リーダー論にハウツーはない。 スポーツビジネスの観点から見る「強固なチームづくり」とは?
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チームスポーツの世界には必ず勝敗が存在します。そして、勝敗を左右する指標となるのが、時として「チームづくり」と言えるのではないでしょうか。
日々のビジネスシーンでも同様に、チームづくりはとても重要です。「仕事を円滑に進めるためのチーム」「より高いパフォーマンスを出すためのチーム」など、チームづくりの成功が、プロジェクトの成功に直結すると言っても過言ではありません。
今回は、2019年7月5日(金)渋谷ヒカリエで開催された「PxTX 日本最大級のチームリーダーカンファレンス」の中から、「Sports × Team」をテーマに行われたトークセッションを紹介します。
スポーツ業界の第一線で活躍する登壇者による、「勝つチームの特徴」や「チームづくりへのこだわり」について、ディスカッションが繰り広げられました。そこから紐解かれる「ビジネスにおけるチームづくりの秘訣」とは?
Profile
岡田 武史さん( Okada Takeshi )
株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長
1956年大阪府生まれ。ユース日本代表やユニバシアード日本代表などの経験を経て、日本サッカーリーグで幾度と優勝を勝ち取る。現役引退後は、指導者の立場として複数のチームでコーチを務める。 コンサドーレ札幌や、横浜F・マリノスなどで優勝を経験し、2004年にはJリーグ史上初の3ステージ連続優勝を果たす。2007年には日本代表の監督に就任。2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会 にてベスト16の成績を残す。現在は株式会社今治.夢スポーツの代表取締役を務める。 ほかに、早稲田大学総長室参与 など。
中竹 竜二さん ( Nakatake Ryuji )
日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
株式会社チームボックス 代表取締役/1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。 2010年、日本ラグビーフットボール協会 「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。 2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。 2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。 ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへカリスマリーダー不要の組織づくりとは』( CCCメディアハウス)など多数。
島田 慎二さん( Shimada Shinji )
株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長
1970年新潟県生まれ。日本大学卒業後、1992年株式会社マップインターナショナル(現・株式会社エイチアイエス)入社。 1995年に退職後、法人向け海外旅行を扱う株式会社ウエストシップを設立し、2001年に同社取締役を退任。 同年、海外出張専門の旅行を扱う株式会社ハルインターナショナルを設立し、2010年に同社売却。 同年にコンサルティング事業を展開する株式会社リカオンを設立。2012年より現職。 株式会社ジェッツインターナショナル代表取締役、特定非営利活動法人ドリームヴィレッジ理事長、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事、2017年9月より、Bリーグ副理事長(バイスチェアマン)就任。 2018年3月15日をもって同職退任。 2018年3月19日、一般社団法人日本トップリーグ連携機構 理事就任
西村 卓朗さん( Nishimura Takuro )
株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホック強化部長
1977年東京生まれ。 現役中は浦和レッズ、大宮アルディージャ、コンサドーレ札幌、アメリカ2部チームでプレー。 2009年にはFリーグの湘南ベルマーレも経験。2004年(大宮)、2011年(札幌)では2度のJ1昇格に貢献。 引退後は浦和レッズハートフルクラブで普及部コーチ、2013年~2015年は地域リーグのVONDS市原では監督兼GMを歴任。 2016年よりJ2の水戸ホーリーホックで強化部長を務めている。
勝つチームに必要なこと、混乱期の乗り越え方とは
西村 卓朗さん(以下、西村):スポーツビジネスの世界においては、「強いチーム」とはどんなチームなのかと考える場面が多々あります。同じ「勝ち」でも、短期的な「勝ち」と長期的な「勝ち」の違いもあるかと思います。まずは、ワールドカップ(短期戦)とクラブチーム(長期戦)の監督をご経験されている岡田さんに、それぞれの観点での「勝ち」についてお伺いしたいです。
岡田 武史さん(以下、岡田):僕は強烈なリーダーシップでチームを引っ張っていくタイプで、勝つことが何よりも大事だからと「失点を減らすこと」を第一に選手に指示を出していたんです。するとある日から、選手は自ら考えることなく僕が出した指示通りの動きをするようになりました。そこでふと、思ったんです。「僕は、選手を“育てる”ことができているのだろうか?」と。短期的に勝つだけなら確固たる指示を出せばいいのかもしれませんが、長期的に勝つための方法としては不適切だと気づいたんです。長期的な目線を持つならば、やはり理念や哲学のようなものが必要なんですよ。
西村:なるほど。中竹さん、いかがですか。
中竹 竜二さん(以下、中竹):私は、以前早稲田大学のラグビー部の監督を務めていたのですが、その前までほとんど指導経験がありませんでした。そのため、岡田さんのように強いリーダーシップでチームを引っ張ることはできませんでした。練習の仕方も教えられないし、試合の指示も出せない。そこで取り入れたものが「フォロワーシップ」という考え方です。選手が自ら“考える”環境だけを与えて、危機感を持ってもらうようにしていました。
西村:いろいろなチームのつくり方があるようですが、クラブ経営をされている島田さんが考える「強いチーム」とはどのようなものでしょうか。
島田 慎二さん(以下、島田):私にとってのチームづくりといえば、クラブ経営における、ビジネスオペレーションが浮かぶので、今日はその話をしますね。もともと千葉ジェッツは、どうしようもない程潰れそうな会社だったんです。「スポーツで儲かるはずがない」とか、「マイナースポーツでスポンサーについてもらえるわけがない」なんて言われてきて。ところが、経営を始めて7年ほどが経過して、リーグ1位に上り詰めることができたときに、今度は、「1位を守り続ける」チーム経営の難しさに直面しました。現在は、勝ち続けるためのメンタリティを今なお模索している段階です。
西村:チームづくりに携わっていると、どこかで混乱期に突入することがあるかと思います。そんなとき、みなさんはどのようにチームをマネジメントしていましたか?
岡田:僕は混乱期ばかり経験していますよ(笑)。会社を始めてから5年が経ちますが、時期によって組織の在り方やリーダーシップのとり方を変えていかなければいけないと感じています。その行き着く先は「生物的組織」かなと思うんです。青山学院大学教授で生物学者の福岡伸一さんの言葉なんですが「古い細胞が死んで新しい細胞が入ってきても、脳は何も命令していない」そうなんです。つまり、細胞同士が折り合いを成して形をつくっているらしいんですよ。組織に例えると、細胞が選手で脳が監督。つまり、監督がいないと生物は成り立たないけれど、選手同士が折り合いを成してできる生物学的組織が良いチームということではないかな、と。
中竹:私のメインの仕事はコーチのコーチになるのですが、注目する概念として「シリアルウィニングコーチ」というものがあるんです。「連続的に勝ち続けるコーチ」という意味なのですが、そのためにすごく大切な考え方があって。それは、「コントロールできないことを命令しない」こと。「勝て!」と命令するのは、コントロールできないという意味で選手に負担をかけるだけなのですが、「ベストを尽くせ」と伝えると、選手は本領を発揮できるという研究結果があるんですよね。
真の意味でメンバーと「向き合えているか」を考える
西村:今日の会場にいらっしゃる方には、実際マネジメントに携わっている層もいらっしゃると思うのですが、マネジメントって「人と向き合う」という要素が多分にありますよね。人と向き合う上で大切な要素とはどのようなことなのでしょう。
島田:リーダーになる上で大事なことは、「死ぬほどの気持ちでやっている」覚悟だと思うんですよね。どんなシチュエーションでも、「“死ぬほど”部下に向き合っていますか?」という問いに対して、自信を持って「イエス」と言えるかどうか。ある種、究極の覚悟が必要だと思います。
岡田:サッカーの場合、プロチームと代表チームとで向き合い方が変わります。代表チームは、一度ダメなら二度目がないので、ある程度突き放したスタンスが必要です。だから、志の高い目標を共有して、選手にはそれについてきてもらうようにしていました。「お前は代表チームにいらない」と強い言葉もかけることだってあります。本当はいい人でいたいけれど、23人しか代表には選べないし、11人しかピッチには送り出せない。それが代表監督の覚悟です。反対に、プロチームでは比較的しっかりとコミュニケーションを取るようにしています。ただ、お膳立てはせず、あくまで「考えて実行してもらう」スタンスを取っていますね。一緒に乗り越え経験って、すごく大きな原動力になるじゃないですか。その経験をつくれる環境を用意できるようにしています。
中竹:私の場合は、監督就任1年目が転機でした。大学日本一を決める決勝戦で負けたんです。自責の念に苛まれて、これからの選手との関係性について悩みました。結果として、選手だけでなくスタッフを含めた全部員との1on1の時間をすごく大切にするようにしました。どの部員もチーム内でパーソナリティを発揮できるように、私たちが期待していることや要望を伝えながら話すようにしたんです。すると次第に、それぞれが自ら考え、行動するように変化していきましたね。
西村:島田さんはいかがですか?
島田:創業5年目に入った頃、チームに投資できるようになったタイミングで、代表経験のある監督やコーチを呼ぶようになりました。当時は、それなりに実績のある選手や監督を集めれば勝てるようになる、そう考えていたのですが、全然で。「費用対効果の悪いチーム」と言われていたくらいでした(笑)。ある時、チームに理念や存在意義、哲学がなかったことに気づいたんです。それ以来、監督も選手も、我々の哲学に共鳴してくれる人材を集めることができなければ、チームとしての成長はないと感じるようになりました。「会社の思い」と「チームの理念」、そしてヘッドコーチの考え方と必要な選手。これらを一気通貫させることで、チームは同じ方向を向いて走れるようになるのだと今は実感しています。
岡田:僕はサッカーチームの監督から経営者になったタイプだから、チームのフィロソフィーについて尋ねられたときに「サッカーチームにフィロソフィーがいるの?」と驚いてしまって。そこから真剣に考えるようになりましたね。現在は不勉強だったという反省を生かして会社を経営しているので、会社が社員に対してプロミスを掲げ、ミッションやステートメントもしっかり定めているんです。
中竹:私が今一番力を入れているのは、組織における「カルチャー」の構築です。ウィニングカルチャーのある組織には、文化が必ずあります。それを体現するのが、「アティチュード」です。フィロソフィーに基づいた“行動”や“仕草”があるのかどうかが、チームづくりにはすごく重要なんです。また、リーダーがチームフィロソフィーと異なる行動をとると絶対に浸透しません。
これから目指すべきリーダー像とは?
西村:最後に伺います。優れたリーダーに求められる振る舞いとはどのようなものなのでしょう。また、優れたリーダーを育てるためにできることはあるのでしょうか。
岡田:ハウツーはないような気がします。僕自身、もともとは強烈に引っ張るタイプのリーダーだったわけですが、最終的には、一人ひとりと面談して向き合っていくことが大切だと気がつくことになりました。ただ、リーダーシップの取り方は、今日の登壇者4人を例にあげてもきっと違う。企業理念に合わせて会社をどう育てていくのか、そのためにどう社員と向き合うのかと日頃から考えてはいますが、具体的な方法論に落とし込めるものではないのかもしれません。
島田:私もグイグイ引っ張るタイプのリーダーでしたが、それはあくまで会社を守るために選んだ手段です。最近は権限委譲を進めています。元々は1on1をアルバイトの方々も含め全員としていました。週に1度は、丸一日1on1をしていたんです。ただ、そうすると私を見て仕事してしまう。ある程度引っ張る時期は必要ですが、どこかのタイミングでは“個”それぞれが結果を出してもらえるように改善、適切に権限委譲をして組織を育てていくのが良いのではないかなと思います。
中竹:私は、組織の中にフォロワーシップが根づけば皆「誰でもリーダーになれる」と考えていますし、それを実現するチームをつくっています。リーダーというと、「リスペクトされる存在」を目指してしまいがちなんですが、本来は「みんなで頑張ろう」という雰囲気をつくれることのほうが大切です。なんなら選手自身に「自分が引っ張らなきゃ」と思わせることができたら、それが一番良い状態だと思っています。
君臨することがリーダーではない。「向き合う力」こそが求められている
「リーダー論」というと、つい「人を巻き込み引っ張る力」とどこかで考えてしまいがちです。ところが、本セッションを通して見えてきたのは、そればかりが正解ではないということでした。
グイグイ引っ張るリーダーも、チームが自走するための体制を整える裏方的なリーダーも、どちらも必要な存在であり、チームのフェーズによって使い分けるべきーー。4人の指導者たちの言葉からは、そんな答えが導き出されたような気がします。
「良いリーダーとはなんだろう?」その答えは、在り方そのものではなく、ひとりの人間としてのスタンスに出るもの。どんな状況においても覚悟を持って、ある時は死ぬ気で、相手と向き合えるかどうか。どんな風に時代が変わっても、リーダーに必要な資質はもしかすると不変なのかもしれません。 (編集部)