿を変えていくんだろうな、とは想像していますね。

1on1はあくまでも手段のひとつ。才能と情熱を解き放つ上司と部下の関係構築

今回の取材の目的は、現在多くの企業が関心を寄せる1on1を先駆けて導入したヤフーという企業が、どのような特殊なカルチャーを持っているかを探ってみたいというものでした。

しかし吉澤さんのお話からわかったことは、1on1導入自体はヤフーにとって、決して大きな制度改革というわけではなかったこと。そして、「ヤフーだからこそ成功できた」というイメージは、我々の思い込みにすぎなかったということでした。

「『上司と部下で話すとどんな成果がありますか?』って、質問自体がおかしくないですか。もう絶対にやったほうがいいじゃないですか。それって果たして、一つひとつの成果を問うような行為なんでしょうか」

吉澤さんはそんな思いを吐露してくださいました。

ヤフーにとって従業員との関係構築=エンプロイーリレーションズとは、もはや「当たり前のカルチャー」になっているのだな、と今回の取材を通し改めて実感することとなりました。