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“部活動”で乗り越える大企業の壁ーーバスクリン・高橋正和さん

INDEX

大企業――素晴らしい伝統や歴史、古くからの慣習があるからこそ、チャレンジに二の足を踏んでしまいそうな、見えない大きな壁があるイメージ……。

そんな大企業のPRパーソンは、さまざまなステークホルダーとのどのような関係構築で成果につなげ、その壁を乗り越え活躍しているのでしょうか。

今回は1893年創業の津村順天堂を起源とする、資本金6億3188万8500円(平成28年9月30日時点)の、株式会社バスクリン 販売管理部 リーダー、高橋正和さんをたずねました。

彼は、「バスクリン」や「きき湯」という代表的な商品を持つバスクリンの部活動、“バスクリン銭湯部”の発足人。

銭湯巡りや入浴にまつわる社内勉強会などに取り組むことを当初の目的としていましたが、現在では、他社や団体とのコラボレーション企画を運営するまでに……。

2016年には、一人ひとりがイキイキと働くための、職場の取り組みに光をあてる「リクナビNEXT GOOD ACTION」にて表彰され、社外からの評価も得ています。

インターナル・コミュニケーションとして発足した“銭湯部”。しかし、彼の目論見は本当にそれだけだったのでしょうか?

年功序列、堅いイメージの大企業にいる社員間の関係を和らげていったと同時に、社員の“好き”や“情熱”をPublic Relationsに好転換させていったこの部活動の、これまでのお話をうかがいました。

—–

※ここでの大企業とは「資本金5億円以上、または(前身も含める)数十年の伝統や商材・ブランドを有する」と定義します。

 


Profile
高橋 正和さん Masakazu Takahashi
 (写真左)

株式会社バスクリン 販売管理部 リーダー
温泉入浴指導員 スキンケアアドバイザー
1986年生まれ、千葉県出身。2006年、大学生時に起業。神奈川県三浦市のアンテナショップ「なごみま鮮果」を立ち上げ、都内に物産や市の情報を伝えるPR空間をプロデュース。その後、卒業を機にベンチャー企業に入社し、宣伝プロモーションを担当する。2012年、バスクリンに入社。ダイレクトマーケティング部を経て、現在の部署に至る。

ご一緒にお話を聞いた方
石川 泰弘さん Yasuhiro Ishikawa (写真右)

株式会社バスクリン 販売管理部 広報責任者
温泉入浴指導員・睡眠改善インストラクター
食品会社、旅行代理店にてビジネストリップの営業職を経て、1989年、バスクリンの前身・株式会社ツムラに入社。化粧品事業やトイレタリー事業の経営企画を経て、2006年広報を担当。
“お風呂博士”として、イベントや講演を行っている他、著書に「お風呂の達人」「バスクリン社員がそっと教える肌も腸も健康美人になる入浴術26」「たった一晩で疲れをリセットする睡眠術」などがある。


 

立ち上げまでのハードルを越える「社内制度の“利活用”」

― 社内制度である“部活動”が、他社とのコラボレーションを産んでいるというのは、とてもユニークです。なぜ、バスクリンでこのような取り組みをはじめたいと思ったんですか?

高橋さん(以下、敬称略):もともと、19歳の時に、神奈川県三浦市の物産を取り扱うアンテナショップを起業し、地域の魅力を伝えるPR空間を事業化しました。店舗のコンセプト作りから、記者発表、ラジオ出演、販売など一通りの経験をしました。そこで、宣伝・プロモーションについてもっと経験を積みたくなり、卒業後はベンチャー企業に入社し、プロモーションを担当しながら、企業が成長していくプロセスを体験したんです。

そのときに、ベンチャーでできることとできないことがあるのを実感しました。ベンチャーやスタートアップは、トレンドをサービスとしてデザインすることに長けています。一方で、研究にリソースを割くことは難しい。

大学時代、老舗企業のマーケティングを専攻していたこともあり、歴史を持つ企業こそ、新しいものを産み出せば世のなかに良い価値が残せるんじゃないかと思っていました。そんな時、入浴剤のリーディングカンパニーとして百年以上の研究を積んできたバスクリンと出会い、これだ!と思い、転職してきたんです。

― 学生の頃に予見した展望をバスクリンで実現しようと考えたんですね。でも、部活動にする必要はあったんでしょうか?

高橋:実は、ヒントにした活動がいくつかあります。株式会社伊藤園のアイデアソン「茶ッカソン」や株式会社永谷園が生姜を研究する「永谷園生姜部」。二社とも歴史ある企業ながら、社員の熱量が活動の中心にある部分に共通点を感じました。特に永谷園生姜部は、会社の部活動だったのが大きなヒントになりました。

バスクリンの社内制度を調べてみると、部活動制度がありました。部活動では、スポーツや文化的な活動、社員の健康増進や相互交流を図ること、といった規定があり、それなら文化的な活動として、銭湯をキーワードに立ち上げることができると思ったんです。

転職して2年、当時28歳の自分が新しく何かをはじめるとなれば、ハードルは高く感じましたし、現行の制度を上手く利用したのがはじまりです。

学生時代に起業、ベンチャー企業を経験していたからこそ、どうしたらスモールスタートできるか、その術が身についていたのだと思います。

株式会社バスクリン 販売管理部 リーダーの高橋さん

― 大企業や老舗の企業は、新しいプロジェクトの承認までにいくつもハードルがあるイメージですが、“部活動”という既存の制度を利用して、その障壁を越えたんですね。でもバスクリンには入浴剤のほか、育毛剤やバス・キッチン用洗剤といった商品があるなか、入浴にテーマをしぼった理由はありますか? それも、住宅用バスではなく、温泉でもなく、なぜ“銭湯”なのでしょう。

高橋:皆さんの会社にも“ルーツ”ってありますよね? バスクリンのルーツを遡っていくと、そこに銭湯があったんです。住宅用バスが一般的に普及したのは昭和初期。それ以前は、銭湯が一般的でした。バスクリンをはじめとする入浴剤も、もとは銭湯で広まったのがきっかけです。

その原点ともいえる銭湯が、施設の老朽化、経営者の高齢化などの理由で、数をものすごく減らしていることを耳にし、「会社のルーツを守る」という着想にいたりました。

弊社はベテラン社員も多いため、ルーツから入浴について学ぶことを実践していけたら、部署の垣根を超えて、全社の共感を得られる取り組みになりそうだと感じました。社員の思いや会社が大切にしていることを着想のベースにして、新しいことをはじめると、ルーツを大切にしたいという思いが、社内外の共感を生んでいったんです。

― では、いざ部活動にしようと考えたとき、真っ先にアイデアを持っていった相手は誰ですか?

高橋:総務部長です。部活動の承認窓口が総務部だったということもありますが、総務部長も、社員の相互交流を促進したいという思いがあり、今回の企みに共感してくれました。また、2020年に向けて、海外の方から温泉が注目されていくだろうと思い、日本の入浴文化、お風呂の価値を世界に伝えていきたいと思っていました。そんな展望も語り合うことができる人だったんです。

― 部活動であれば福利厚生として制度になっている会社も多いと思いますし、新しいことをやりたいと思っている方にとって、バスクリン銭湯部の活動は勇気づけられるように感じます。社内のスモールスタートから始まった銭湯部は、発足してから多くの発信をされてきたと思うのですが、社外への発信まで視野にいれた理由は何かありますか?

高橋:日本には百年を超える歴史ある会社が多数存在します。研究を積み重ねてきた企業だからこそ眠っている資源があり、もっと新しい取り組みを産みだすべきという想いがあったので、自分ひとりで実現していこうとするよりも、多くの社内外の仲間をつくり、プラス20%ずつでもパワーを割いてもらうことができたら、より大きな成果が得られると思っていました。「部活動なら自分でもできるかも」と思ってもらえる人を増やしたいという想いもあります。

強みを最大に活かし、弱みを補ってくれる「他社との関係構築」

バスクリン販売管理部マネージャー(広報責任者)石川泰弘さん

― 本日のインタビューには、バスクリン販売管理部マネージャー(広報責任者)石川泰弘さんにもご同席いただいています。高橋さんの動きを社内の人間として見ていた石川さんにも、いろいろと質問にお答えいただきたいのですが、その前に、石川さんの略歴をお尋ねしてもいいでしょうか?

石川さん(以下、敬称略):私は、大東通商株式会社と、大洋漁業株式会社(現マルハニチロ株式会社)の出資により設立された旅行代理店に就職しビジネストリップの営業職をしていました。

当時はインターネットも無く、実際には見たこともないことを話すこともあり、次第に目に見える“商品”を販売する仕事に就きたいと感じるようになり、株式会社ツムラに移ったんです。転職後は化粧品の営業をした後、事業企画に携わりました。

ツムラから100%子会社として分社した時、IRという視点から経営企画を理解している人が広報も担当してほしいという話があり、私が経営企画兼広報となりました。その後ツムラから独立する際には、広報のボリュームが大きくなり専任することになりました。

当初は商品であるバスクリンのブランドイメージはありましたが、株式会社バスクリンという企業イメージをもっている人はいませんでした。そのため、単に入浴剤だけでなく、入浴そのもの影響や、睡眠との関係など周辺情報から発信していく必要があり、そのためには「誰か人を立てしまうことが早く成果につながりそうだ」と思い、通常の広報活動をしつつ睡眠改善インストラクターの資格を取ったり、大学院に入学し、スポーツ健康科学の博士号を取得しました。

高橋:旧・株式会社ハドソンにファミコン名人の“高橋名人”っていましたよね。石川は、そのお風呂版の“お風呂博士”です!!

― つまり、ツムラ時代を含めてバスクリンの広報を熟知しているのが石川さんなんですね。そんな石川さんの目から、高橋さんがバスクリン銭湯部を立ち上げようとしている姿は、どのように見えましたか?

石川:バスクリンはベテランの社員も多いですし、研究所や工場、営業所がいろいろな場所にある会社だったので、バスクリン銭湯部を通じて、社員間のコミュニケーションが活発になったらいいなと思っていました。

▲コラボレーションイベント「BP銭湯WEEK」の様子 (写真提供:株式会社バスクリン)

 

― 高橋さんは、石川さんの目から見ても、コミュニケーションに係る成果を期待できるような取り組みとしてバスクリン銭湯部を立案されていたんですね。それが、社内ばかりか社外とのコラボレーションを産む取り組みになっているのは、プラスαの成果ですね。具体的に、他社とのコラボレーションはどのような内容でしょうか?

高橋:たとえば、朝日新聞社の“毎日血圧を測って健康な生活を送ろう”という「BP365運動」にバスクリンが賛同している縁で、同じく賛同しているオムロン ヘルスケアをはじめとした企業の協賛を得て、「BP銭湯WEEK」というコラボレーション企画に取り組みました。私は「若手広報担当者の会」という会で会長をしておりまして、そこでオムロン ヘルスケアの広報担当者と知り合い、「健康つながりで何かできたら」という話から、この企画は動き出したんです。

このコラボレーション企画に参加した人たちは、血圧に関心を持つご夫婦やご家族でした。入浴前後にオムロン ヘルスケアの血圧計を利用してもらうことを前提に、「きき湯」を溶かした銭湯に浸かってもらったんです。

石川:ちなみに、お風呂に入ると血圧上がると思っていませんか?

― 思ってました!!

▲コラボレーションイベント「BP銭湯WEEK」の様子 (写真提供:株式会社バスクリン)

 

石川:お風呂に入ると血管が緩むから、血圧は下がりますし、血流もよくなるんです。このイベントは、入浴後は血圧が下がるという体験をしてもらえる内容なんです。来場してくださった方々も、血圧は大事だとわかっているけどそれを測る習慣はなかった人が多かったので、伝えがいがありましたね。実際に体験していただいたり、説明を聞いていただくと、浴室から脱衣所に出た際の体温と室温の差に注意することが大事、といったポイントを含めて納得いただけました。

高橋:入浴剤で標榜できる効能効果は法律で定められているので、バスクリンだけでは、血圧に関するイベントは開催すら出来なかったと思います。でも、オムロン ヘルスケアと一緒に取り組むことで、入浴の健康効果を消費者へ伝えることができました。そして、オムロン ヘルスケア以外の他社とコラボレーションすれば、入浴にまつわる別の効能を伝える取り組みも実施することができるというヒントを得ることもできたんですよ。

▲コラボレーションイベント「BP銭湯WEEK」の様子 (写真提供:株式会社バスクリン)

 

― オムロン ヘルスケアにとっても、日常の一部としての入浴に自社製品がひもづいていることを伝える機会になっていて、両社が強みを活かし合ったり、弱みを補い合う関係構築になっていますね。企業とのコラボレーション以外にも、そのような特徴を活かし合う関係構築になった事例はありますか?

高橋:世田谷区の銭湯「そしがや温泉21」の中に図書館をつくった「銭湯ふろまちライブラリー」があります。国立国会図書館のウェブサイトでも紹介してもらえて、司書の方々からたいへん喜ばれました。

このライブラリーは、銭湯と図書館を見ていて“人をつなぐ”という共通点があることに気づいたことがきっかけで産まれたんです。どちらも、人が集まってくる場所。でも、入浴や読書という機能に特化するあまり、利用者が減ってきています。

そこで双方を掛け合わせたら何か反応が起こるんじゃないかと考えました。結果として、お子様連れのお客さんにも、銭湯の待合室に絵本があることは利点になったようで、お子様を連れて通いたくなったという反響を少なからず聞くことができました。

バスクリンには「ソフレ」という赤ちゃんと一緒に入れる液体入浴剤があるので、ほかの銭湯でも銭湯ふろまちライブラリーを広げていけたら、子どもたちにもバスクリンを知ってもらう新しいきっかけづくりにもなるんじゃないかと思います。

― このような事例から、バスクリンのこれまでの広報活動をよく知る石川さんは「バスクリン銭湯部」がどんな成果を残せていると感じていますか?

石川:新しいタッチポイントを増やせていることは、成果だと思います。昔と異なり、世の中に見てもらえる機会は広ければ広いほどいいですから。

正直に話しますと、若い人たちにとって、バスクリンって馴染みの薄い企業なんです。「きき湯」は知っていても、バスクリンは知らないという人は多い印象ですし「バスクリン」という入浴剤を使ったことがない人たちも増えているのが現状です。だから、バスクリンを知らない人たちにバスクリンをわかってもらえるのは、バスクリン銭湯部のいいところだと思います。

大企業であるがゆえに新しいことには否定から入ってしまいがちな社風を超える、関係構築上の留意点とは?

▲銭湯部のメンバーと銭湯へ (写真提供:株式会社バスクリン)

 

― さきほど、バスクリン銭湯部は総務部長(写真右)にアイデアを持っていくことからはじまったとお聞きしました。しかし、その時点では、高橋さんを含めてまだ2名しかいません。部活動と呼ぶには人数が少ないと思うのですが、どのようにして立ち上げ時の仲間づくりをしましたか?

高橋:総務部長を巻き込み、どのように広めていこうか、カレー屋さんでランチミーティングを重ねました(笑)。そのとき、もうふたりぐらい仲間をつくれば部活動という格好が付くという話をして、社内で部員を探したんです。

たとえば、ぼくと同年代の営業担当にプライベートで温泉ライターをしている社員(写真中央)がいました。彼は、湯治をはじめ1,500箇所の温泉に入った経験を持ちながら、営業上でその知識を活用できていないようだったんです。それはもったいないことじゃないですか!

だから、彼の活躍の場として銭湯部を使ってもらえないかと考えました。部員で銭湯に行ったら、彼がウェブで魅力を発信していく。そんな風に、社員一人ひとりが活躍できる場所として活用できるように意識して部員を増やしていきました。その後、グループ社内報でバスクリン銭湯部について発信し、社内で「そんな部活動があったのか!」という反響を得られたときには、ニヤリとしましたよ(笑)。

― グループ社内報にバスクリン銭湯部が掲載されたとき、石川さんはその様子をどのように見ていたんですか?

石川:みんなグループ社内報に出たときは、「ああ、やってるねー」という感じで見ていたんですね(笑)。でも、実際にバスクリン銭湯部が活動をはじめた時は、うちの会社もご多分に漏れず、否定から入りました。実際に自分もどうなるのかなって一歩引いて見ていたんですよ。

ただ、もし否定されたとしても、ひとつ成功事例さえつくってしまえば、あとは何をやってもOKになっていく社風はあるんです。そういう社内の特徴とうまくコネクションをつくったのは総務部長です。彼がうまく調整してくれた印象があります。

銭湯部の活動のひとつ、社内勉強会「バスクリン大学」は良いプロジェクトだったと思います。部署や年齢の垣根を超えて、学び合う場なので、ベテラン社員が若手社員にバスクリンや入浴について伝えるという、これまでにない機会になりました。

高橋:バスクリン大学は、60歳近い社員を“先生”として迎えて、若手が学ぶ講義なんです。これまでバスクリンを守ってきてくれたのは、そういうベテラン社員なので、その思いを伝承する場がつくれたんじゃないかと思います。

― 新しいことを受け入れる前に、まず否定から入るというのは、日本の老舗大企業の典型なイメージです。それはもちろん、大企業としての責任を担保する意味合いが強い結果、そういう慣例ができあがっているんだと思うのですが、成功事例をつくるまでのあいだは、どのような工夫をして、部活動を育てていったんでしょう?

石川:まず言えるのは、バスクリンの40代以上の社員は、ツムラ時代に医薬品関係とのバランスを取ってきた経験があるんですね。入浴剤も医薬部外品に該当しますので、法律で定められている部分も多く、派手なことをしない傾向にありました。

高橋:それは安心安全なものづくりをしていくうえで重要なこと。新しいものは度重なる検証を経て導入するんですね。前職、現職で、宣伝・プロモーションを担当していたこともあり、薬機法や関連法令について詳しかったことも功を奏しました。バスクリン銭湯部で外部に発信していく際、どうすれば魅力をアピールできるか。どういう風に伝えてしまうとNGになってしまうのか。そんな視点からバランスを取っていきました。

とはいえ、良い意味でも悪い意味でも、立ち上げた時期に反発が起きるのは当然だと思っていました。そういう反響のうち、受け止めることと、受け流すことを見分けて改善していきました。あとは、新聞のような社外のメディアで評価されることを利用しようと意識していました。

「へぇな会社」というコーナーでバスクリン銭湯部が紹介されたときは、社内の雰囲気が一気に変わりました(笑)。夕刊に掲載されて、翌日、ぼくの机には新聞がたくさん置かれていました。

「記事を読んだよ!」と声をかけられるなか、メディアに社内の取り組みが評価されると、社員が喜ぶことを実感できました。そんな中、品質部門の室長から掛けられた言葉に励まされたんです。

「バスクリン銭湯部は、バスクリンにふさわしい活動だね」と言ってもらえて……。

時間を掛けても変えずに活動していこう!と思えましたね。リクルートの「GOOD ACTION」賞を受賞できたことも大きかったように思います。

部活を育むことが、広報の糧になる

― ときに励まされながら、高橋さんがバスクリン銭湯部を育てていこうと思えていたのは、なぜでしょうか? いち社員の観点で考えたら、社内評価を意識して事業にまつわるアクションを起こしていきたいはず。部活動はあくまでも福利厚生の一部で、売上に直接関係することではありませんよね。

高橋:まず、社内にある熱量を活かしたいと思っていたからです。転職して入ってきた立場から、バスクリンの社員が熱心に研究する様子を見てきました。研究の話を聞くだけでも、すごいおもしろい。そんな思いは良い資源だと感じていたので、うまく活用したいと思ったんです。

また、活動をしながら、社外からの応援も増えてきて、この活動は財産になると感じました。長く続いてきた会社だからこそ、瞬間風速だけでなく、バスクリンという会社の未来を考えたときに必要な活動だと思いましたね。

― ここまでバスクリン銭湯部による、社内・社外の関係構築について伺ってきました。先にご紹介いただいた事例を見ても、バスクリンが保有する魅力を消費者とつなぐ架け橋が上手につくれていることはわかります。

ただし、このような部活動を通じたPublic Relations施策を実践しているのが、マーケターの高橋さんだということに疑問は残ります。なぜ、販売管理やマーケティングを担う立場で、これらの数多くのPublic Relationsに取り組んでいるんでしょうか?

高橋:これは大学生の頃に教授から聞いた言葉の受け売りですが、マーケティングの定義って「お客様を笑顔にする“全て”の活動」だと思うんです。そういう考え方を前提にしているので、広報に通じるような着想まで得られているんだと思います。

入浴を通して、健康促進や明日の活力を産み、ひいては世のなかを良くしていくことにバスクリンは貢献できると思うんです。だから、販売管理やマーケティングを担当しながら、PRパーソンとしても動いているんですよ。

石川:バスクリンという会社を遡ると、津村順天堂に行き着きます。創業者の初代・津村重舎はPublic Relationsの天才と呼ばれている人でした。

有名な挿絵画家を起用して、銭湯を経営する年齢層の高い男性たちが手に取りたくなるパッケージを考えたり、新聞に懸賞を出したりするような施策を、明治時代にすでに実践していたんです!すごいアイデアの持ち主だと思いませんか?

― つまり、バスクリンには明治時代から経営やセールス&マーケティングとPublic Relationsを掛け算する社風が根付いていたんですね。そんな系譜のなかに石川さんがいたり、高橋さんが出てきたりするというのは、そのまま会社の文化を醸成することにもつながっていて、とても興味深いと思いました。そこで最後の質問なのですが、今後はどのような取り組みをしていきたいと考えているのか、バスクリン銭湯部の展望を教えてください。

高橋:お風呂文化を世界文化にする、というビジョンはありますが、本音の展望を話すとふたつあります。ひとつは、このようなアクションを起こす企業が増えてほしいです。

同じような取り組みをする企業が増えていくと、結果的にバスクリンにも何かが還ってくると思っているんです。そして、もうひとつはバスクリン銭湯部で培った風土を事業のプロモーションやPublic RelationsのDNAにすり替えていきたいと思っています。部活動の取り組みで経験した、ノウハウやPublic Relationsを、これからは事業の中心で活かしていきたいですね。

Public Relationsは自分次第

大企業ゆえに保守的なバスクリンに、摩擦なく社員を巻き込み、どんどん新しい風を吹きおこしている高橋さん。とても楽しそうにPublic Relationsを語ってくださいました。

お風呂博士と銭湯部発起人。自らのアイディアを使い、自ら大企業の壁を乗り越えたふたりのPRパーソン。

先輩と後輩でありながら、師匠と弟子のような、同士のような、ライバルのような……。切磋琢磨、おふたり各々のPublic Relationsを体現し、初代の津村重舎さんイズムを自然と受け継ぎながら、大企業の壁を乗り越えていました。

部署や役職は関係ないーー。今自分がいる位置で、何を軸にどうしたいか。

Public Relationsは自分次第。どう楽しみ、どう人を引き寄せ共感を得られるか。明日から実践できるチャンスを、みんなが持っているのかもしれません。(編集部)