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12年にわたり、社内向けブログを続けた理由──NTTコムウェア 海野忍さん

INDEX

Public Relationsの実践は、一朝一夕では成し遂げられません。ときに10年、20年と積み重ねた信頼関係が、大きな影響力を持つことも。最新の事例や現在進行形の姿から学べることも数あれど、功績を築き上げてきた「大先輩」の知見に触れることも、PRパーソンにとって新たな道を確かな一手として光をくれるはずです。

今回は、システムインテグレーターのNTTコムウェアで代表取締役社長などを歴任し、現在は同社の相談役を務める海野忍さんを訪ねました。海野さんは要職を歴任しながら12年にわたって社内向けブログを書き続け、その300本にも及ぶ記事を基にした著書『「働きがい」の伝え方』を出版されています。まさに「インターナルコミュニケーション(社内広報)」の大切さを理解した経営者のひとりでもあります。

ブログに込めた想い、社員との関係構築、コミュニケーションの奥義に至るまで。これからの働き方や次なるPRパーソンたちに向けたヒントを、大先輩に教わります。

 


Profile
海野 忍さん Shinobu Umino

NTTコムウェア相談役

1952年生まれ。1975年東京大学工学部電子工学科を卒業後、日本電信電話公社(現在のNTT)に入社。データ通信事業本部(現NTTデータ)にて国立病院を対象としたシステムの設計・構築に従事。1982年新潟県へ施設課長として赴任し、電気通信設備管理を担当。1987年には、スイス・ジュネーブにある国際機関ITU(国際電気通信連盟)に勤務。1988年米国・MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学し、翌年にMBA取得。2008年NTTコミュニケーションズ代表取締役副社長。2012年NTTコムウェア代表取締役社長を経て、現在は相談役。著書に『ビジネスマトリクス経営』『「働きがい」の伝え方』がある。


言葉を交わして常識のズレを知り、選択肢のひとつにする

海野さんにとって、コミュニケーションにとって必要なものは何だと考えますか。

海野さん(以下、敬称略):言葉こそが一番に大切です。

ただ、言葉ほど難しいものもありません。それに「言霊」ともいいますが、口から出てしまうと戻せない。書いたものなら尚更です。その恐ろしさは、人間関係を良くしていくうえでも非常に気を遣うべきだという自覚は、ずいぶん前から持っていましたね。

社内ブログを続けた過程で、その重要さに気づかれたことがありましたか?

海野:大いにありました。寄せられたコメントを読んだり、ブログをもとに話をしたりして「なるほど、こういったことを考える人もいるのか。それも悪くない」と思う瞬間もある。

他の人の意見は、選択肢や可能性が広がりますよね。

コミュニケーションで最も困るのは、自分の常識が他人の常識と異なることです。どちらが正しいかはわからない。だけれど、どうも世の中の多くは「自分の常識が正しくて、あなたの常識がおかしい」と、だいたい言うわけです。

でも、そうではありません。「あなたの常識もひょっとしたら正しいのかもしれない」と一回は思ってみようよ、と。それは社内ブログで伝えることでも貫いているポリシーです。

─ お互いの常識のズレを認めることで、選択肢の一つとするのですね。

海野:さらに言えば、上下関係の問題にもつながります。会社であれば「どうも部下が言うことを聞かない」なんて上司が言いがちだけれど、「あなたは部下を性悪説と性善説のどちらで捉えていますか」と、社内ブログでも問うた章があります。性悪説が悪いと言いたいのではありません。むしろ、そう思うのが一般的ですらある。

だいたいにおいて、部下は自分より出来が悪いわけですよ。だからこそ上司と部下の関係なわけです。そこで「出来が悪い」とか「言うことが変だ」と感じたときに、指摘したり是正に走ったりするのは性悪説ですね。

これが性善説になると、「部下が変なことを言ってきた。でも、ひょっとしたら将来は自分より偉くなるかもしれないし、彼だって利口なところがある。この言葉には何か真実があるはずで、それを自分が見落としている可能性があるかもしれない。なぜ、変なことを言うのかを聞いてみようじゃないか」と考える。

将来的に両方がWin-Winになるのは性善説なんだと私は思います。ただ、世の中は性悪説が多く、そういう人ほど「自分は立派な指導者だ」と信じているわけです。

─ それならば、彼らは思い直さない。

海野:でも、性善説の方が可能性は広がりますよね?

自分で気づかない限り、性悪説の人はたいてい真面目で、絶対に変えません。そこで私は「もうひとつのチョイスもある」ということを教えないといけないと感じたんです。だからブログにも書いたわけです。

ちょっと寄り道しますけど、あるエアコンメーカーの話をしてもいいですか?

中近東のエアコンがうるさいのは、なぜか?

海野:日本のエアコンの売り文句は「早く冷えて、音が静か」。それこそ技術力の証なんですね。これを中近東で売るべく進出したのですが、向こうでは「音がうるさいのがいい」そうです。だから、わざと音が出るようにしている。

─ 「仕事してる感」があるからですか?

海野:そうそう。あとは「我が家はクーラー持ってるぞ感」が出る(笑)。これが中近東の常識で、日本とは違いますよね。グローバルコミュニケーションの難しさを感じます。

グローバルの話をもうひとつ。ジュネーブにいたとき、息子が幼稚園でケガをしました。担当してくれた女医が息子の頭を押さえながら、僕らに“How do you say Ouch in Japanese?”って聞くんですよ。僕が「痛い」と答えると、女医は「イタイ? イタイ?」と頭を触りながら尋ねていました。

そうやって「コミュニケーションしようとする努力」こそがグローバリゼーションだと私は思っています。

意思を見せることが大切なんですね。

海野:当然、言葉は大切です。でも、まずはその気持ちがないとコミュニケーションはできませんから。

海野さんが書かれていた社内ブログも、内容はもちろんのこと、とにかく継続することで「コミュニケーションを取ろうとしている気持ち」が伝わったのでしょう。

海野:それはありますね。まぁ、続けられた理由の半分以上は意地ですけれど(笑)。

意地なんだけれど、続けた方がみんなのためにもなるし、僕自身の勉強にもなる。良い出会いや気付きがあっても、やっぱり忘れてしまう。書いたおかげで覚えていられますし、引き出しに残るのもすごく嬉しいですね。300本の記事は本当に僕の財産です。

元気がない≒コミュニケーション不足

─ そもそも、どうして社内ブログを始めようと思われたんですか?

海野:第一に、社員の元気がなかった。僕がいたNTTデータという会社は公的なシステムを手がけ、官公庁をはじめとして数多く導入いただいています。この部署は当時、会社の大黒柱でした。

ところがふたつだけ業績が伸びない分野がありました。好調な他事業の収益で帳消しになるので、あまり責められていなかったんです。それをあるとき部署を切り離し、社長から「黒字化せよ」と司令が出ました。とはいえ、前任者も3人ほどいたけれど黒字になったことがない……。私はそんな部署の事業本部長に据えられたわけです。

─ なかなか難しい。しかも3代分を挽回するわけですね。

海野:まず、部署内を見てみると、社員がどうも半分諦めている様子なんです。

「どうせ大黒柱で儲けているのだから、うちは赤字でもいいのでは……」と言っているように見える。でも、心の奥底には後ろめたさがあって、現状の不味さもわかっている。すると、元気がなくなるわけですよ。

普段の業務で何か悪いことをしているような気持ちでいる。発言も少なく、上司に伺いを立ててばかりいる。そうすると新しいことができないし、元気も出ない。就任時、私はその事業自体の知見がありませんでしたから、仕事の中身がわかっていないトップとしては、みんなを元気にすることが一番効くだろうと。それで、社内のイントラネットにブログを載せはじめたんです。

─ そこでなぜ、ブログという手段を取られたんですか?

海野:元気がないのは、上下関係のコミュニケーションがうまくいっていないことと、ほぼ同義なんです。簡単に言えば、ちゃんとコミュニケーションが取れていれば起きにくい問題でもある。

だからこそ、ブログの第1回は「自分の体より大切な仕事は絶対にない」という健康の話にしました。これがみんなから賛同を得て、ちょっと気を良くしたの(笑)。それで、会社を移るたびに、社内ブログの第1回は健康の話にしています。

今いる会社でもそうしたのですが、社長がブログを書くというのは、当社としては画期的でインパクトがあったわけです。当時いた7千人ほどの社員には「読み終わったら、質問でも反対意見で自由にコメントを書いてほしい!」と言いました。すると、産業医の先生が「良いことを書いてくれました」と最初に応えてくれたんです。

─ 先生のお墨付きですね。コメントは実名なんですか。

海野:実名です。私から「匿名はやめよう」と言いました。みんなから意見をもらいたいし、無記名だと炎上することもあるから。返信機能を設けることに反対するスタッフもいたけれど、「どうせ山ほどは来ないから大丈夫だよ」と説得して。やっぱり山ほどはこなかったですが(笑)、もらったコメントは全て返していました。

中には「どうしても海野さんに言いたいことがあるので匿名にしたい」という申し出もありました。名前を出すと上司を批難する内容になってしまうから、と。ただ、一度でも匿名を認めてしまうと後に続くケースができてしまう。その彼に対しては、個別にメールでやり取りすることにしました。

─ オープンなコメントと、クローズな投書で使い分けるのですね。

海野:ただ、彼の意見はブログにコメント機能があるからこそ、吸い上げられたわけです。


▲ブログを手伝ってくれたメンバーを嬉しそうに紹介してくださった海野さん。社員を大切にする気持ちが伝わります。

社員にとっては学びであり、社長と話すきっかけでもある

─ 更新を続けていうえで、ブログのネタに困りそうな瞬間もありそうです。

海野:もちろん。自分の経験や社外で見聞きしたことだけでなく、ネタ探しの方法は色々あります。たとえば、会議や報告を聞いていて矛盾点を見つけたら、「なぜそれが起こるか」をブログで答える。そうするとブログをきっかけに、みんなが会話をするようになっていったんです。

それと、文字ばかりでは飽きるだろうと、アイキャッチのイラストを必ず頭に1枚付けるようにしました。構図のアイデアは私が出せるけれど、描くのは若手社員に頼みました。「イラストを使って楽しくしよう」というのは念頭にありましたね。「楽しく」というのは私のキーワードでもあります。どうせ生きているなら仕事をしなくちゃいけないし、仕事をするなら楽しくやりたい。

私は笑うのが大好きなんですよ。小学校のときに教室で笑いが起きていたら、寄っていって「俺にも笑わせろ!」て言ったことがあるのを今でも覚えています(笑)。だから、ジョークもできれば入れたいんですよ。ところが社員が7千人もいると、頭が堅い人から柔らかい人までいるからさじ加減が難しい。「社長たるもの不真面目なことを書くんじゃない」っていうコメントが来たりしてね……。

─ その調整も続けるなかで見えていったと。記事を拝見すると、最後に一言、海野さんのお気持ちを書かれているところが共感を呼ぶのだろうと思いました。

海野:自分の主観をちょっと書くのがコツですね。ただ、気をつけたいのは常識がいろいろあるということ。AもあればBもあるなら、「私はAだと思います」と言明してはダメ。それでは社員の選択肢を狭めてしまいますからね。ただ、私がなんとなくどちらかに寄っていることはわかるように、ほんわかと書いておく。

内容としては、知っておいてもらうと会社がうまく回るようなことを意識しました。そのほうが、みんなのコミュニケーションが活性化するかなと。

─ 知見が増えたり、海野さんのお考えに触れられたりして、読むことが学びになると。

海野:そうなって欲しいですね。「なるほど! 面白いことに気がつけました」と言ってくれる人がいたら、僕は大正解だと思っているんですよ。

あとは現場と飲み会をやると、ブログの話がウワサになるわけです。以前、某地方支店へ行って飲み会をしたら、定年間近の社員の方が寄ってきて、胸からブログを印刷した束をガバッと出してきて。「ここの意味がわからないんです」なんて、傍線が引いてある。社員が7千人もいると熱心な読者もいて、ゆめゆめ気を許してはいかんなと思いましたね。

─ 社員からすれば、社長と会話をするきっかけになりますね。

海野:それは大いにあります。エレベーターで社員がニコニコ笑って「こんにちは」と言ってくれるのがすごい嬉しいんだけれど、ブログを読んでいるから「身近なおっさん」くらいに思ってくれるのかな、といった期待感はありますね。

2020年以降の日本を生きる、キーワードは「楽しく」

─ 海野さんがインターナルコミュニケーションの必要性に気づかれた瞬間は?

海野:私は社員数33万人の会社に入りました。そうすると社長なんて一生会わない。旧電電公社で社長は「総裁」といって、代々生え抜きが就いていたのですが、一度だけ外部から招かれた人がいました。石川島播磨重工業(現在のIHI)の社長だった真藤恒さんです。

いわゆる社内報みたいなものが配られたとき、表紙に真藤さんの顔写真がドカーンと載っていた。それはすごく珍しいことだったんです。「社長ってこういう顔なんだ」とはじめてわかったと同時に、「社内広報は大事なんだな」ってつくづく思いましたね。僕が30歳ぐらいのときです。民間から来て空気を変えようとした、真藤さんなりの工夫だったんでしょう。

─ 逆に、いまの海野さんから見て、現在の若手たちに対して提言があれば伺いたいです。

海野:NTTという会社の特性でもあるのですが、みんな「いい子」なんです。言い換えると、自分で物を考えないし発言もしない。そうではなくて、自分で考えて、好きなことをやればいい。「その方が楽しいでしょ?」と、ずいぶん言ってきました。

それはもっと大事な姿勢になると思うんです。私は歴史家でもなんでもないですけど、ド素人として感じることはあります。戦後から30年たった1980年代の日本は「海外に追いつくこと」に専念したわけです。そして、実際に追いついた。

「追いつくための努力」と「追いついた後の先導」はやり方が違います。簡単に言えば、追いつくまでは上の言うことを聞いていればよかった。追いついた後は、各人が自分の個性を出さないといけない。でも、それから30年間経っても切り替わっていない。だから、これからどんどん落ちていってしまうかもしれない。

─ 「楽しく」というキーワードは、アメリカ留学の体験が大きいものなんですか

海野:それは結構あるような気がしますね。彼らはスポーツなんかをしていても、「楽しむ」が大前提。でも、日本は苦しめば苦しむほど良いものを得られるみたいな考えがある。それも「追いかける」ときはいいのだけれど、「追い越した後」では……。

─ ちょうど、学校の部活動をめぐる問題も議論されています。

海野:良くないよね。私としては、スポーツ科学で効果的に筋力を増やすようなことは淡々とやって、あとは「楽しく」っていう方が、良いような気がするんですけどね。

僕もやっぱり人生の中で悩んだことがあるわけです。思うような仕事ができないとか、出世がうまくいかないとか。上に立つ人をやっかんだりもしました。でも、ある時から悟ってきたんです。棺桶に足を突っ込んだときに「幸せだった!」と思えたら勝ちなんだと。

「あいつより下だ」とか、「上に立って偉かった」とかではなくて、「幸せだった」と思って死ねたら勝ち。それこそ人生の勝者だ。そのためにも、なるべく楽しいことを増やしたほうがいいですよね。

─ インターナルコミュニケーションだけでなく、生き方に触れる言葉もたくさんいただきました。今日はありがとうございました。

海野:お役に立てれば何よりでございます。

 

Public Relationsは、相手を信じ、自分を信じてもらうプロセス

昨今、リモートワークや、チャットツールの普及により対面コミュニケーションの不足を危惧する声も聞こえてきます。声や表情を読み取れないために、相手のことが理解できなかったり、自分が信頼されないこともあるかもしれません。

しかし海野さんは、声や表情でその想いを伝えていたわけではありません。

Public Relationsは、双方向の関係構築。

違いを認識し、理解しあうよう努力するからこそ成り立つのです。

最先端のコミュニケーションの話をしたり、便利なツールを使ってみることも、とても大切です。しかし、大先輩が教えてくださったことは、楽しむ、相手を理解する、相手に理解してもらうよう努力すること。つい忘れがちなコミュニケーションの基本を、改めて思い知らせてくださいました。

海野さん、本当にありがとうございました。(編集部)

▲海野さんも登壇される「Future of Work JAPAN」が、2018年9/6-7に開催されます。